出題者が解のある問題を作成します。想定された問題空間の中で思考することで,学力をテストします。その中に勝手な仮説を持ち込んだり条件を入れたりしたら,試験の目的は台無しです。

 でも森羅万象,特に人間の世界に起きる事象で,そんな単純なものは皆無です。まず,そんな現象や事象を,目的と照らし合わせながら問題として設定する必要があります。問題は,その事象対象をどういった視点からとらえるかで変わってきます。1つの事象でも問題定義はそれこそ無数にあります。視点が目的や世界観や人に依存するからです。

 問題を設定する能力と,定義された問題を解く能力は違います。あえて,乱暴を承知で前者をコンサル脳,後者をSE脳としましょう。日本人は後者の解決力(ソリューション脳)が優れ,発想力が必要な問題設定や問題発見はあまり得意ではありません。課題対応型思考とも言えます。不具合を究明し改良するのは得意ですが,目的ビジョンから,あるべき姿をトップダウンで考えていくのは苦手です。

 顧客脳とSE脳とコンサル脳があるとします。それぞれの持分は,What,How,Whyです。Whatは要望・要求です。HowはWhatを解くために詳細化しますから,問題であるWhatの曖昧な部分を明確化させます。このため,HowとWhatの間は行きつ戻りつすることになります。そして,Whatが明確化すると新たなWhyが出てきます。「すぐHowで解こうとするな!」そんな建前論を言うのはHowができない無能コンサルだけでしょう。

 Whatに対してHowとWhyでブラッシュアップすることこそ,一番大事なことです。コンサル脳を持ったSEしかできないことです。この「HowとWhyでWhatをブラッシュアップせよ!」は,このコラムの重要な主張ですので,別途議論します。

 しかし,SEはまずインプリメンテーションに責任があります。Whyは,目的展開のような上位の認識に働きかけますが,SEは上位化・発散化なんて心情的に拒絶したいのです。ですから,「要件を言って下さい私作ります」になってしまうのは,SE脳の防御本能からしたら自然なのです。

 結果として,正しくないことを正しく構築してしまうことが往々にして起きてしまいます。要件をお客が言えるなんて錯覚です。それは要件ではなく要求であり,単なる要望や願いや思いです。要件定義とは,お客さんも気がついていないことを,SEがお客さんと共に見つけることなのです。

 システム要件が正解かどうかの判定は不可能です。自然科学で言うような,受験問題のような正解はありません。ステークホルダーの合意形成がより良く図れるかどうかで決まります。ですから,環境や企業ごとに正解は違います。大企業で成功したパッケージ(ERP)を,小ぶり低価格にして中堅・中小企業に展開してもうまく行くはずもないのです。