4月13日~14日の2日間にわたり,中国天津市で,「第四回北東アジアOSS推進フォーラム」が開催されました。会合には,日本・中国・韓国の産業界,研究機関,大学,政府関係者等約250名の参加がありました。このうち日本からの参加者は役60名でした。その模様を,田代秀一がご紹介いたします。
北東アジアOSS推進フォーラムは,日本OSS推進フォーラム,中国OSS推進連盟,韓国OSS推進フォーラムの3者が合同で行う会合で,その第一回会合は2004年4月3日に北京で開催されました。その後第二回会合が2004年7月28日に札幌で,第三回会合が2004年12月3日にソウルで行われてきました。
この会合について,「日中韓共同でLinuxの共同開発を行うことを決議」などと報道されてしまうことが過去に何度かあったのですが,「一つのディストリビューションを共同で作る」といった意図はありません。共通するキー技術について共同で技術的検討を行おう,とか,OSSで国際貢献できるような人材を育成しよう,とか,相互運用性確保のため国際標準へ共同で貢献しよう,といったことへ向けての情報交換や議論が主な目的です。
今回,人材育成については,面白いイベントがありました。日本,中国,韓国のそれぞれで選ばれた「OSSに関する貢献者」を集め,合同で表彰する,というものです。
日本からは,昨年(2005年)8月に日本OSS推進フォーラムから「OSS貢献者賞」を受賞された,鵜飼文敏さん,高橋浩和さん,高林哲さん,まつもとゆきひろさんの4名が表彰されました(残念ながら,このうち高林哲さんはご都合がつかず,天津へ参加することはできませんでした)。写真は表彰式の模様です。受賞者のみなさんには,今回のホスト国である中国が準備した巨大なトロフィーと盾が送られました(写真1,写真2)。
北東アジアOSS推進フォーラムでは,その第三回会合(2004年12月)において,3つのワーキンググループ(WG),(1)技術開発・評価(WG1)(2)人材育成(WG2)(3)標準化・認証研究(WG3)を設立しています。それから今回までの約1年4カ月間,各WGにおいての議論が活発に進められてきました。
13日にWGの会議が並行で行われましたが,そこでなされた経過報告や今後へ向けての議論の概要は以下のとおりです。
(1)技術開発・評価について
日中韓でのOSSの技術的活動内容について報告がなされました。わが国からは性能評価の結果や,学校・自治体へのOSSデスクトップ導入実験の結果が報告されました。
Linuxは多様なディストリビューション が流通していますが,操作性の相違やアプリケーションの互換性などについて問題が生じていることが指摘されています。この問題の解決に向け,デスクトップ分野とサーバー分野のそれぞれについて専門的な検討を行い,共同して解決にあたるための2つのサブWGの設立が合意されました。
(2)人材育成について
OSSの一層の開発や普及を図るため,OSSに関連するスキルの認定方法や,OSS分野で国際貢献できる人間を増やすためのカリキュラムや教材について検討を行うこととし,そのためのタスクグループの設立に合意しました。
(3)標準化について
キーボード等から多様な文字を入力するために用いる多言語文字入力システムの相互運用性確保に必要な要求仕様について日中韓での合意に至り,国際組織へ提出する準備を進めていることが報告されました。さらにその詳細化へ向けての共同作業の推進が合意されました。
写真3は13日に行われたWG会議の一こまです。
翌14日は全体会合です。各国政府のIT担当局長,各国OSS推進フォーラム代表や事務局代表などからの挨拶に引き続き,基調講演,各WGからの報告があり,その後セッション1(研究・開発),セッション2(OSSビジネスモデル),セッション3(OSSエコシステム),セッション4(各国動向),セッション5(各国OSSセンター紹介),セッション6(OSS貢献者賞)がありました。
これらのセッションで,日本からはまつもと氏によるRuby開発にかかる苦労話,石田氏からOSSにかかるビジネスモデルの話,石井氏からPostgreSQLにおけるコミュニティ形成の話,伊久美氏から日本におけるOSS導入実証実験の話,中原氏から日本OSS貢献者賞の選定プロセスの話し,田代からIPAに設立されたOSSセンターの紹介が行われました(写真4)。
ところで,天津は海辺の町です。「天津といえば甘栗」,というのは「サンマは目黒」に匹敵する「ガセ」と言われており(その本当の産地は燕山山脈地方とのこと),美味しいのは海の幸です。昼食に,会場ホテルからちょっと抜け出し,海鮮料理店へ行ってみました。現地の人が天津ではぜひ蝦蛄を食べて帰れ,とオーダーしてくれたのが写真の料理です(写真5)。殻つき茹でたての蝦蛄というのは初めて食べましたが,とても美味しかったです。しかし,手で殻をむくのは大変でした。修行が必要です。
次回,第五回北東アジアOSS推進フォーラムは日本で開催されることに決定しました。次期はまだ確定していませんが,11月中旬ころを目指して調整中です。ここで意義のある成果をたくさん紹介できるよう,準備を進めてゆきたいと思います。
あなたにお薦め
今日のピックアップ
-
アセットマネジメントOneの内製化、司令塔組織も支援企業と二人三脚でノウハウ蓄積
-
意外と根深い「もう1つのVMware問題」、受け皿に透けるシステムの価値
-
ナデラCEOによる組織改革の成果、Microsoftの「全方位」品ぞろえ戦略
-
ネットワークの機器やケーブルをどう選べばよいか、生成AIの活用で効率化も
-
日本の基幹システムは今後も大丈夫なのか、読者の意見を募集します
-
マイナ免許証の顔写真が古い運転免許証と同じまま、警察庁が都道府県警に指導
-
「早く帰りたい」に隠された真の課題、現場の声に耳を傾けるデータ活用はじめの一歩
-
AWSの仮想マシンEC2、使いこなしのポイント10
-
2段階認証やパスキーに欠かせないスマホ、紛失に備えて「探す」機能をチェック
-
Apple Watchを使わずiPhoneで健康管理、機能が豊富な他社製アプリが選択肢に
-
迷子にならないGoogleマップ「ARナビ」、スマホで映した風景上に歩く方向を矢印表示
-
「配属ガチャ」は昔からある、それでも新卒社員の成長は難しい時代に
注目記事
おすすめのセミナー
-
CIO養成講座 【第37期】
業種を問わず活用できる内容、また、幅広い年代・様々なキャリアを持つ男女ビジネスパーソンが参加し、...
-
意思が伝わる、資料が見違える「ビジネス図解」4つのセオリー
インフォグラフィックスとは、形のない情報やデータなど伝えたいことを分かりやすい形で表現する技法で...
-
「なぜなぜ分析」演習付きセミナー実践編
このセミナーでは「抜け・漏れ」と「論理的飛躍」の無い再発防止策を推進できる現場に必須の人材を育成...
-
業務改革プロジェクトリーダー養成講座【第18期】
3日間の集中講義とワークショップで、事務改善と業務改革に必要な知識と手法が実践で即使えるノウハウ...
-
IT法務リーダー養成講座
システム開発・運用に関するもめ事、紛争が後を絶ちません。それらの原因をたどっていくと、必ず契約上...
-
ITリーダー養成180日実践塾 【第15期】
8回のセミナーでリーダーに求められる“コアスキル”を身につけ、180日間に渡り、講師のサポートの...
注目のイベント
-
DLC Server & Datacenter Summit (DSDS25) 東京ナイト
2025年 4月 21日(月) 17:00~19:10
-
【4月22日】大幅コスト増の「仮想化問題」、AI時代にITインフラをどう見直すか
-
AIトレンドFORUM 2025
2025年 4月 23日(水) 13:00~17:00(予定)
-
【4月23日】話題の能動的サイバー防御、従来のセキュリティ対策と何が違う?
2025年4月23日
-
【4月24日】押さえておきたい最新ハイパーバイザーの特徴、60分で徹底解説
2025年4月24日
-
【4月25日】NVIDIAと語る最先端のAIユースケース、展示コーナーで体験も可能
2025年 4月 25日
-
Cyber Identity Foresight 2025
2025年4月25日(金)16:00-18:00/5月21日(水)16:00-18:00
-
経営課題解決シンポジウム ~経営×AI編~
2025年5月28日(水)13:00~16:20
-
付加価値ある意匠デザインを実現するものづくり技術2025
2025年5月29日(木) 10:30~17:00
-
【5月29日】「エッジAI×最新半導体」がもたらす未来 ~Avnet Tech Day 2025
2025年 5月 29日
おすすめの書籍
-
ChatGPT &生成AI 実践活用ガイド
マイクロソフトの「Copilot」やグーグルの「Gemini」を含め、生成AIの最新動向や驚きの...
-
SDV革命 次世代自動車のロードマップ2040
自動運転で、自動車の価値は運転性能よりも、その中でいかに過ごすかにシフトする。その価値を追求する...
-
PCトラブル自力解決マニュアル
各種トラブルへの対策、復旧方法をまとめたのが本書です。市販No.1パソコン誌「日経PC21」に掲...
-
これ1冊で丸わかり 完全図解 最新セキュリティー
最新の攻撃手法や、セキュリティーの事例などを詳しく紹介しており、最近のセキュリティー関連で知って...
-
AWSクラウド設計完全ガイド
これから構築するシステムに対して、多種多様なAWSのサービスから最適なサービスを選定し、組み合わ...
-
Word 最速時短術 [増補新版]
本書では、Wordが備える便利機能の数々や生成AIを使いこなしながら、日々の仕事効率を大幅にアッ...
日経BOOKプラスの新着記事
日経クロステック Special
What's New
経営
- 先進自治体が集まって徹底討論!自治体DX
- 「複合AI」に必要なITインフラを考える
- Salesforce≫求められるスキルは
- 決算短信の英文開示 見逃せない重要課題
- アジャイル開発が生成AIの活用に有効
- リコーのDX新拠点 その実力に迫る
- 教育の質を高め、人材育成に寄与する新制度
- 「DXの伴走者」に聞く変革への戦略&方策
- 多角的アプローチによる顧客価値創造とは?
- 次世代コンタクトセンターの最新AI技術
- ERP導入で忘れがちな「大切なこと」とは
- Suicaデータを活用する駅カルテとは!
- 業務のデジタル化の「障壁」と「解決策」
- 未来ビジネスを創るテクノロジーの力
- 大和ハウスのデジタル帳票基盤、導入の裏側
- ServiceNowでDXを加速≫方法は
- SAPプロジェクトの全体像をいかに描くか