ホワイトカラーが従事する左脳型の仕事が,一桁違う安いコストでアジアで行われるようになりました。

 アメリカの産業は,モノ作りは中国,IT産業はインドへと発注先をシフトし始めています。クオリティがアップし,アメリカ人とほぼ変わらない優秀な頭脳を低コストで使えるようになったからです。ブロードバンドのおかげで,距離の問題もありません。先進国のナレッジワーカーは,海外に委託できないような新たな能力を身に付ける必要に迫られています。

 まるで,ブルーカラーの労働者がロボットに職を奪われてしまったのと同じようなものです。コンピュータには上手にこなすことができない能力を新たに身に付けなくては淘汰されてしまう——そういうことが危惧されはじめています。

これからはクリエーティブな感性が必要とされる

 この話は「ハイ・コンセプト」(ダニエル・ピンク 著,大前研一 訳,三笠書房 発行)に書かれていて,興味深く読みました。

 アルビン・トフラーの「第3の波」が発行されたのが1980年ですから,もう26年にもなるのですね。「第3の波」は,第1の波の農業社会,第2の波の産業社会がきて,この次は第3の波の情報化社会が来るぞ!というお話でした。

 一方,この「ハイ・コンセプト」には,第4の波のコンセプチュアル社会,つまり既成概念にとらわれない新しい視点から,新しい意味づけを与える社会がやってくるぞ!ということが書かれてあります。翻訳をした大前氏がトフラーとマブダチで,邦題を「第4の波」にして良いかどうか本人と侃々諤々(かんかんがくがく)の議論をしたというのだからすごいです。

 それはともかく,本書には「資格や知識を持っているだけではダメで,クリエーティブな能力が必要とされる場面がこれからどんどん多くなる社会や産業になる。そのためには右脳を鍛えるべく“六つの感性”を磨く必要がある」と書かれています。

 「六つの感性」の一つ目が「デザイン」であり,機能だけではなく,感情に訴えるものを創ることが大切にされるようになるので,デザインに関して明るくなりましょう,とあります。デザイン作業は,コンピュータも自動的にはできないし,アジアの途上国に低コストで発注することもまだ考えられていません。物質的なニーズが満たされた後は,美しさや感情面を重視する傾向が強まるとのこと。前回お話しした,デザインに力を入れる企業が大きく伸びていることもうなづけます。

右脳と左脳をバランスよく鍛えよう

 だからと言ってエンジニアはやめてしまい,デザイナーになろう,ということではありません。イノベーション,クリエーティブ,プロデュースと言ったキーワードにかかわる能力を開発していくべきだと私は思うのです。自分でデザインの絵が描けなくとも,デザイナーとうまくコミュニケーションして,プロデュースすることはできます。そういった能力を開発するために「六つの感性(デザイン,物語,全体の調和,共感,遊び心,生きがい)」を磨いていくべきだと考えます。

 私たちデザイナーも,この六つの感性を磨き続けることが必要です。しかしそれと同時に,「ロジカルシンキング」や「分析能力」も身に付けなければならないと感じています。つまり,これからの世の中で豊かに生きていくためには,右脳と左脳の両方を鍛えなければならないと思うのです。

 毎日の怒濤の忙しさの中で,どうやったらそんな能力を開発し,鍛えることができるのか!? 忙しいからできませんというのは,スティーブン・R. コヴィー著の「7つの習慣」にもあったように,のこぎりの刃がボロボロになって切れなくなっているのに,「木を切るのが忙しくて,刃の手入れなんかやっている暇がないんだよ!」とおっしゃる木こりさんを思い出します。

 やり方をイノベーションして,プロデュースしなければ,クリエーティブな新しいことはできませんね。


「ハイコンセプト」には,この六つの感性を磨くためのワークスタディが紹介されています。
やってみると楽しそうなものもたくさんあります。