「情報」という言葉が,巷に氾濫している。しかし「情報とは何か」を説明しようとすると,たいへん難しい。

 英語で情報を表す言葉には,インフォメーション(Information)とインテリジェンス(Intelligence)がある。軍事ではインテリジェンスという言葉を使う。米国のCIAは,Central Intelligence Agencyの略だ。敵に関する情報はインテリジェンスなのである。

 もうひとつ重要な点だが,インテリジェンスは「知」も意味する。ただ「知」という抽象的な世界での議論は哲学者にゆずり,ここではビジネスの世界での情報の意味を考える。

 本質的には,「情報とは目標を捉える力」である。

 要するに,何かをしようとする時には「情報」が要る。例えば,ゴルフでどこに飛ばしてもいいのならよいが,やはりグリーンにオンしようというときには「何か」がないとオンしない。この「何か」がなけば,単なる確率になってしまう。確率という自然の成り行きから,自分の意志でコントロールする世界に移ろうとするとき,情報が意味を持つ。自分で意志決定するためには情報が必要になるのである。

 では,その「情報量」とは何か。

 それはコントロールの精密さである。

 ゴルフをしない方には恐縮であるが,再びゴルフを例に取る。大胆な仮定であるが,150メートルのショートホールがあるとする。

 もし仮に「どこにでも打って良い」とすれば,目をつぶって打てば良い。芝目がどうの,風がどうの,そんなことには目をつぶって,話をしながらでも,ホールを中心に200mの直径の中には落ちるであろう。この状態を情報量ゼロとしよう。

 これをオンしようと思ったら,ついつい真剣な顔になり,風の向きを見たり,まわりをみたり,何かしら情報収集活動,知的な活動をする。

 確率でみると,先程の直径200mの偶然が支配する世界で直径10mのグリーンにオンするという確率は100回に1回。さらにホールインワンしようとすると400万回に1回。普通では入らないということになる(工学的にすべて一様分布に確率を仮定することになり,個々の確率の対数をとった差が必用な情報量[エントロピー]の差になるが)。

 この確率の世界で,毎回オンしようと思うと情報が要る。情報量が問題になる。

 「100回に1回オンすればいい」というのであれば何も難しいことはない。

 「2回に1回」となると,14mの範囲に確実に落とせる力がいる。かなりの情報,すなわち距離,風,グリーンのアンジュレーション,そして芝目などを正確に認識し,かつ自分の筋肉をその情報通りにコントロールできなければならない。

 「ホールに入れよう」と思った時に必要な情報量は,オンしようと思った時の情報量とに比べではるかに多い。当然,ホール周辺の情報がなくては入らない。

 すなわち,確率が低いことをなし遂げようというときには,より多くの情報量が必要になる。多くの情報とは,精密な情報である。精密な経営には多量の情報が必要ということである。

 ところが現実には,自分自身の筋肉もなかなかコントロールできない。ましてや組織という人間の集合体を自分の意志のままに動かすことはもっと難しい。天才的かつ芸術的な世界かもしれない。しかし,それが経営であろう。意志決定する人,人を動かす人,それが将である。軍師すなわちスタッフができることは,情報を収集し,分析し,編集して,「結論」すなわち最適と考えられる策を将に進言することである。

 すなわち偶然ではなく,計画して勝つには,知力が要る。それが情報である。仕事を成し遂げるには情報が必須である。