日本ユニシスが成長の糸口をつかんだ。06年3月15日に米ユニシスが保有する日本ユニシス株(27.8%)のほぼ全株を手放したからだ。日本ユニシスが約174億円をと投じて10%を取得し、残りの17.8%はモルガン・スタンレー・ジャパンを通じて、機関投資家が買い取った今、日本ユニシスの主要株主は27.8%を持つ三井物産だけである。同社との連携が成長路線への転換の鍵を握る。

 1988年に日本ユニバックとバロースが合併して誕生した日本ユニシスは、その効果を上げられず、この10年間は売上高3000億円程度で推移している。米ユニシス製メインフレームにこだわりすぎ、オープン化の波に乗り遅れたことに加えて、数年ごとに三井物産から社長が送り込まれ、そのたびに経営方針が変わったことも大きく影響したとされる。

 そのような状況で売り上げや利益を維持する苦肉の策が大きな資産であったハードやソフトのレンタル・ユーザーを売り切りに切り替えることだった。社内で“最後の砦”と言われていたレンタルを徐々に削減した結果、資産はこの8年間で500億円強も減ってしまった。それが日本ユニシスの実情である。

 そこで昨年6月、三井物産副社長から日本ユニシスに転じた籾井勝人社長は年率10%超で成長させ2010年度に売上高5000億円、営業利益300億円という目標を社内にぶち上げた。「得意分野以外にほとんど目を向けなかったので、選択と集中というほど様々な分野は担当していない」と日本ユニシスを分析した籾井社長は金融、産業、公共・サービスの3つの事業部門に幅広い業種展開を指示した。しかしそれでも、例えば金融部門は年率5%成長の計画しか立てられなかった。

 こうした現状を打破する方策として打ち出したのが、米ユニシスとの関係見直しとM&A(企業の買収・合併)である。経営不振に苦しむ米ユニシスと交渉し、自由にハードやソフトを自由に選択できるようにした。米ユニシスと競合するため難しかった海外進出も可能にした。05年10月には、毎年100億円程度を支払ってきた「ユニシス」の商標使用料を改定し、2年間で2億2500万ドル(約270億円)を支払うことで永代使用の権利を獲得した。

物産グループの真のIT部門に

 ただ、米ユニシスとの関係見直しは“重荷”を下ろしただけのこと。長年、ITサービス産業の中で伸び悩んできた日本ユニシスにとって、「成長路線に転換できるかどうかの鍵を握っているのは、三井物産との連携」(籾井社長)なのである。「なんだ」と言われそうだが、物産やそのグループ会社の情報システム構築を請け負うことで、売り上げ拡大を図るという単純な図式ではない。物産やグループ会社の“真のIT部門”の役割を担えるかにかかっているのだ。

 具体的には、物産が立ち上げる新規事業やグループ会社の業務改革のフェーズからプロジェクトに参画し、グループ各社が業界内で競争に打ち勝てる情報システム作りを実現させること。日本ユニシスがリアルビジネスとの関係を深めることで、そこから得たノウハウを生かして、物産をはじめとするグループ会社のITインフラと、その上に乗るアプリケーションなどを含めたサービスを提供する。業種の異なるA社とB社、さらにはC社を結びつけるようなITインフラを手掛け、そこに参加する企業が増えるので、数十万台のサーバーで膨大なデータを処理する、いわゆる“企業別・産業別プラットフォーム”を実現させるシステムやデータセンターの仕組みを作り上げていく。

 こうした企業別・産業別プラットフォームを巡る覇権争いが、これからのITサービス会社の主戦場の1つになる。かつて日本ユニシスはasaban.comというASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)事業を展開した。インフラ作りに重点が置かれたこともあり、その後の投資抑制でこの事業はほぼたち切れになってしまった。だが、今の日本ユニシスは「無借金に近く、お金が遊んでいる経営状態」(籾井社長)。新技術の強化やM&Aをいつでも実行できる環境にある。

 新技術で注目されるのが、04年8月に発表した膨大なデータ処理を可能にするITインフラ技術Rinzaである。Rinzaは数十万台のサーバーから構成されるITインフラを実現させるものなので、この技術をベースにすれば企業別・産業別プラットフォーム作りを狙える。

 それを推進するうえで、物産系ITサービス会社との協業も欠かせないだろう。例えば三井情報開発などだ。米ユニシスから取得した自社株を株式交換に当てることもできるだろう。もちろん、物産にとって特別な存在になれるかどうかが、日本ユニシスの競争力を大きく左右するが、優良顧客を抱える日本ユニシスの買収を虎視眈々と狙っているITベンダーがないとは限らない。ストレージなどのハードを供給する日立製作所とは金融分野のSIでも協業するなど深い関係にある。日立のSI担当役員は「日本ユニシスとは包括的にいい関係にある。いい会社だと思っている」と語っている。

 日本ユニシスは成長の糸口を切られないよう、明確な戦略を早急に打ち出す必要があるだろう。

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注)本記事は日経コンピュータ06年4月3日号「ITアスペクト」に加筆・修正したものです。