筆者はSEマネジャ時代「ビジネスが伸び,SEが育つSE集団作り」を目標にしていた。SEごころがついた頃から視野の広いSE・狭いSE,技術に強いSE・浅いSE,受身なSE・能動的なSEなど,いろいろなSEを見て来たが,SEがどんなSEになるかは若手・中堅時代にどんな仕事をしてきたか,その影響が大きいことをSEマネジャ時代に知った。前回そんな話をした。SEマネジャの方々の部下の指導・育成の参考になれば幸いである。

 今回はそのことはちょっと頭の隅において,筆者がSEマネジャになりたてのころに,部下のSEに関して何を考え何を行ったか,それについて述べたい。

部下のほとんどが若く経験不足

 当時,筆者には部下のSEが十数人いた。ほとんどが20代半ばで30代は3,4人だった。まわりのほとんどの課は30代以上が半分以上であり,筆者の課の20代が80%という比率は異常だった。だが顧客は大手企業を含め10数社あった。頭数だけはまわりの課並みだったが,どう見ても戦力不足だ。しかしいくらスキルのあるSEを上司に要求しても増えなかった。

 この貧弱なSE部隊でも,目先の仕事はやらなければならない。どうすれば顧客に迷惑をかけずに受注システムの導入や開発ができるか。どうすれば売れる提案活動ができるのか。どんな手を打てばよいのか。筆者は悩み,部下のSEや上司などとよく討議した。きっと今でも,このような悩みを持つSEマネジャは少なくないと思う。

 そこで筆者は,「部下ができなければ自分が一緒にやるしかない」と考え,若いSEと共に顧客の打合わせに出たりマシンを使ったり提案書を書いたりして転げまわった。それで何とか凌げたし,またそれが結構楽しかった。だがそのうち,「これでは一向に楽にならない。このやり方ではダメだ。自分が頑張ってもたかが知れている。もっと課のSE戦力を強くすることが必要だ」と考えるようになった。そして課のSE戦力を最大化することに情熱を傾けた。

 筆者は「SEの戦力=量×質×組織力」と定義し,この3つの積をいかにして最大にするかを考えた。量は「SEの人数」,質は「SEのスキル×仕事のやり方」であり,組織力は「課の十数人というチームの力」である。量は会社から与えられたSEの人数で一定,変動要素であるSE一人ひとりの質を上げ,組織力,即ちチームの力を使うしかなかった。そしていろいろな事をやった。

課題を課し,しつこく指導する

 まず,個々のSEのIT技術力を上げるために,

(1)マニュアルを読め,若い時は寝る前に1ページ読め。
(2)分からないことは調べてから知っているSEに聞け。決してこの逆ではない。
(3)顧客を訪問したら業務用語を一つ覚えよ。
(4)研修には予習をしてから出ろ,顧客の担当者よりITには強くなれ。

 と部下を指導し,それをしつこく要求した。マニュアルを読んでマシンを使えば誰でも一応SEになれる。だが技術力の向上を怠るSEはろくなSEにはれない,という筆者の持論があったからだ。

 次に,筆者はSEに,

(1)顧客訪問時は挨拶をする。
(2)顧客に出す資料は分かりやすく。
(3)顧客では自分は会社の技術屋の代表だと考えて行動する。
(4)自分が正しいと思ったら顧客と喧嘩してもよい。
(5)会議などで黙っているのはダメ、自分の意見を言う。
(6)相談する時は「どうしましょうか」と相談するのではなく,「自分はこうしたいがどうでしょうか」と言って相談する。
(7)時間厳守,締め切り日厳守。
(8)顧客と仲よくなる。
(9)馬鹿な営業に馬鹿にされない。
(10)安請合いはしない。
(11)「売り」に強くなる。勉強したいシステムを売ることを考えてもよい。
(12)顧客の部課長とも会う。

 などの重要性をことあるごとに説明し,SEがそう動するよう,日頃徹底指導した。それはSEは技術力だけでなく,ノンテクニカルなスキルや仕事に対する姿勢や態度,仕事のやり方・立ち回り方などが生産性に大きく影響すると考えていたからである。もちろん,部下に要求する以上自分自身も率先垂範した。

 ただ,若手SEは素直に受け入れたが,ベテランはなかなか消化し切れなかったようだった。そんな記憶がある。

仲間が困っていたら自発的に助けよ

 3番目は組織力だ。筆者は当時「部下の若いSEはまだまだ成長過程だ。仕事上技術面などで分らないこと,確認したいこと,助けてほしいことなどが沢山あるはずだ。それをタイムリーに助けないと顧客に迷惑をかけるしSEも困る。そんな時にまわりのSEに相談ができ必要ならそのSEが現場に飛び込む。その様なSE同士の助け合いが何とかできないか,それができれば必ずSEも助かるし顧客も喜ばれる」と考え,そんな助け合いの機動力を持とう,と部下に訴え厳しく指導した。

 そのために

(1)仲間が困っていたら自発的に助けろ,馬場には相談不要。
(2)助ける時間は自分で作れ。
(3)後輩などに質問されたら親切に説明せよ,分らなければ一緒に調べてやれ。

 などとよく言っていた。また,課内だけでは当然限界があることを考え,社内の支援部隊との関係強化も積極的に行った。

 だが,中には頭の固いSEもおり,「自分には自分の仕事があるのになぜ?」などと納得しないSEや「顧客が…」といって渋るSEもいた。納得しないSEには筆者は「仲間の助け合いは家で兄弟が助け合うのと同じだ。当然だ」と言い放ち,また「顧客が云々」と言う理由で渋るSEについては,筆者はぶらっと訪問などで顧客状況などを確認していた。

 以上,SEマネジャ時代の当初に筆者が取り組んだことの概要を述べた。詳細については日経コンピュータなどには書いたが,当ブログでもまた書くつもりである。

 そして,筆者の課はその後それを続けることによって「チームワークに富む自発的に行動する集団」ができ始めた。だが,これはあくまでも慣習的なSEアサインのやり方,即ち顧客別にSEをアサインするという世界の中での仕事の仕方やSEが困った時の助け合いであり,これではSEが育つ集団とは言えなかった。筆者が最終的に狙ったビジネスができSEが育つ集団作りの路なかばである。

 次回は,そのためにこのあと何に取り組んだか,それについて述べる。