よりよいキャリアのためにと、資格取得や知識・スキルの獲得に励むことがありますが、それらを活かして、仕事をうまくできるようになることがより大切ですね----先般そのような話をしましたが、そのことから、ラグビーの平尾誠二さんのお話を思い出しました。

 ご著書や講演などでご存知の方も多いかと存じますが、平尾さんは、スポーツでは「知る」「わかる」という理解する要素も必要だが、最終的には「できる」という体験が大切だと言われています。まずは「知る」こと。ラグビーでいえば、「正しいパスの型」とはどういうものかを頭で理解しているという段階。次は「わかる」こと。つまり身体でそれをわかって、正しいパスができること。最終的に「できる」というのは、実際の試合でパスを通して、それが成果につながっていることだということです。

 「正しいパスの型」を何度も繰り返し練習することが多いが、実際には、パスが通って試合展開を有利な状況にしないと意味がないと。そして、実戦でパスが通るには、「正しいパスの型」どおりに投げるスキル以上に、このタイミングではどこへ投げるのが戦況を良くするかという判断が重要だと言われています。もしもラグビーに、フィギアスケートのような規定演技があるなら、パスの正しさや美しさは金メダルかもしれないが、それだけでは試合に勝てないという話もありました。

 (スポーツ振興の立場からは、ひと各々にレベルは違っても「できなかったことができるようになる」という喜びや達成感に価値があるとも仰っています)

 仕事をするうえで、変化する状況のなかでよりよい結果をだすことが重要であるとすれば、「知る」「わかる」だけでなく「できる」が大切だというのは、ITプロフェッショナルにとっても同様ですよね。客観的にみたときには、筆記試験で問われる「知識」は「知る」「わかる」にあたり、実際に「できる」のかどうかは判らないというのが、なんだか心もとないところです。本人にとっては知ることからスタートして「できる」に近づいていくわけですが。

「成果につながる」と「どんな状況でもできる」

 ところで、コンピテンシーという言葉をお聞きになったことがありますか? すごく単純にいうと「うまくできる」ということでしょうか。ちょっと堅めですと「ある職務または状況に対し、基準に照らして効果的、あるいは卓越した業績を生む原因として関わっている個人の根源的特性」というのが、ひとつの定義です。(コンピテンシー概念を生み出した人たちによるもの。ライル・M・スペンサー+シグネ・M・スペンサー著『コンピテンシー・マネジメントの展開』)

 ポイントのひとつは「業績を生む原因として関わっている」というところです。そして、もうひとつのポイントは「個人の根源的特性」というところで、様々な状況にあってもその行動や思考が安定的にみられるということです。こういうのをコンピテンシーというそうです。ラグビーのお話で考えますと、「正しいパスの型」とはどういうものかを単に理解しているというだけでなく、実際の試合でそれを活かしてパスが通り成果(勝つこと)につながっている、また、どのような状況でもそれができる、というときにコンピテンシーといえるわけですね。

 コンピテンシーという言葉が使われる場面はいろいろですが、例えば、ハイパフォーマーの行動特性をモデル化したり、戦略実現に必要な行動を想定してモデル化したりして、企業としての育成や評価の基準にするようなケースもあります。そのときにも、スキルや知識があるだけでなく、成果に結びついていることが前提とされることが多いようです。(他者からの評価には興味がない方もおられるかもしれませんが、「世間で通用する」こととは結構関係がありそうです)

 ITプロにとっては、知識やスキルそのものを評価されないのは腑に落ちないところがあるかもしれませんね。でも、正しい型のパスができても、実戦で試合展開を有利に運べる選手でないと起用してもらえないというのと似ているようにも思われます。しかも、刻々と状況が変わってもいつでもそれを実現できるような選手が、「うまい選手」「いい選手」「世間(世界)で通用する選手」ということになるわけですよね。

 プロフェッショナル人材にとって、知識・スキルは先ず必要で、そしてそれだけでなく、コンピテンシーといえるほどにまで習熟することが、「世間で通用する自分」になるための、ひとつの方法なのでしょうね。そのためにも経験を通じて学ぶことが必要なので、本人の意欲とともに、組織としてのジョブアサインが重要だと思うわけです。

 さて、ある会合でのこと。平尾さんはいつものように颯爽と登場されたのですが、ディスカッションの間中メモをとられる様子が全く見られません。そこで・・・続きはまた今度。

 それでは、今日もイキイキ☆お元気に。


特性・・・身体的特徴
動因・・・個人の行動を駆り立て、導き、選択する要因
「コンピテンシー・マネジメントの展開」(ライル・M・スペンサー+シグネ・M・スペンサー著,生産性出版)p.14より引用