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 4月8日土曜日,9時20分東京発ののぞみで京都に向かった。春は京都,と決めている。2000年以来,毎年桜の咲くころに京都研究会を開催しているのだ。京都に多いしだれ桜は開花が遅く,4月初旬から中旬が見ごろになる。しだれ桜には白しだれと紅しだれがあり,紅しだれは白より1週間ほど開花が遅い。2種類の桜があるおかげで,京都では花を楽しめる期間が長い。白しだれで有名なのは丸山公園や醍醐寺,御所。紅しだれは平安神宮が圧巻だ。

 今年の京都研究会のテーマは,私が担当した「これからどうする企業ネットワーク」と,今秋ケータイに新規参入するアイピーモバイルの丸山孝一さんに話してもらった「新規参入ケータイの戦略と技術的特徴」だ。ここでは,私の講演で取り上げた「プレゼンス」について書こうと思う。

電話よりIMで便利なプレゼンス

 IP電話のベンダーはプレゼンスこそIP電話の目玉であるかのようにセールストークを並べる。曰く,「相手の状態を確かめて,電話か,メールかIM(インスタント・メッセージング)か,最適な通信手段が選択できます」「無駄なかけ直しや取次ぎをなくせます」。

 IP電話ベンダーだけではない。次世代ネットワークの根幹がプレゼンスであるかのような製品コンセプトをうたうベンダーもいる。本当なの?と疑ってしまう。実際どれほどプレゼンスが使われているのだろう。こんな時には情報化研究会のメンバー1000人あまりにメールで簡単なアンケートを飛ばすことにしている。「プレゼンスを使っていますか」「使っている方は何が便利ですか」「プレゼンスが今後の企業において重要なサービスになると思いますか」という内容だ。約40人の方から回答を貰った。数は少ないが,意外な事実が分かった。プレゼンスは電話で使うよりIMで重宝されているということだ。

 プレゼンスを使っているのは半数。情報通信に関連する仕事をしている人が多いので,一般的な傾向に比べて比率は高めだろう。面白いのはプレゼンスを使っている人でIP電話を使っている人は半分しかいないことだ。IP電話でなければ何のプレゼンスを使っているのだろうか? IMのプレゼンスを使っているのだ。しかも,IMユーザーほど,プレゼンスの便利さを具体的に書いている。例えばこんなコメントがあった。

 「メッセンジャーみたいなプリミティブなものですが,チームと席が離れているので,在籍の確認と簡単なメッセージですね。ダイヤルしなくていい,メール送信までの2,3のクリックがいらないなど,簡単でいいです」(証券アナリスト)。

 「GoogleTalk(GoogleのIM)を社内の人(自部署と他部署にいる数名)と連絡する場面で使っています。在籍状況が分かり,今すぐ知りたいことをチャットや電話で聞けるので便利です」(IT関連雑誌編集者)。

 対して,IP電話を売っている人のコメントは長いのだが実感が薄い。

 「事前に相手が席にいるかどうか確認することで,最適な連絡手段(内線電話,携帯電話,伝言,メール)を自分で判断でき,即アクションを起こせるようになっている点が役立っている。後は,“IP電話はただの電話ではない!”ということをアピールする点について説明しやすく分かりやすい点(インパクト的にどうかは別)」(IP電話ベンダー)。

 筆者はプレゼンスを見て最適な連絡手段を選ぶほど気が長くない。すぐ捕まえたければ社内・社外にかかわらず,その人のケータイに直接電話をかける。ケータイはそれ自体が「電話に出られる状態か否か」というプレゼンス機能を持っている。出てくれたらもうけもの。出てくれなくても伝言を残せる。伝言を残すのが面倒ならすぐ切ればよい。先方の着信履歴に私の名前が残り,コールバックして貰える。話中の時はしょうがない,数分後にかけなおす。急ぎの用でなければケータイでも固定電話でもなく,メールですませる。

 ケータイのプレゼンスが優れているのは社内・社外を問わず使えることだ。社内だけのプレゼンスなど,筆者にはほとんど価値がない。コラボレーションの必要なメンバーはお客様やベンダーなど社外が多いからだ。社内のメンバーは目の前に座っている人たちがほとんどなので,プレゼンスは眼に見えている。

 とは言うものの,IM+プレゼンスの便利さは認める。筆者はSkypeを細々と使っている。細々なのはSkypeをビジネスで使う相手が増えないからだ。Skypeのプレゼンスには,オフライン,オンライン,一時退席中,退席中,取り込み中などがある。筆者のコンタクトには,Skype社の人や通信系専門誌の編集者の状態が表示されている。何か聞きたいことや相談があるとオンラインであれ,オフラインであれ,その人のコンタクトをクリックしてメッセージを送る。メールのように宛先アドレスを選んだり,表題をつける必要がないのがいい。オフラインで送ってどうするんだと思う人はIM未経験者か初心者だ。オフラインの相手にメッセージを送っておくと,オンラインになった時に配信される。伝言メモになるのだ。 

IMのプレゼンスが便利な理由

 筆者の言うIMでのプレゼンスの便利さは上述の証券アナリストや編集者と同じだ。しかし,コメントに書いてないが重要な理由がある。SkypeもGoogleTalkも,プレゼンスを入力する必要がないことだ。Skypeはオンライン,オフラインだけでなく,マウスの動きを見て一時退席中,退席中を自動表示する。GoogleTalkはサインインすると自動でAvailableとなり,手動でbusyの設定や独自メッセージの表示ができる。

 逆にIP電話に付属するプレゼンスに対して否定的なコメントの多くはプレゼンスの入力に関するものだ。「現状、グループウェアでもスケジュール管理(入力)できないなかで普及はのぞめない」「自分で都度状況を入れるとは思えない」「現在のプレゼンスでは自分の状態を手動設定しなければならず不便と感じています」といったものだ。

便利なプレゼンスの条件

 プレゼンスの将来についてはこんないいコメントがあった。「ビジネスで使うかどうかは,その会社がどれくらいそれを強要するかにかかってきます。プレゼンスを適切に入力することが周知徹底されれば便利さが増すので誰もが使うようになると思います。うちの社内ツールのように各自がプレゼンスをきちんと設定していないケースではまったく使われません」。この方はGoogleTalkを使っている先に紹介した編集者だ。 

 キーワードは「強要」と「誰もが」。筆者はプレゼンスはコラボレーションを効率的にしたい人たちが使うものだと思う。コラボレーションも,コミュニケーションも強要はできない。必要があるから自発的に行うものだ。編集者の方がGoogleTalkを一部の人と使っているのは強要されたからではなく,必要で便利だからだ。プレゼンスは全社員に強要することはない。「必要な人だけ」が「自発的」に使えばよいのだ。

 コラボレーションには社内のメンバーだけでなく,社外のメンバーも入っている。社内外にわたるコラボレーションで便利に使えるプレゼンスの条件は三つにまとめられる。タダ,簡単,安心だ。タダであれば予算不要なので他社のメンバーにも気軽に薦められる。簡単とはインストールや操作が容易で,プレゼンスが自動設定であること。安心とはセキュリティ上の不安がないことだ。

 この三つの条件を満たすIM+プレゼンスがデファクトになると,通信の世界で相当なインパクトを持つことになるだろう。それはGoogleTalkなのか,Skypeなのか,MSメッセンジャーなのか,まだ分からない。筆者のように企業ネットワークの仕事をするものにとっては,これらの条件を満たすツールをWatchし,優れたものをユーザーに推奨することが大切だと思っている。タダのツールを紹介してもビジネスにならない? そんなことはない。ツールがタダでも,コラボレーションはIMだけに留まらず,ビデオコンファレンスにまで発展するのは眼に見えている。それが快適に企業ネットワーク上で使えるにはそれなりのネットワークを用意せねばならないし,適切な端末などのハードウェアも必要だ。

高台寺のしだれ桜

 京都研究会の翌日曜日は花見をするのが恒例だ。今年は4人で清水寺と高台寺で花見をした。清水はソメイヨシノで,ちょうど満開。高台寺は秀吉の妻,北の政所が創建した寺で,その廟所もある。東山を借景し,人工の池を配した広い庭はすばらしいものだったが桜はほとんど見当たらなかった。しかし,中庭にこれ1本で充分というべき見事なしだれ桜が咲いていた。