2007年問題をはじめ、ITプロフェッショナルの不足が心配されていますね。オフショアをはじめとする外国の労働力とともに、女性の活躍がこの業界でもこれまで以上に期待されています。わたくしにも「これまで仕事を続けてこられたのは、女性にとって働きやすい制度などがあったのですか」と質問されることがよくあります。

配慮されていました

 仕事をはじめた頃、わたくしが働いていた職場では、女性の深夜勤務を禁じるルールがありました。システムトラブルの発生時など、大至急の対処が必要なことがありますよね。例えば夜に問題が発生したら翌朝までに復旧させるとか。電話がジャンジャン鳴り、皆立ち上がって殺気立っているような状態。そのなかを、女性だからということで、気になりながらも現場を後にしていました。

 そのおかげで、大きな開発プロジェクトのメンバーだった期間も、深夜にタクシーでの帰宅とか、突然朝帰りとか、机や床で眠るとか、そのような事態になることはありませんでした。女性で特に「体力に自信がない」とか「家族としての役割を担う」というひとにとって、このルールは仕事生活の阻害要因を減らすのに役立っていたといえるでしょう。

 ところで、数年に亘ったその開発では、初めての技術を用いていたこともあり、開発やテストで問題が発生する度に、状況や対処法を共有するため「報告会」が行われていました。その場には、問題発生時は深夜にも対応する必要があるということで男性が参加し、男性メンバーの間で様々な知恵やノウハウが蓄積されていきました。その間、「男性は大変そうだけど面白そうなことをしているなぁ」「でも組織として役割分担して進めているんだし、私達もがんばらなくちゃね」と、女性メンバーは製作を進めることに専念していました。

後から大変なことに

 その後システムが完成して保守フェーズになり、メンバーの何割かが別のプロジェクトに移りました。残ったわたくしは、ひとつのチームでリーダーを担当することになりました。新米リーダーを見守ってくれる上司はもちろんいたのですが、チームとして担当する領域に何かが起これば、まずは自分が判断して対処しなければならないという大きな責任を感じました。そこで最初に困ったのが、急なシステムトラブルでした。

 なにぶんそれ以前は、事実上男性の仕事とされ、女性のわたくしには経験がなかったものですから、リーダーを拝命したからといって、いきなりできるはずもありません。その頃にはまた、女性の深夜勤務を禁じるルールもなくなりました。「長く働くつもりなら初めから申し出て勉強するべきだ」とのお叱りもあるかもしれませんが、あとの祭りです。経験のある男性メンバーに、先輩後輩を問わず「大変申し訳ないのですが」と個別にお願いをして、定時後などに知識や方法を教わりました。初めは自信のなさから、本番のトラブル時には、男性ばかり殺気立つなかで声も小さくなりがちで「何言ってるかわからないんだよ!」と怒鳴られるようなこともあり、教えていただきありがたいのと同時に、迷惑をかけ情けない気持ちにもなりました。

性別でなく、一人ひとりが独自の存在

 「女性は~しなくてよい(~しなさい)」とするのと、「生活上の事情に関係なく、男女とも一律の働き方を求める」とするのと、どちらが働きやすい環境だと思われますか? そもそも、そういう問題でしょうか。

 体力や健康状態は、男女に関わらず一人ひとり異なるもので、男性にも無理のきかないひともおられるでしょう。また、家庭生活も女性だけにあるものではなく、男性も家族の一員ですよね。職場の一員であると同時に、家庭の一員、地域の一員、自分自身のための自分etcそれら全部をひっくるめて、わたくしたち一人ひとりが存在していますよね。

 一人ひとりの、そのときの状況に応じた「働きやすさ」があると思います。そして、その状況はずっと同じではなく変化するでしょう。猛烈に働く、お金を貯める、子供を育てる、親を介護する、身体を治す、好きな仕事に邁進するなど、一人のひとのキャリアのなかに、様々なフェーズがあります。あるときは支援を必要とするひとも、その時期が過ぎれば支援する側にまわることもあります。常に猛烈に働きたいと願うひとも、フェーズ毎に折り合いをつけながら歩むほかありません。

 一人ひとりが異なる独自の存在であることや、変化しつづける存在であることが理解され、共有されている状態が、働きやすさという点で重要だと、わたくしは考えています。そのなかであらゆるルールが運用されることが大事ですし、制度やルール自体がそういった考えに基づいて造られていることが必要です。一旦サポートが必要な立場になったら、その後のキャリアが閉ざされるようでは、企業にとっても個人にとっても有益といえないでしょう。

 その後、わたくしはシステムの保守をしながら、性別に関わらず様々な仕事をできるようにと育成のためのカリキュラムをつくったり、人材育成プロジェクトを立ち上げたりしましたが、このような経験がその後のキャリアに影響を及ぼしていることも多いと思われます。直接的にも間接的にも、様々なチャンスをいただいたことに、とても感謝しています。

 それでは、今日もイキイキ☆お元気に。