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 「それでは始めてください」という指示が出るやいなや、「うわ~」とパソコンに向かって猛ダッシュする24名の生徒たち。電源を入れWindowsの起動を待つ。Webページ作成ソフトを起動。ここまでは、順調で静かだった。ところが、次の瞬間から「先生! 先生!」と先生の争奪戦が開始された。どうやら、ファイルを開くことに手こずっているらしい。指導する二人の先生は、順番に生徒たちを巡って丁寧に操作方法を教えているが、その間も「先生! 先生!」の声は鳴り止まない。驚くほど大音響のソプラノで大合唱だ。

 私とシゲちゃんは、凄まじいパワーに圧倒され「なんじゃこりゃ~」という気持ちで、この光景を呆然と眺めているだけだった。私たちが今いるのは、東京都北区赤羽台にある東京都北区立赤羽台西小学校の3年生のクラスだ。担任の飛田波衣先生とパソコン担当の野間俊彦先生(専門は図画工作、雑誌記事や書籍の執筆もされている)が指導するWebページ作成の授業を見学させていただいている。

ドラッグじゃなくてグリグリだよ

 パソコン室には、生徒の人数分のパソコンがある。機種は、NECやSOTECなど様々で、デスクトップ型もあればノート型もある。OSはWindows 98とWindows XPだ。子供の手のサイズに合わせた小さなKids Keyboardが、何とも可愛らしい。[Alt][漢字]は緑色、[スペース]は青色、[Back Space]は黄色、[Delete]は赤色、[Enter]はグレーのように、制御キーが色分けされている。これなら、先生も指導しやすい。「ここでEnterキーを押して」でなく「ここでグレーのEnterキーを押して」と説明すればいいからだ。

 パソコン室だけでなく、通常の教室にも2台ずつパソコンがあり、無線LANで校内ネットワークに接続されている。使用しているアプリケーションは、ワープロの「一太郎スマイル」、Webページ作成ソフトの「Netscape Composer」、そしてプレゼン資料作成用の「Power Point」といったところだ。コンピュータの説明は、このくらいにしておこう。今回は名物コンピュータと言うより、いまどきの小学校の情報教育を生々しくレポートしよう。

 授業のテーマは「土筆が出た」とか「カマキリの卵を見つけた」といった「自然かんさつ発見カード」の内容を写真付きのWebページすること。3年生にしてはなかなか高度なテーマだけど、みんな大丈夫なのかな? 先ほど、ファイルを開くのに手こずってしまったのは、ファイル名が英数字だけだったからのようだ。

先生:ファイルの名前が出ましたが、どれがどの写真だかわかりませんね。写真とファイル名を紙に印刷しておきましたので見てください。 生徒:うわ~(とその紙に群がる)。

 ふむふむ、低学年を指導するには、このような配慮が必要なんですね。ファイルやディレクトリ構造というものが、とっても教え難い概念なんだそうだ。他のクラスの人が環境を変えちゃうと使えなくなり、Windowsのバージョンの違いで説明と異なる画面が出ると不安を訴える。小学校の情報教育って、とっても難しいんだなぁ。

先生:おっ! ちゃんと写真が貼れたね。この写真どう思う?
生徒:カモの親子です。
先生:そうじゃなくって、大きすぎるだろう。小さくするには、どうしようか?
生徒:う~ん???
先生:この薄い線の隅をドラッグして。ドラッグって知ってるかい?
生徒:う~ん???
先生:グリグリやることだよ。

 ドラッグをグリグリとは、先生も説明に苦労していらっしゃる。グリグリして写真が小さくできたとたんに、生徒は満面の笑顔を見せてくれた。自分でできたことが嬉しいんだね。「それじゃ写真を消したいときは?」と聞く先生に、「Deleteすればいいんだ」と横から口を出す君は、なかなかよく知っているね。「先生、これ絶対にできないよ。命かけてもできないよ」おやおや、君は言うことが大げさだなぁ。あはははは。

キー入力練習ソフトに熱中する

 「まだ意味がわかない人は、手を挙げてください」おやおや、クラスの半数ぐらいが手を挙げちゃった。「それじゃあA君とB君を”チビッコ先生”に任命します」なるほど、早くできた生徒は指導役に回るんだな。「ここで、このファイルをクリックするんだ。よし、これでOK!」チビッコ先生、なかなか言うことがプロっぽいじゃないか。昔の小学校ならスポーツができる子がモテたけど、今はパソコンができる子の方が人気者なのかな。そうだったら嬉しいな。

 しばらくすると「先生、できた! できた!」と、チビッコ先生の希望者が殺到しだした。できないときも大騒ぎだったが、できたときにはもっと大騒ぎだ。この場面を先生は、どうやって収集させるのだろう。

 「早くできた子は”キーボー島”をやってください」という指示に「わ~い」と嬉しそうに生徒たちが応える。キーボー島(きーぼーとう)とは、子供向けのキー入力練習ソフトのことだ。正式名称は「キーボー島アドベンチャー」というWebアプリケーションである。キーボードをもじった名前になっている。キー入力の練習なんて面白くないはずなのに、みんな真剣に取り組んでいる。あれほど騒然としていた教室が、いつのまにか静かになっている。これは、先生の魔法だろうか?

 いやいや、生徒たちは、キーボー島をゲーム感覚で楽しんでいるのだ。キーボー島には、登場するキャラクタを変えたり、級や段を認定したり、他の人と得点を競う機能がある。これらが小学生の心をグッとつかんでいる。練習方法は、画面に出題された文を打ち込むだけで簡単だ。「ひょうたんをそだてる」「くうきのおんどをはかる」「なつのだいさんかくをみつけた」など、出題される文の内容がいかにも小学校らしい。ネットワークにつながった他の生徒と1分間の文字入力数を競い「あ~、勝てねぇ。あと4文字だったのに」と悔しがるヤンチャ坊主もいれば、「今日は16級に挑戦するわ」と言う上品なお嬢様もいる。キーボー島は、IDとパスワードを入力してログインする。ちらっと覗こうとしたら「ダメ」と画面を隠されてしまった。おおっ、ちゃんとセキュリティの意識があるんだね。関心! 関心!

情報教育で大事なのはモラルです

 パソコン室の壁には、生徒が作った様々な作品が飾られている。1年生は、お絵描きソフトで作った絵と文字。2年生は、ワープロで作った「がんばり賞」や「すごかった賞」などの賞状。3年生は、Power Pointで作った虫に関するクイズ。4年生は、鎌倉旅行をWebページで紹介。5年生は、デジタル写真をデフォルメした美術作品。そして6年生は、歴史上の人物を紹介した本格的なWebページ。1年生~6年生まで、手先の器用さだけでなく、頭と心も成長していることがよくわかる。パソコンを当たり前のように使いこなす子供たちは、将来どんな大人になるのだろう。先生は、どうお思いですか?

野間:私たちが子供の頃は「テレビっ子」と呼ばれていましたが、現代の子供たちは「インターネットっ子」ですね。インターネットとテレビの違いは、情報を発信できることです。それを子供のころから知っていることで、将来どうなるかが大いに楽しみです。しかしインターネットには、悪意を持った情報もあります。無意識の内に、被害者だけでなく加害者になってしまう危険性もあります。そこで、3年生まではパソコンの使い方が中心ですが、4年生以降はモラル教育を重視しています。まずは、思いやりを持った見やすい情報発信を心がけること。それが、モラル教育の第一歩です。当校では、実際に沖縄の小学校と情報交換をしています。

 なるほど! なるほど! それでは、小学校の教育にパソコンを導入した効果は何でしょう?

野間:本校には、17~18年前からパソコンがありましたが、インターネットなしでは教育に活用するのが難しかったですね。平成9年からインターネットが入り、一気に教育にパソコンが役立つようになりました。一番パソコンを使っているのは、総合的な学習の時間です。これは、問題解決能力を高めるための授業です。「調べる」「まとめる」「発表する」これらを総合的にこなすには、パソコンとインターネットがバッチリ合います。もちろん、パソコン自体に技術的な興味を持つ子もいます。5年生でディスクの物理フォーマットと論理フォーマットの違いを質問する子、6年生でCPUの構造を質問してパソコンの自作を始める子などがいて、将来がとても楽しみです。ただし、残念ながらプログラミングが好きという理由でパソコンに夢中になる子は、まだいません。今後は、コンピュータを自分で動かすことを知らせる教育も必要だと思います。それによって、ソフトは誰かが作ったものだから不正コピーはダメなんだ、というモラルも芽生えるはずです。

 う~ん、なんたってモラル教育が大事なんですねぇ、と感慨にふけっていたら「先生、お腹が空いたよ~」という生徒の声。ごめん、ごめん、ちょっと取材が長引いちゃったね。もうすぐ給食の時間だ。ほら、給食室から、美味しそうな香りがしてきたよ。