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矢沢久雄のソフトウエア芸人の部屋

日本の名物コンピュータを訪ねて[2] 武蔵野の地にコンピュータの祖先を見た

矢沢 久雄=ITpro Watcher 2006/05/12 ITpro
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 「1833年、イギリスのチャールズ・バベッジ(Charles Babbage、1791~1871)が、世界初の自動計算機といえる汎用歯車式計算機「解析機関(アナティカルエンジン)」を発表しました。バベッジの考えは、計算規則とデータをパンチカードで与え、それを記憶しておき、その手順に従って自動的に計算を実行するというものでした。バッベジが利用したパンチカードは、1801年ジャカール(J.M.Jacquard、1752~1834)が発明したパンチカード付きの自動織機に原形を見ることができます。パンチカードにあらかじめ織りたい模様をパンチしておくということが、現在でいうプログラムの原形といえます(「コンピュータシステムの基礎」アイテック情報技術教育研究所編著、株式会社アイテック刊より抜粋)」シゲちゃんが、何やら分厚い本を読んで勉強しています。どうやらコンピュータ歴史を調べているようです。

コンピュータの祖先を見に行こう

 確かに「ジャガード織機(ジャカールが発明した自動織機のこと)」の紋紙は、コンピュータのパンチカード(紙に穴をあけて情報を記憶するもの)の原形だと言えるでしょう。そうなると、ジャガード織機は、コンピュータの祖先なのかもしれません。今から30年ぐらい前には、日本国内にも数多くの機織工場があり、ジャガード織機が大活躍していました。機を織るときの「ガッチャン、ガッチャン」というリズミックな音を懐かしく思い出します(私の出身地は、かつて繊維産業で栄えた栃木県足利市です)。シゲちゃんに、本物のジャガード織機を見せてあげたいなぁ。どこかに残ってないかなぁ。そうだ! 博物館に行ってみよう。

 というわけで、東京都小金井市中町にある「東京農工大学工学部附属繊維博物館」にやって来ました。3階建ての広々とした館内には、全部で19もの展示室があり、養蚕や生糸に関する資料、手織機から自動織機までの繊維機械、天然繊維および合成繊維などに関する膨大な資料が収蔵されています。江戸時代や明治時代の養蚕に従事する人々を描いた錦絵もあります。昔ながらの手法で糸を紡いで機を織るサークル活動も行われています。じっくり見学すれば、2~3時間はかかるでしょう。子供を連れてハイキングのつもりで出かけてもいい感じです。

 専任教官の田中鶴代さん(理学博士、東京農工大学工学部助教授)が、館内を案内してくださることになりました。様々な収蔵品を見せていただく前に、専門用語の勉強をしておきましょう。シゲちゃん、しっかりメモを取っておくんだよ!

  • 養蚕(ようさん)・・・繭(まゆ)を得るために蚕(かいこ)を飼うこと
  • 生糸(きいと)・・・繭などの天然素材から作られた繊維のこと
  • 紡績(ぼうせき)・・・糸を作ること
  • 機(はた)・・・布のこと
  • 機織(はたおり)・・・布を織ること
  • 織機(しょっき)・・・布を織る機械のこと
  • 紋紙(もんがみ)・・・ジャガード織機で使われるパンチカードのこと

 昔の資料を見ていると、日本の近代化工業が、繊維産業でスタートしたことがよくわかります。中学校の社会で「富岡製糸工場」のことを学んだことがあるでしょう。蚕を飼って生糸を作り、それを世界中に輸出していたのです。日本にとって本格的な貿易の第一歩でした。当時の生糸メーカーの製品ラベルには、格式を重んじたデザインのものが目立ちます。最近では、やや勢いが薄れてしまった”made in Japan”の誇りが伝わってきます。日本の産業は、繊維、鉄鋼、自動車、電化製品と発展し、常に世界をリードしてきたわけです。次の産業は何でしょう? そりゃもうIT産業しかないですね。ガンバレ日本! むしょうに元気が出てきちゃいました。

ジャガード織機の仕組み

 生糸の次は、手織機を見てみましょう。織機の仕組みがよくわかるはずです。布の幅だけ何本もの縦糸が並んでいます。足でペダルを踏むと、糸が一本ずつ交互に上下します。その間を縫うように、手に持った横糸を通します。イメージがつかめるでしょうか? 「TVコマーシャルで、浜崎あゆみさんが”鶴の恩返し”に扮してやってるやつですよね」と言うシゲちゃん。そう、それだよ!

 自動織機では、縦糸を針のようなものに引っ掛けて上下させ、その間をシャットル(棒に巻きつけた糸を乗せる細長い入れ物)に載せた横糸が通って行きます。これらの動作が、歯車やカムを使った機械仕掛けで行われるのです。1回の動作を行うときに「ガッチャン」という大きな音がします。「ガッチャン、ガッチャン」と何度も何度も動作を繰り返すと機が織れて行くのです。私の記憶では、その昔「ガチャマン時代」という言葉がありました(”科学忍者隊ガッチャマン”じゃないですよ)。これは、織機が「ガッチャン」と動けば「1万円も儲かる」という意味です。それほど当時の日本では、繊維産業が盛んだったわけです。

 「機に模様を付けたい場合はどうするのですか?」むむっ、シゲちゃん。いよいよ核心に触れた質問が出たね(ちょっとわざとらしいけど)。それでは、1Fの繊維機械コーナーへ行って、お目当てのジャガード織機を見せていただきましょう(階段を下りて展示室へ)。おおっ! やさジャガード、久しぶりだなぁ(お富さんのセリフっぽく読んでください)。懐かしのジャガード織機は、マシン油の匂いが立ち込める展示室に、その勇壮な姿を現していました。身の丈およそ3.5mのやぐらに組まれたメカニズムには、力強さだけでなく美しささえ感じます。これが、これがコンピュータの祖先なのです。

 スイッチON。ガッチャン、ガッチャン、...。「師匠、すごいですよ~。”NOKODAIGAKU”という模様がどんどん織られて行きますよ~。感動しました~」何を言っても、音が大き過ぎて聞こえません。凄まじい騒音の中ですが、田中先生、ジャガード織機の説明をお願いします。

田中:このジャガード織機(五両川鉄工所製)は、昭和10年代のものです。機の模様を決める紋紙には、1枚に付き横26個×縦4個の穴を開けることができます。これらの穴の有無が、縦糸を引っ張る針の動作を制御します。紋紙のパターンと針の動作を合わせる装置をシリンダと呼びます。穴があれば針は上がり、穴がなければ針は下がります。1枚の紋紙が1回の上下動作(すなわち1回のガッチャン)を決めます。紋紙は、全部で500枚あります。これらを使って、幅が約30cmの”NOKODAIGAKU”という模様が作られるのです(ガッチャン、ガッチャン、...)。

 私とシゲちゃんは、ジャガード織機で”Hello World”を織ってもらおうとたくらんでいたが、早々に諦めなければならないようだ。”NOKODAIGAKU”という11文字で紋紙が500枚も必要なら、”Hello World”の10文字でも同じくらいの枚数が必要になるだろう。とてもではないが、気軽に頼めるようなことじゃない。ところで、紋紙のパターンはどうやって作るのだろう。つまり、プログラミングはどうやるのだろう?

田中:紋紙を見ただけで模様がわかる人などいません。方眼紙の上に模様を書いて、それを手作業で紋紙のパターンに変えていくのです。紋紙に穴をあける道具を「ピアノ紋彫機」といいます。ピアノの鍵盤のようなボタンを操作して穴をあけるのです。熟練した職人になると、ボタンを見ないで操作できます。並べる順番を間違えないように、紋紙には1枚ずつ通し番号が書いてあります(ガッチャン、ガッチャン、...)。

ジャガード織機とコンピュータの対応

 シゲちゃんにコンピュータの祖先を見てもらえて、私は大満足だった。ところが当のシゲちゃんは「この機械をコンピュータと呼べるんだろうか?」と首をかしげている。よし。それなら、ジャガード織機の各部を現代のコンピュータに当てはめてみようじゃないか。いいかい、横糸を引っ張る針の上下運動は、ビットのON/OFFという「2進数」だ。26個×4列=104個の穴の有無を記憶した紋紙が500枚あるのだから、メモリ容量は「104ビット×500=6.5KB」だ。紋紙を読み取っているシリンダは「CPU」に相当する。

 プログラム内臓方式(プログラムを交換して用途を変えられること)と逐次制御方式(プログラムの命令を1つずつ順番に実行して行くこと)を採用している現代のコンピュータは「ノイマン型コンピュータ」と呼ばれる。ジャガード織機は、紋紙を交換すれば模様が変わるから「プログラム内蔵方式」だ。紋紙を1枚ずつ読み取って模様に変える動作を実行するから「逐次制御方式」だ。どうだい。ジャガード織機は、立派なコンピュータじゃないか(ガッチャン、ガッチャン、...)。

 ジャガード織機の職人さんにも目を向けてみよう。紋紙に穴をあける人は「プログラマ」だ。ボタンを見ないで穴をあけられるのは、キーボードの「タッチタイプ」みたいなもんだな。間違った位置に穴をあけたら「バグ」だ。そういえば、紋紙の中には穴をテープで塞いだものもあった。これは、まさしく「パッチ(プログラムに当てる修正のこと)」だ。おお、何と素晴らしい。コンピュータの祖先と、プログラマの祖先、おまけにバグの祖先を、まとめて見られたんだよ。田中先生はじめ繊維博物館の職員の皆様、どうもありがとうございました(ガッチャン、ガッチャン、...)。

■変更履歴
掲載していた写真が間違っていました。正しい写真に差し替えました。[2006/05/12 14:10]

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