5月11日~12日に東京国際フォーラムで開催されたGrid World 2006を見学した。今回目を引いたのは,今年夏に出荷される予定のWindows Compute Cluster Server 2003(以下Windows CCS)である。会場では,ハード・ベンダー各社のクラスタ上でWindows CCSが動作しているのを見ることができた。

 米Intelが32ビット・マイクロプロセッサである80386を出荷したのは1985年。それから10年たった1995年にWindows 95が登場し,32ビット・パソコンとそのアプリケーションに関連するビジネスが大きく花開いた。一方,1991年に登場したLinuxは,GNUプロジェクト・チームの力を借りて,IBM PC/AT互換機のほかにも数多くのプラットフォームに移植されていった。やがて,1996年,Los Alamos国立研究所は,68台のPCをクラスタリング技術を使って結合させ,並列処理を行うPCクラスタを作り上げた。PCクラスタによるHPCの時代の幕開けである。

 PCクラスタはまず,流体,気象などの科学技術計算やCADなどに広く使用されるようになった。その後,高密度化のために,据置型クラスタは19インチ・ラックに計算ノードを搭載するラック型クラスタへと進化した。クラスタを使用するユーザー層も,大学などの研究機関から民間企業へと拡大した。

 64ビット・マイクロプロセッサについて言えば,1992年に出荷されたDECのAlpha 21064は演算性能の高さや扱えるメモリー量の多さが売り物であった。対して,最近のAMDのOpteronプロセッサはIntel系の32ビットのx86命令セット・アーキテクチャとの互換性を保持しつつ64ビット命令を追加しており,PCのスムーズな移行が期待できる。IntelでもOpteronに対抗すべく64ビット命令セットをPentium4とXeonプロセッサに追加している。

 Linuxはこれらの64ビット・プロセッサにいち早く対応し,64ビット版Linuxとx64プロセッサ使った64ビット・クラスタが登場した。やがて,1つの計算ノードに8個のプロセッサを集積化した8-Wayマシンが登場した。さらに,1つのパッケージに2つのプロセッサ・コアを集積化したプロセッサが開発され,1つの計算ノードで16個のプロセッサ・コアが使える時代に入った。

 一方Windowsでも,2005年春にWindows XP Professional x64 Edition,Windows Server 2003 x64 Editionが出荷され,64ビット時代が到来した。現在では,16個のプロセッサ・コアを搭載したマシン上でWindows 2003 Server Enterprise, x64 Editionがアプリケーションと共に快調に動作している。米国では,64ビットWindowsで動作する技術系アプリケーションがビジネスとして立ち上がった感がある。

 Windows CCSは,既に実績があるx64版Windows Server 2003をベースにしており,安定した動作が期待できるほか,Active Directoryとの統合などによって管理がしやすく操作性が高いといった特徴を備える。クラスタ・システムの構築や計算ノードの追加も自動セットアップも可能だ(ただし、現時点では限られたLANカードしかサポートしていない)。さらに,ジョブ・スケジューラとリソース管理とMPI(Message-Passing Interface,並列プログラミング用ライブラリのインターフェース)が統合されたソフトウエア構成も提供されている。HPC分野でも,Linuxのようなテキスト・ベースのユーザー・インターフェースから解放される時代がやってくる。

 次世代64ビット・マイクロプロセッサの発表も予定されている。Intelは,性能のボトルネックであったメモリー・アクセスを減らして性能を大幅に向上させ,低消費電力化を図ったXeonの新版(Woodcrest)を6月下旬に発表する予定だ。既存のXeonプロセッサを単に同一パッケージに搭載したDempseyプロセッサと違い,大いに期待している。AMDも,メモリーをより高い動作周波数が期待されるDDR2メモリーに変更したOpteron Rev.Fプロセッサを7月中旬に発表する予定である。

 まもなくWindows CCSと次世代64ビット・マイクロプロセッサによる競演の幕が開ける。楽しみな1年となるだろう。