図1●内部統制に関する法整備
図1●内部統制に関する法整備
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 世間では最近、「内部統制」に関する話題が花盛りだ。ところが中味をのぞいてみると、意外に不正確であったり、曖昧な内容のものが少なくない。一部で「内部統制=日本版SOX法(企業改革法)」という誤った図式が、ひとり歩きしているからだ。今回はこうした誤解を解くために簡単な説明を加える。

金融商品取引法

 ごく最近まで、「日本版SOX法」がどの法案を指しているのか、きちんと特定していない記事や論考が見受けられた。「日本版SOX法」にしても「企業改革法」にしても、そうした名称の法律や法案など、わが国に存在しているわけではない。

 世間で「日本版SOX法(企業改革法)」と呼ばれているものの正体は「金融商品取引法」という法律だ。現在開会中の164回(常会)国会に「証券取引法等の一部を改正する法律案」(閣法81)が提出されている。「閣法」とは内閣提出法案の意味であり、2006年 3月13日に衆議院が法案を受理したばかりだ。金融商品取引法は、この法案によって新たに制定が予定されている法律として位置付けられている。このように最近になってはじめて法案が提出されたので、これまで「日本版SOX法」などという曖昧な“仮称”で呼ばれてきたことには、無理からぬ面もある。

 この法案は、従来からある証券取引法をベースに、金融先物取引法、投資顧問業法など、現在バラバラとなっている複数の関連法令を、できる限り統合して一本化しようというものだ。一本化によって、前述の金融商品取引法という新法が生まれる。通称「投資サービス法」と呼ばれている。関連する法律を整備するための法案(閣法82)も、同時に提出されている。

 これまで金融分野は個別分野ごとの業法によってタテ割りで規制されていた。しかし、最近における金融自由化の進展や、金融技術の革新に法制度が追いついておらず、投資家保護も十分とはいえなかった。そのため、新たに一本化することによって「穴」をなくす、というのがその目的だ。

 一本化によって、国債、地方債、社債、株式、投資信託などが包括的に対象となる。ライブドア事件や平成電電の経営破綻で話題になった投資事業組合などの投資ファンドは従来、監督の対象外だったが、今後は原則として対象となる。このように名前のとおり、さまざまな金融商品の取引を包括的・横断的に対象としている。

 元本割れのリスクがある金融商品に関し、販売時に書面による説明を義務付けるなど、投資家保護のルールを包括的かつ横断的に整備する。その半面、機関投資家などプロ投資家に対する関係では、説明の減免など規制緩和が図られる。これによって取引コストの削減が図られる。

 他にも、上場企業に対する四半期決算(現在は半期決算)開示の義務付けや、風説の流布など不正行為に対する罰則強化、TOB(株式公開買い付け)制度の明確化などが盛り込まれている。

 もちろん、金融商品取引法は内部統制についても定めている。具体的には、(1)上場企業は内部統制として管理体制を整備・自己評価し、(2)内部統制が適正に機能しているかについての自己評価結果を記載した「内部統制報告書」を決算時に公表し、(3)公認会計士又は監査法人の内部統制監査を受け、(4)監査結果が記載された「内部統制監査報告書」も公表するという流れだ。内部統制報告書への虚偽記載は罰則の対象となる。

 だが、先に述べたように、金融商品取引法の中であくまでも内部統制は一部分に過ぎない。このように、内部統制だけでなく、他の事柄についても広く定めているという限度では、「内部統制<金融商品取引法」という図式となる。

新会社法

 その一方、今年の5月1日に施行される新たな会社法の中にも、「内部統制システムの構築の義務化」が定められている。所管の官庁である法務省民事局の「『会社法』の概要」は次のように明記している。

 大会社について、内部統制システム(取締役の職務執行が法令・定款に適合すること等、会社の業務の適正を確保するための体制)の構築の基本方針の決定を義務付けています。

 このため、内部統制に関する法整備は、金融商品取引法だけでなく、新会社法との二本立てとなる。その意味では「内部統制>金融商品取引法」という図式となる。

 以上を図示すると、図1のとおりとなる。「内部統制=日本版SOX法(企業改革法)」という図式が誤っていると述べたのは、このような意味によるものだ。次回は、会社法の内部統制システムについて、さらに踏み込んで説明する。

◎関連資料
証券取引法等の一部を改正する法律案 第164回通常国会 閣法第81号(衆議院)
証券取引法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案 第164回通常国会 閣法第82号(衆議院)
「会社法」の概要(法務省)
企業会計審議会内部統制部会の公開草案の公表について(金融庁)