「サービスのソフト化」。日本IBMでソフトウェア事業を担当する三浦浩常務執行役員が06年3月9日、ソフト事業の新たな戦略を発表した。オープンソース・ソフトが台頭する中で、IBMが引き続きミドルウエア製品からライセンスや保守から高い収益を確保するために欠かせないのが、サービスのソフト化なのだ。狙いは、複数のミドルウエアを組み合わせたイージーオーダー型システムの提供にある。

 IBMはこの10年間、データベース(DB2)や運用管理(Tivoli)、開発ツール(Rational)、Webアプリケーション・サーバー(WebSphere)、コラボレーション(Lotus)の5つのミドルウエア製品を拡充させてきた。競争のレイヤーがOSからミドルウエアにシフトしたからだ。「企業情報システムの根幹をなすのがミドルウエアで、業務の変化を吸収するのは(業務パッケージではなく)ミドルウエア」(三浦氏)だという。その一環から99年、IBMは業務パッケージに進出しないことを決めている。

 ところが、競争の土俵を一変させる製品が登場してきた。オープンソース・ソフトである。「DB2などインフラ的なミドルウエアに留まっていてはだめになる」(ソフトウェア事業ブランドマーケティング・マネ―ジャーの森島秀明氏)とし、競争のレイヤーを一段に引き上げることにした。

 それをIBMはミドルウエアの高付加価値化と呼ぶ。アプリケーションに近いところまでカバーするようミドルウエアの領域を拡張させるもので、開発生産性の向上、業務プロセスの統合、データ・コンテンツの活用、ユーザー・インタフェースの多様化、セキュリティの5つに関連する新ミドルウエアが多い。「例えば3秒以内のレスポンスにするには、このソフトとこのソフトを組み合わせれば実現できる」(森島氏)ようにする、新ミドルウエアはIBM製品に加えて、オープンソースのミドルウエア上でも使える。ユーザーには手組みによるシステム開発の工数を大幅に削減できることを訴求する。

 手始めにSOA(サービス指向アーキテクチャ)、企業改革法関連、ポータル、ITIL(ITインフラストラクチャ・ライブラリ)、ITLM(ITライフサイクル管理)の5分野にフォーカスして、これらを実現させる新ミドルウエアの品揃えを図る。この2、3年前から業務プロセス統合やコンテンツ管理、データ統合、IT資産管理、IT資源の自動配布、アプリケーション監視、ディレクトリ統合、ユーザーID管理などといったソフト会社を買収してきたのはその一環からだ。

 ミドルウエアの収益構造の変化に対応した動きでもある。発売当初、初期ライセンス料で収益を確保できたミドルウエアは、その製品が普及するにつれてライセンスから保守へと収益が移っていく。そこに、オープンソースが台頭すればライセンスや保守から得られる収益が減る可能性が高まるので、導入支援などのサービスに乗り出す。

 だが、IBMはサービスのソフト化でミドルウエアの収益構造を堅持する。オープンソース化が進展しても、「IBMのテクノロジーを使ってくれる技術者を増やす」(森島氏)ことで、DB2など既存ミドルウエア製品と新ミドルウエアのセットで引き続きライセンスと保守などで収益を確保できるようにする。もちろん既存ミドルウエア市場を抑えておかないと、その戦略の意味が薄れてしまう。なので、新ミドルウエアの品揃えを拡充する一方、DB2の一部製品を無償化したり、廉価版のDB2を売り出したりもした。IMSなど枯れたソフト技術はオープン化もする。

 IBMはこうしたミドルウエアの高付加価値化で、ユーザー企業のプラットフォームを獲得する考えだが、独SAPなどパッケージ・ベンダーもこうした新ミドルウエア群の整備を進めている。ミドルウエア・ベンダーとパッケージ・ベンダーの競争が激化する中で、日本のITベンダーは世界で通用するパッケージもないし、ミドルウエアもないとなれば、IBMなどから調達したミドルウエアをベースにしたSI(システム・インテグレーション)で生きるしか道がなくなってしまう。