CRM実践の機会は,ユーザーが触れるソフトの機能に大きく左右される。ソフトに使いやすい適切な機能が組み込まれていれば,ユーザーは自ずとCRMを実践し,“CRM的な”ものの見方や考え方を自然な形で身につけるようになる。それはIT分野はもちろん,日本全体の市場を底上げするはずだ。

履歴管理の考え方を奪った機能制限

 コンタクト・トラッキング&マネジメントのためには,コンタクト(接触)そのものを記録する必要がある(関連記事:CRMの要,コンタクト・トラッキング&マネジメントを理解する(1))。

 コンタクト・トラッキング&マネジメントは,日本と米国では異なる普及の歴史をたどった。例えば,パソコンに内蔵されたり,外付けされるダイヤルアップ用のモデムの機能を見るだけでも,その歴史の違いを確認できる。

 1990年代の初め,米国で売られていたモデムは,基本的には「Voice-Fax-Modem」だった。だが,その頃に日本で売られていたのは「Fax-Modem」だった。ハードウエア製品としては違いがなかったが,提供されているソフトウエアが違っていた。つまり,日本向けには,Voice機能のないソフトウエアが提供されていた。

 この結果,日本のパソコン利用者の大多数は,パソコンで音声通話ができて,しかも録音(記録)が作れるということを知らないままに過ごしてきた。つまり,「コンタクト」の4種類---手紙,電子メール,ファクシミリ,通話---の重要な要素である通話が欠落したまま,時を過ごしている。

 2000年代を迎えたいま,CTI(コンピュータ・テレフォニー・インテグレーション)は極めて進化している。コンタクト・センターのIP化が進展したことで,音声とオペレータによる端末操作の内容をシンクロさせ,顧客とのコンタクト記録を半自動的に作成することも可能になった。つまり,以前は相当の手間をかける必要があったコンタクト記録の作成は,以前とは比較にならないほど容易になっているのである。

 履歴作りが容易になれば,おのずとその履歴の分析や推測を始める。ユーザーは自然に“CRM的発想”を体験することになるだろう。

なぜか日本語版だけがないOutlookのCRM向けアドイン

 これまで私は日本でCRMを根付かせるためには,「Business Contact Manager」と「ACT!」日本語版の登場が必要だと主張してきた(関連記事: いまだ“出だし”でつまずいている日本のCRM)。

 Business Contact ManagerはOutlookのアドイン・ソフトである。北米で投入されている「Outlook 2003」にはバンドルされている。詳しくはこのURLを参照していただきたい。

 米MicrosoftのWebページ「Business Contact Manager Update」を注意深く読むと,Business Contact Managerが18の言語で提供されていることも分かる。ロシアだとか,ブラジルだとか,ポルトガルだとか,さまざまな言語で使うことができる。にもかかわらず,日本語版は用意されていない。

 「ACT!」が日本市場から消え,マイクロソフト日本法人がBusiness Contact Managerの日本語化を断念したことで,日本ではコンタクト・トラッキング&マネジメント---つまりCRMの基本に触れる機会が大幅に減ってしまった。対する米国では,コンタクト・トラッキング&マネジメントはさらに広がりつつある。