客先より生産関連の新しいシステム検討の要請がありました。早速,取引実績がありスキルのある人材がいるインド企業に,この案件のサポートを依頼しました。

 その企業には,日本プロジェクトの遂行で優れた実績を残し,技術および提案スキルもありプロジェクトマネージメント能力も高く,かつ生産システム開発経験も持つ技術者「ミスター・Ram」がいます。サポート依頼の中に,彼の日本への出張要請を含めました。それまでの同社との関係から,問題なく即座にその人材を出してもらえるものと期待していました。

 ところが,インド側の責任者より「ミスター・オカザキ! ミスター・Ramを出してほしいなら,5000万円程度の事業量がないと応じられない,日本側でコミットできるか?」とのメールが入ってきました。

 この回答には驚きました。その時点では5000万円の事業量をコミットできる状況ではありません。この突然の,断りに近いメールを見ていると,それまでの多くの取引実績や,日本側から行った多大なサポートが頭に浮かび,少し腹が立ってきました。

 海外の取引先にいくら優秀な人材や経験そして体制があったとしても,こちらが必要としたとき役立たなければ意味がありません。数日の検討後,そのインド企業への検討依頼は断念しました。代案として,別途開拓していた別の海外ソフト会社にオンサイトサポートを要請しました。そしてすぐにキー人材を送ってもらえたので,客先との打合せに入ることができました。

 インドからのあのメールを受けた際は気分を非常に害し,ネガティブな対応となってしまいました。もしあの時,先方が代案を出してくれたなら…またこちらも精神的余裕がありいくつかの案を提示していたならば…取引継続の可能性があったものと思います。アウトソーシングに関して未熟な状態であったことは否めません。

急成長する海外企業,変わらない日本企業

 海外アウトソーシングでは,調達先の選定や取引に関する調達マネージメントが重要になります。

 最初は,調査して適切な海外委託先を選定し,海外側のマネージメントアテンションも高くスキルの高い人材が投入されます。

 しかし,プロジェクトがだんだん進んでくると,双方とも相手側企業の実態が分かるようになり気持ちも少しゆるんできます。投入される人材のスキルやマネージメントアテンションも低下し,海外側で技術移管が実施されず,結果的に多くの問題が発生するというケースがままあります。

 なぜこのようなことがおきるかを考えてみましょう。

 海外のソフト会社は年率30%以上,あるときは50%以上も成長します。取引開始当時,60名程度であったインドのソフト会社は,数年で600名以上の規模になりました。それに比べ,こちらからの委託事業量はそれほど増えていませんでした。増えるどころか減少した年もあります。

 取引先の自社の事業に占める比率が低くなれば,企業としてのアテンションが低くなりサポートやサービスの品質が低下することがあります。

 一般的に海外企業は日本企業と比べて事業スピードは速く,短期間で大きく成長します。その場合,日本企業も成長して委託する事業量を増やして取引継続するか,または取引が継続しない場合を考慮して,あらかじめ「活用するが依存しない」体制を構築するか,また日本側の要求に合う海外委託先を適時育成活用するか,などをあらかじめ考えておくことが大事です。

 現在の海外アウトソーシング状況を見ると,高パフォーマンス・高チャージ委託でうまくいっているところもありますが,特定分野についてはあの高いコストではいずれペイしなくなり問題が発生するであろうと思われるところが見受けられます。

 調達先選定に当たっては,(1)企業のマネージメント,(2)保有技術や得意技術,(3)開発プロセスと品質,(4)品質納期の意識,緊急対応,(5)人件費,委託費コスト,(6)カントリーリスクなどを評価検討することが大事です。

 しかしもっと大事なのは,グローバル市場が刻々と変化しているという認識です。同じ柳の下にいつもドジョウはいません。日本企業には,グローバル市場の変化に即応しその時点で最適な調達先を確保・活用し,最適なやり方でアウトソ-シングするための仕組み,ノウハウをもつことが求められています。


モータリゼーションが進み,大きく成長しているインド
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