筑波大学の端末室。情報学類では120台のMac,Windows,Linuxマシンが使えます。
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 ITproで連載していて面白いのは,読者の反応がわかることです。参考になったかどうかの投票結果やいただいたコメントは,励みになっており,今後の記事に生かしていきたいと考えています。今回は,3月に掲載した「Skype支えるP2Pは善か悪か」の回でいただいたコメントにお答えしたいと思います。

 いただいたコメントは,「なんの定義もなく漠然とP2Pという表現を使うのはいかがなものかと思います。せめてピュアか否かぐらいの区別はつけましょうよ」というものでした。たしかに私の記事では,PureP2PとHybridP2Pという分類をしていませんでした。ただ,これには理由があります。別の分類法があると思っているからです。

 まず,P2Pの「Pure」「Hybrid」という分類から説明しましょう。P2Pを利用しているサービスや技術の中には,ほぼすべてでP2Pを使っている「PureP2P」と,一部だけで利用している「HybridP2P」があります。PureP2PにはSkypeなどが該当します。一方,HybridP2Pでは,相手を探す検索処理はサーバーなどで集中的に実施し,転送処理はユーザー同士が直接やり取りします。SIPが代表例です。

 整理するために,縦軸が検索方式,横軸が転送方式で図を作ってみました。すると,PureP2P,HybridP2Pのほかに,2種類の方式が浮かび上がってきます()。1つは左上の検索も転送も集中型。これはクライアント・サーバー・システムで,P2Pとは呼びません。もう1つが,左下の検索はP2Pで,転送は集中型という方法です。一部でP2Pを使っているので,P2P方式の一種と見てよいはずです。

 ところが,この新しい方式をP2Pと呼ぶ人はあまり多くいません。検索処理はP2Pよりも集中型の方が向いていると考えるのが一般的で,使い道がないという見方が多かったからです。たしかに今の時点では,検索エンジンなどの検索システムの主流は集中型です。

 もっとも,未来の検索は形を変えるのではないでしょうか。例えば,自動的に自分が好きそうな曲を選んでくれる未来のシステムを考えてみてください。ユーザーの趣味を調べたり予想したりするような処理は,コンピュータの計算量が非常に膨大になります。数多くのコンピュータで分散処理できるP2Pの方が,向いているのではないでしょうか。

 一部ではすでに採用する動きがあります。「Indy」というP2P音楽情報共有ソフトは,新しいP2P方式を使ったシステムです。Indyはユーザーの趣味を認識し,ほかのノードと協調して動作することで,ユーザーが好きそうな曲情報を検索します。簡単に言えば,同じ趣味を持つ人を探して,その人が好きな音楽を紹介するようなイメージです。この検索結果を基に,アーティストのWebサイトから音楽をダウンロードします。

 Indyの仕組みは,「友達に薦められた曲を聞いてみる」という現実に近いモデルです。また,曲をダウンロードするのは,アーティストのWebサイトなので,P2Pで問題になりがちな著作権の問題がクリアできます。Indyは一例ですが,今後こうしたサービスやシステムが主流になるのではないかと思います。