このコラムのタイトルには,「エンジニアのための」という言葉がくっついていますが,エンジニアの皆さんにデザイナーレベルのデザインの技術やノウハウを身に付けていただくということではありません。エンジニアの皆さんに,少しでもデザインに関して興味を持っていただければと思っています。

 それは,デザインとテクノロジーは深い関連があるからです。メカニックを収めるパッケージやテクノロジーを使用するときの視覚や触覚によって,高い付加価値が付けることができるからです。

 例えばアップルコンピュータや日産は,デザインの力で息を吹き返したと言ってもよいのではないでしょうか。おにぎり型のiMacで,それまで虫の息だったアップルが復活し,今ではiPodで世界を覆うまでになりました。MP3プレーヤーそのものはiPod登場以前からあったのに,iPod独特のデザインと性能が売り上げに貢献したわけです。電車の中で,大勢の人が白いイヤホンをしていますもんね。

 日産の復活も同様です。リストラや厚木工場の閉鎖など大鉈をふるった成果もあったと思いますが,リストラしたからと言ってイメージが良くなったり,車が売れるようになったりはしません。やはり車のデザインが良くなったのが大きいのではないでしょうか。ゴーンさんも「日産を立て直すためにはデザインの力が重要である」とはっきりと言っています。サムスン電子や任天堂なども,以前は冴えないイメージでしたが,高いテクノロジーと先進的なデザインでイメージが良くなってきている企業です。

 このように,技術とデザインは切っても切れない関係にあるのです。ですから,エンジニアの皆さんも,もっとデザインに関心を持っていただき,自分の技術がどのように使われるのか,どのような形のケースに収められ,どのようなインタフェース・デザインで使用されるのかを考えてみてください。

 技術を生み出す立場のエンジニアの人にしかイメージできない,デザインの世界もあるかもしれません。そのイメージを,表現する立場のデザイナーに上手に伝えられることができれば,きっと良いものができるような気がします。

 これからの世の中,物質的に豊かになって,ますます物があふれてゆくと思いますが,そうなると,デザインは「付加価値」ということではなく,なくてはならない価値になっていくと思います。「デザインされていて,当たり前。されていないのは論外」という社会が来るかもしれません。最近やっと,そんな気配が感じられるようになったのですが,どうなのでしょうかね? 一過性の物でなければよいのですが…。


しかし,新しい技術が出てくると,デザインなんかださくてもかまわないという時期もあります。Google Mapの前では,インタフェース・デザインなんか気にならないですよね。でも,同じ技術でデザインが良いサービスがあったら,やはりそっちを選んでしまうでしょう。