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 「うまい! うまい!」と元気に駅弁をかきこむシゲちゃん。ご当地名物「井筒屋のステーキ弁当」だ。私たちは、JR北陸本線で福井県鯖江市に向かっている。この地名を聞いただけでピンと来た人もいるだろう。そう、シェアウエアのテキストエディタとして絶大な人気を誇る「秀丸エディタ」の作者である斉藤秀夫(通称:秀まるお)さんに会いに行くのだ。プログラマの間では超有名人であり、私にとっても憧れの人物である。目的地が近づくにつれ、心臓がドキドキしてきた。シゲちゃん、よろしく頼むよ。

秀丸エディタをコンパイルしたマシン

 鯖江駅に着くと、斉藤秀夫さん本人が車で迎えに来てくれていた。おお! この人が、あの有名な...。挨拶の言葉がつまるほどの感激である。斉藤さんは、Tシャツ、ジャージ、サンダル履きと、実にリラックスした服装をされている。スマートながらガッシリした体格、プログラマと言うよりスポーツマンというイメージだ。

 駅から数分で有限会社サイトー企画のオフィスに到着する。ここで、秀丸エディタが作られているのだ。中に入ったとたん「師匠、オモチャが一杯ありますよ。わぁ~い、遊んじゃおうかな」と、はしゃぐシゲちゃん。だめだぞ、勝手に触っちゃ。斉藤さんのお子さんが、ときどきオフィスに遊びに来るそうで、ジャングルジムや滑り台などの遊具が所狭しと並べられていた。とっても優しいパパさんなのだ。

 秀丸エディタをコンパイルしたマシン(もちろん現在も使っている)は、オフィスのほぼ中央に、さりげなく置かれていた。パーツを組み合わせて作られた無印のDOS/V機だ。ふだん私たちが使っているマシンと何ら変わりがないはずなのに、まるで違うもののように見えた。なんたって、このマシンであの秀丸エディタがコンパイルされているからだ。思わず手で触れてみて感激! Visual C++ 5.0(旧バージョンのWindowsでも動作するように、あえて古い開発環境を使っているそうだ)の統合開発環境の中に、何かのソースコードが表示されている。これって、もしかして? やっぱり、秀丸エディタのソースコードだ。感激! 感激! 秀丸エディタを起動してもらい、"Hello World" や自分の名前を打ち込んでみた。またまた、感激!

 こういう例えは変かもしれないが、まるで秀丸神社を参拝するような気持ちだった。「プログラムがもっと上手になれますように」「大ヒットするシェアウエアが作れますように」このマシンに手を合わせれば、いろんな願いが叶うような気がした。「師匠、秀丸神社参拝記念に何かもらいましょうよ」と言うシゲちゃん。不躾ながら頼んでみると、斉藤さんは快くサイン入りのマウスとキーボードを提供してくれた。私がもらいたいところだが、涙を呑んで日経ソフトウエアの読者にプレゼントすることにした(すでに当選者に発送済み)。

アイドルにミーハーな質問

 秀丸神社を参拝(?)した後は、いよいよ肝心の質問タイムだ。私とシゲちゃんは、せっかくお会いできたのだからと様々な質問を投げかけた。斉藤さんは、一つひとつ嫌な顔せず丁寧に答えてくれた。まずは、アイドルに聞くようなミーハーな質問から行ってみよう。きっと斉藤さんの人となりが見えてくるだろう。

Q:趣味は何ですか?
A:最近は、バトミントンと卓球をしています。もう趣味ではプログラミングしません。
Q:好きな食べ物は何ですか?
A:う~ん、クリームパンとお茶です(なんじゃ、そりゃ!)。
Q:好き嫌いが多い方ですか?
A:無いと思いますが、お刺身は嫌いです。コストパフォーマンスが悪いから。
Q:好きな言葉は何ですか?
A:え~と...、「コストパフォーマンス」ですね(笑い)。
Q:苦手なことは何ですか?
A:誰かを叱るのが苦手です。自分が落ち込んじゃうからです。
Q:東京へ進出しようと思わないのですか?
A:思いません。ここでも不自由はないし、東京はコストパフォーマンスが悪いから。
Q:秀丸エディタが大ブレイクしたことで、何か変わったことがありますか?
A:自分自身は何も変わってないです。高級車を買おうとも思いません。

 斉藤さんは、ご自身のことを「セコイ人」と謙遜されていたが、決してそんなことはない。とにかく、真面目な人、堅実な人、学級委員長にしたいような人なのだ。Q&Aを見ると饒舌な人だと思われてしまうかもしれないが、実際には口数少ない職人さんという感じだ。身のこなしも、実にテキパキされている。

プログラム職人の誇りを見た

 ようやく緊張感がほぐれてきた。ここらで、プログラム職人の核心に迫る質問をぶつけてみよう。秀丸エディタの作者には、きっと普通でないスバ抜けた感性があるはずだ。

Q:コンピュータのどこが好きですか?
A:コンピュータ本体ではなく、プログラムを作ることが好きです。使うことに興味はありません。ゲームで遊んだりしません。Windowsの使い方も詳しくありません。
Q:プログラムを作る楽しさとは何ですか?
A:機能を実現する方法を考えることです。
Q:一番好きなプログラミング言語は何ですか?
A:いろいろな言語の経験がありますが、やはりC++ですね。ソースコードを見て、マシン語のコードをイメージできるからです。秀丸エディタもC++で作られています。
Q:どうやってプログラミングをマスターしたのですか?
A:はじめは、NECのPC-6001(8ビットパソコン)に添付されていたBASICマニュアルで勉強しました。その後は、雑誌記事を見てアセンブラを勉強しました。参考書は、あまり買いません。本で勉強するのでなく、とにかくプログラムを作って勉強するべきです。
Q:秀丸エディタを作るときに、既存のエディタを研究しましたか?
A:いいえ。秀丸エディタは、まったくのオリジナルです。
Q:プログラムを上手になるにはどうしたらよいですか?
A:他人に聞かないで、自分で考えること。プログラミングとは、考えることだからです。

 うお~っ! 「プログラミングとは考えること」この言葉は、実に素晴らしい。さすが、オリジナルのプログラムを作れる人は、根本的に考え方が違う。さすがだ! 参った! またまた、感激だ!

 斉藤さんは、現在では秀丸エディタを完全にスタッフに任せ、ご自身は「鶴亀メール」というメールソフト製品のサポートに専念している。ユーザーから、「こんなに丁寧なサポートをしてくれるシェアウエア作者はいない」と言われるほどだそうだ。製品のサポートだけでなく、どんなことでも頼まれたら断れない性格なので、町内会の行事にも積極的に参加しているとのこと(そう言えば、ちょうど取材中に町内会費の集金人が来た)。そのため、なかなか新製品に着手できないのが悩みの種だそうだ。

 「秀丸エディタの正規表現機能は、よくできてますね! 師匠のクセだらけの原稿を編集するときに便利なんですよ~」というシゲちゃんの言葉に、斉藤さんの目が輝いた。最初は、他人が作った正規表現ライブラリを使っていたが、ちょっとできが悪かったので、自分で作ることにしたそうだ。「どうせ作るなら、世界で一番速い正規表現ライブラリにしてやるんだと思いました」と語る斉藤さんから、プログラム職人の誇りが感じられた。