マイクロプロセッサの開発に関しては,日本人よりも米国人の気質のほうが向いていると思われる。米国にも仕事に夢中になるワ-カフォリック(仕事中毒)の人がいて,朝の8時から夜の7時まで仕事をみっちりやる。必要であれば,朝7時に会議を招集しても文句を言わない。今の日本人よりも高度成長時代の日本人に似ている。昼の1時間の休みを除いて,10時間ぐらい集中力を保ちつつ働くことができる。

 プロジェクトの開発会議では,長時間にわたってアイディアを出し,評価,批評,討論を行う。またアーキテクチャ設計,論理設計,回路設計などでも長時間集中力を保つ必要がある。こうした状況で要求される,柔軟で回転が速く強い頭脳と,仕事における体力は,日本人より米国人のほうが優れているようだ。しかし,環境を変えれば日本人でも体力は付くものである。

 日本人を米国に連れていったら,1時間の会議を連続して6回続けただけでギブアップしてしまったことがある。このときは,米国の開発技術者と比較してあまりにもひ弱でがっかりした。日本人も国際的になるには頭脳と肉体の両方で“体力”が欠かせない時代になった。午前中から頭脳が高出力・高回転できないようでは,とても米国人に太刀打ちできない。

 米国人は,働くときは働くが,休むときには徹底的に休む。そのために,スケジュ-ルを逆算して立てるのが非常にうまい。日本人によく見られる,個々の過程を積み重ねて計画を立てる方式と違い,プロジェクトのスケジュ-ルをあらかじめ調整できるし,ボトルネックがどこに生じそうかも事前に分かる。日本と比べてはるかに仕事がやりやすく効率的である。

 また米国人は,仕事の進め方も速い。日本人は,どちらかと言うと1つのことをじっくりやりたがる傾向がある。しかし,マイクロプロセッサの開発では,ア-キテクチャ,論理,回路,パタ-ン,テストなどの互いに関連する設計がある。1つの段階の仕事をするためにはその両脇の仕事を把握しておかないとなかなかうまくいかない。1つの仕事をじっくりやるよりも,いろいろな仕事を素早く少なくとも3回はやったほうがはるかに良い仕事ができるのである。

 こうしたスピ-ド感がある仕事のやり方は,若いときに習得しないと一生身につかない。何事もそうかもしれないが,マイクロプロセッサの開発でも,1回目は習うだけで精いっぱい,2回目で覚えたことが何とか使えるようになる。3回目でようやく余裕が出て,自分なりの発想に基づいた開発ができるようになる。

 米国人は自分のキャリアパスを考えて仕事をするので,脚光を得られる仕事だけを求めず,将来必要になる技術をどん欲に吸収しようとする。嫌な仕事でも満点を取ろうとして一生懸命やるので,教えがいがある。30歳になるまでに,開発に関するすべての仕事を一通り習得することが大切だ。そうしないと,ただの設計技術者で終わってしまう。

 米国の大学生は,よく勉強することに加えて,学生時代に将来役に立つ専門分野でのアルバイトをする。このため,「仕事をすることとは何か」を教える必要がない。大学の学部卒業者を採用しても,日本の修士卒業者より優れていることが多いのは,これが理由の一つであろう。