来春卒業予定の大学生の求人倍率はバブル期に次ぐ高さだそうですね。同一業界内でもバラツキはあるようですが、活力を取り戻す企業が増えてきたのでしょうか。残念ながら、IT業界は学生さんに人気があるとはいえないようですが、それでもSEを志望するひともおられます。G.W.中に会った知人の妹さんもそのひとりです。

 大学4年生のTさんはSE志望で就職活動をしており、すでに3社の採用選考に合格しているそうです。そろそろ、入社の意思の有無を返答しなければならないのですが、本人はどの企業に入社するか決めかねているようで、次のような会話をしました。

 「A社の財務諸表をみたら電子機器の売上もあるみたいだけど、私はソリューションをしたいから、機器販売の仕事になる可能性があるのなら行きたくないな」

 「ソリューションを提供する時に機器も併せて納めるようなことがあるとしたら、それが計上されているのかもしれないよね」

 「B社の話では昨年の残業時間は少なかったみたいだけど本当かな。実はサービス残業とかしているのかも」

 「開発のピークやトラブルなど踏ん張りどころでの残業はどこでもあるだろうけど、常態化しないように企業として取り組んでいるか、年中残業が当たり前という社風なのかがポイントだよね」

 「C社の35歳の人が他社よりもお給料が低いって言っていたらしい。初任給は他社と同じだけどあんまり上がらないのかも」

 「年齢ではなくて、実力や成果でお給料に差がつくところが増えているから、同じ年齢でも個人によって結構違うんじゃないのかな」

 話はまだ続きましたが、どうやらTさんはあちこちから色々な情報を得て混乱しているようです。最近の就職活動では、企業情報の取得、説明会の申し込み、エントリーシートの提出など、多くのプロセスでインターネットが大きな位置を占めています。そのため、学生さんはあらゆる企業に容易にアクセスできるのと同時に、企業が発信するもの以外にも、無責任なものも含めて膨大で雑多な情報に接しています。

良いことも悪いことも まるごと。

 大学を卒業して就職したひとのうち30%が3年以内に退職するそうですが、企業も学生もお互いのために、よく分かり合ったうえで内定に至りたいですよね。

 そのために企業は、RJP(Realistic Job Preview)として、その仕事に就いたらどのような状況が展開されるのか、良いことも辛いことも含めてありのままを学生に知らせることに、更に力を入れる必要があると思います。「大変な局面もあるけど、こういう解決策をとりながら、こういう夢に向かっている」というのとセットで。先輩社員がその会社の仕事や生活について直接伝えるリクルータの制度も最近は減少しているようですが、良いイメージだけを伝えて強引に勧誘するのでなく、RJPのためにこの仕組みを改めて見直すのも良いかもしれません。

 ある企業では、若手社員の日常をビデオ撮影して応募者に公開されています。地方の営業所勤務の男性が、点在する得意先を回る途中に居間まで通されてお茶を勧められ戸惑う様子や、大規模小売業担当の女性が、特売日にトラブル発生でプライベートな予定をあきらめる表情などが実録され、もちろん企業として目指す姿も伝えられています。

 わたくしも拝見しながら、CM等を通じてもっていたその企業の華やかでスマートなイメージとは随分異なる印象を持ちました。これらを知ったうえで、大変なこともあるけどここでの仕事にチャレンジしたいと志望する人なら、入社後いろいろな部署に配属されたり異動になったりしたときのリアリティ・ショックに対応できる可能性が高そうです。

学生だけでなく社員にも。

 このようなRJPは、学生だけでなく自社の社員に対しても有効だと思います。

 入社して数年で転職する人のなかには、「イメージしていたのと違う」というほかに、本人が希望している仕事や働き方が元の所属企業にあることを知らなかったというケースもみられます。

 世の中に情報が溢れていますが、キャリアを考えるときに、まず自分が所属している企業にどんな仕事や職場があって、どんな人がどんなふうに活躍しているのかを知るほうがいいですよね。社内にある様々な職種や部署の仕事の実態が、良いことも悪いこともまるごとわかるようになっていれば、社内公募やFA(Free Agent)を導入している場合にも役立つでしょう。またイントラネットなどですでに公開されている場合にも、職場を訪ねるなど、できるだけ会ってお話されるほうが雰囲気をリアルに感じられて良さそうですね。

 合理性と同時に、お互い忙しいながらもそのようなやりとりのできる組織・風土のなかで、わたくしたちは意欲的に働きやすいように思われます。

 さて、Tさんの心配はさらに続きます。「SEとして長く働きやすいのはどの会社だろう?」---つづきはまた。

 それでは、今日もイキイキ☆お元気に。