写真1●マレーシアのCodeFest会場
写真1●マレーシアのCodeFest会場
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写真2●CodeFestでのg新部氏の講演
写真2●CodeFestでのg新部氏の講演
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 2006年3月4日から8日にかけ,マレーシアで「7th Asia Open Source Software Symposium(AOSSS)」が開催されました。私,アルファシステムズの北川健司は今年の2月28日にリリースされたAccelerated-KNOPPIX 1.0(起動を高速化したCD起動Linux,注を参照)を展示するため,このAOSSに参加しました。

 また,AOSSSに合わせる形で開催されるもう一つのイベント「CodeFest」(2006年3月4-5日)にも参加しました。それは,今回のCodeFestのテーマが”Effective use of GNU/Linux with special focus on live-CD Distros for localization,education and security”であり,ライブCDに焦点が絞られていたからです。

 CodeFestとは,世界中に散在するオープンソース・ハッカーがフェース・トゥ・フェースで議論し,ソフトウエアの開発を進めるイベントです。日本以外で開催されたCodeFestは,2005年3月の中国以降,2005年9月のスリランカ,今回のマレーシア(2006年3月4-5日)とAOSSSの開催時期と合わせる形で実施されています。

 今回はCodeFestについて,私が見た事,聞いた事,感じたことを簡単ではありますが,お伝えできればと思います。

パソコン普及率とライブCDの関係

 CodeFestは,AOSSS会場のホテルニッコー クアラルンプールから車で30分くらいの所にある政府系公社MIMOS研究所で開催されました。

 会場に入ってまず感じたことは,参加者が30人弱と思ったより人が多いということでした。顔ぶれも実に様々で,現地マレーシアをはじめとする,韓国,タイ,スリランカ,ネパール,パキスタンなどから開発者が集まりました。日本からはg新部裕氏,八田真行氏,中田真秀氏,吉田悠一氏,須崎有康氏,風穴江氏,北川の7名の参加でした。

 写真1は,初日に私の席から撮ったCodeFest開会前の室内の様子です。私が座った席の横にはMIMOSマークの付いたデスクトップパソコンがあり,周りを見渡すと等間隔で同じものが配置してありました。なかなか良いスペックのPC(Pentium4 2GHz,メモリー1Gバイト)で,後でKNOPPIXのリマスタリングに使用させていただきました。

 CodeFestが開会され,KNOPPIXについて簡単なプレゼンをしたこともあり,色々な人と議論をする機会が持てました。その中に,様々なライブCDのディストリビューションを研究しているというMIMOSスタッフがいました。日本ではパソコンが十分に普及しており一人で何台も使っている人も多いと思うが,彼によれば,マレーシアではまだパソコンが余り普及していないらしい。当然,そういった状況は,エンジニアが育つ土壌としてはあまりよい環境とは言えません。

 オープンソース・ソフトウエアで構成されたライブCDは,ハードウエアに依存しないデスクトップ環境を安価に配布でき,オープンソースソフトウエアをリファレンスとしても参照できるため,次の世代のエンジニアを育てるという重要な役割を担う一つの手段として必要であるのかも知れません。

意気投合,その場でライブCDを高速化

 さらに話を聞くと,KNOPPIXについても色々と研究しているらしく,数日前に公開したばかりのAccelerated-KNOPPIXもすでに記事としてチェックしていました。そこで高速化の仕組みについて説明をすると,なんとKNOPPIXをベースにしたマレーシア版のKNOPPIX「MIMOS LiveCD」があるということが判りました。すぐに意気投合して,そのライブCDをAccelerated化しようということになり,先程の写真に載っていたデスクトップマシンを拝借して,ライブCDの高速化を行いました。

 その結果,「Malaysian Mimos Accelerated LiveCD」として既存の半分の時間で起動するライブCDを作成することができました。この開発により,ライブCDの利便性が向上し,活用の機会が増えることを期待しています。

理論と実装

 今回のCodeFestでは,各チームが議論して開発に取り組んだ5つ程の大きなテーマ以外にも個々人がハッキングした成果など,短い期間ではありましたが密度の高い時間を過ごせた事は言うまでもありません。成果についての詳細はこちらのページを参照してください。

 写真2は,g新部氏がLinuxカーネルの開発者としての経験談を交えたオープンソースについての講演の中でデモを行っている様子です。多くの参加者が興味を示し,大変な盛況となりました。CodeFestは,私も含め多くの開発者が今後の活動のための何かしらのきっかけとして受け止めてくれた事だろうと思います。

 AOSSSとCodeFestはまさに理論と実装という極性を持っていますが,互いにオープンソースソフトウエアを推進するという目的では同じです.アジア各国の実情は実に様々ですが,政治面と技術面からのアプローチでそれぞれ推進し,各国の協力体制を確立する重要な役割を果たす取り組みであると言えます。

KNOPPIXとAccelerated-KNOPPIX
 KNOPPIXはCDから起動するライブCDの一種で,インストール作業を必要とせずに動かすことができます。ドイツのKlaus Knopper氏が中心となり開発しているDebian GNU/Linuxベースのディストリビューションで,独立行政法人 産業技術総合研究所により日本語の標準化が進められています(http://unit.aist.go.jp/itri/knoppix/)。KNOPPIXを含むライブCDはパソコン関連の雑誌の付録としても定着してきましたので,触れたことがある人は多いと思います。
 Accelerated-KNOPPIXとは,ライブCDの短所である起動時間を既存の半分以下にしたKNOPPIXです.CDドライブでシークが発生しないようにブート時に読み出されるデータを最適配置,先読みする機構などが実装されています(http://www.alpha.co.jp/ac-knoppix/index.html)。Accelerated-KNOPPIXは,独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)の2005年度 上期 オープンソースソフトウエア活用基盤整備事業「CD/DVD起動Linuxの速度改善ドライバの開発」によって開発されました。