目標を決めて自分と周囲の現状を分析し、スキルアップの計画をたてて着々と実行することによってキャリアがつくられるという考え方が長らくあったようですが、実はキャリアは偶然によってつくられるという説もあります。

スケジュールは大事ですが

 この十数年の間に、IT業界でも予想外の変化を様々に経験してきました。技術や経営環境の変化により、各々の夢をもって転職を決断した人たちが、合併で結局同じ企業の社員になったり、株式上場を旗印に奮闘してきた人たちが別の企業の傘下に収まったり、正社員から個人契約社員になる人がいたりと、わたくしの身近にもいろいろなことがありました。そのような経験や出来事から、将来に向けて計画をたてても、必ずしもそのとおりにはならないと実感されている方も多いかと存じます。

 また、40代以上の方の大半がキャリアをスタートされた頃(男女雇用機会均等法も施行前でした)は、育児や介護をしながら仕事をする状況を、具体的にイメージされなかったかもしれませんが、現在はキャリアを考えるうえで誰もの重要なテーマとなっています。これらもまた、その時々の自分自身や家族の健康状態や仕事環境など不確定要素だらけで、計画どおりにならないことのほうが多いこともよくご承知のことでしょう。

 それでもなお、キャリアについて精緻に計画しようとしたり、定量的な目標を立てなければならない気がしてしまうのはなぜでしょう?もしかすると、タスクやプロジェクトの正しい進め方として、仕事や教育機会を通じて、これまでに相当トレーニングを重ねてきたためかもしれませんね。それはそれで大事なことなのですが、でもキャリアという道程については、それとは異なるものだと捉えるほうが、しっくりきやすいかもしれません。

計画された偶然

 著名人の成功物語に限らず、身近なひとに聞いてみても、業界やビジネスの行く末を詳細に分析して周到に準備をしたというよりも、予期せぬ出来事や偶然の機会によってキャリアが展開された人のほうが実際に多いように感じるのですが、いかがでしょうか。希望と異なるジョブアサインや転勤だったがそれが自分の得意分野になったとか、病気をもつ我が子のために通院しやすい仕事に替えてもらったところ後々その業務の第一人者になったとか、偶然受講したセミナーで出会ったひとから仕事を紹介されたなど、たくさんの例に接します。

 偶然などというと、いい加減な感じがするとか努力が報われないようで、馴染みにくい方もいらっしゃるかもしれませんね。ただ、行き当たりばったりとうことではなく、「プランド・ハプンスタンス(計画された偶然)」というキャリアの考え方もあります*1。偶然の出会いや出来事によってキャリアが決まることが多いわけですが、その偶然そのものが、無意識のうちにも本人によってつくられているということです。

「結果が見えなくても行動してみる」
「行動しながら学ぶ」
「常にベストを尽くす」
「楽観的に考える」 (失敗は無駄ではない)
「柔軟に対応する」

 このような行動パターンが偶然の素となり、そのひとのキャリアによい影響を与えているということが、多くの職業人への調査から明らかにされています。わたくしたちがこれまでを振り返ってみても、友達づきあいやクラブ活動、専攻分野の選択、就職・転職、大切な人との出会いなど様々な場面で、計画どおりというよりも予期せぬ出来事に対応しながら前進をつづけてきたという感じがしますよね。

力ずくでなく、しなやかに。

 さて、このような話そのものを否定する方はあまりおられないようですが、同時に、予期せぬことなど起こらないに越したことはないとか、計画どおりに進むことや当初の目標達成そのものに、より大きな価値を見出しがちな人も、たくさんおられるように感じます。でも、システム開発プロジェクトにはそれが適しているかもしれませんが、キャリアの歩みにおいては、想定外の出来事や状況変化を省みず、無理やり計画通りに突き進もうとすると、大変なエネルギーを消耗するうえに、周囲にも自分にもハッピーな結果とならないような気がします。

 一歩目をどちらへ踏み出すかという大きな方向性は重要ですが(特に節目で)、ゴールから逆算して細かすぎる計画をたてるよりも、偶然の出会いやでき事、つまりチャンスを招き活かすことにエネルギーを使うほうが、イキイキした仕事生活を送れるのではないかと思います。まずその心の構えが大切ですね。先が見えないからと動けず停滞するとか、力ずくで計画どおり進めて力尽きるとかに陥りませんように。

 それでは、今日もイキイキ☆お元気に。

*1 詳しくは「その幸運は偶然ではないんです!」(J.D.クランボルツ+A.S.レヴィン著、ダイヤモンド社刊)