昨年11月に、毎日新聞愛読者サイト「まいまいクラブ」が、コメントOKのブログ形式でオープンしました。現状では、コメントは事務局の承認制、トラックバックはできないという限定つきのブログではあります。しかし、全国紙の署名記事に誰もがコメントをできる「日本初の双方向メディア」ができたのです。

 先日、この「まいまいクラブ」生みの親である毎日新聞記者中島みゆきさんと、あるランチミーティングでお会いする機会がありました。中島さんは、このサービスを始めるにあたって、ぜひとも読者参加型の双方向コメント機能を入れたかったのだそうです。これまで「あってもよさそう」なのに「誰も踏み出せなかった」ブログを始めた勇気に、私は拍手を贈ったのです。

 まだ、始まったばかりですが、コピーライターの仲畑貴志さんが稽古をつける「万能川柳+α」などは既に人気化しているとのことです。また、選者の大高翔さんをも驚かせる「ケータイ写真俳句」も、カメラ付ケータイメールとブログの特性を生かした楽しい企画で感心します。、むしろ新しいジャーナリズムというより、団塊世代のアクティブシニア同志で盛り上がるネットコミュニティとしての機能が先行しているようです。

 それでも、この記者・読者交流ブログが、毎日新聞を変えていくポテンシャルは十分にあると考えます。

「記者・編集者なくしてクオリティ保証できず」の壁

 時事通信の記者ブロガー湯川鶴章さんネットは新聞を殺すのか」「ブログジャーナリズム」を興味深く読んでいた私には、なぜ全国紙がこうした双方向ブログをすぐに始めなかったか、不思議でなりませんでした。

 もちろん、2ちゃんねるのある種のスレッドのように罵詈雑言と流言蜚語が飛び交う荒野になることを、即ち「ブログの炎上」を恐れたこともあるでしょう。その結果、何より信用を失って、大切な読者と企業広告が獲得できなくなってなっては困ります。

 先日、新聞社がブログをはじめない理由のひとつを、ある全国紙関係者からお聞きした言葉で、半ば驚きながらも納得しました。それは....「記者が書いた記事、編集者がチェックした文章以外は、自社の名前を冠したメディアからは発信できない。なぜなら、品質が保証できないからだ。」という発想....いわば「記者の壁」でした。

 確かに、世にあふれるブログやメルマガの多くは、そのまま信じてよいかどうか疑わしいかもしれません。相対的に見れば、プロの新聞記者・編集者の方が、判断能力も上でしょう。先日、元産経新聞論説副委員長花岡信昭さんが、nikkeibp.jpの連載コラムに「これでいいのか? ブログ世界の理不尽な未成熟さ」と書かれていたように、事実を確認せずに思い込みで書くブロガーが多いのも事実です。

 しかし、いくらプロとはいえ、誤報や誤認記事がないわけではないでしょう。また、すべてのジャンルに詳しいスペシャリストが揃っているわけでもないでしょう。その道のプロが見たら、訂正したくなる記事もあるはずです。

 また、新聞記者は本来、読者が知りたいことを、読者に代わって取材するエージェントであるはずです。それなのに、読者の視点に立った取材がなされていない場合もあるでしょう。記事そのもののクオリティーが高くとも、これでは、本来のお客様=読者の満足度を高めることはできないでしょう。また、一般の読者にとっては、記者の勲章と言われる「特ダネを抜く」ことは、さして価値があることとも思えません。

 しかし、「まいまいクラブ」のような双方向ブログは、未成熟なブロガーに時に荒らされながらも、少しずつこうした障壁、いわば「記者の壁」を少しずつ壊していく可能性を秘めていると考えます。それも、破壊的な形ではなく、記者と読者との交流という形で.....。

「記者の目・読者の目」の可能性はまだ半分

 「記者の目・読者の目」は、毎日新聞記者の署名記事をネットに掲載し、それに対するコメントを集めるものです。

 ここに書いたコメントは、通常のブログのように、すぐさま画面に反映されるわけではありません。ブログ運営者の承認があってはじめて掲載されますが、中島さんによれば、掲載できないケースは予想に反してごく少ないそうです。

 この種のブログの特性で、記事によって、コメントのばらつきや発言者の偏りは見られます。記者の方々に気づきを与えるものもあれば、参考にならないものもあるでしょう。しかし、玉石混交とはいえ、合わせて読めばその記事を、より多角的立体的に考えるに足るようなコメントが並んでいることもあります。

 私見では、このコーナーは、ちょっとした工夫で、さらに活性化できるはずです。

 そのヒントは、このコーナー最初の記事、「2005年11月11日(金曜日) 浅野・宮城県知事の引退=石川貴教(仙台支局) 」で、記者の石川さんが無意識に取った行動にあります。なんと執筆をした石川さんご自身が、寄せられたコメントに対して、真摯な返信コメントを書いていたのです。

 そのことに、どれだけの人が気づいたかは不明ですが、最後のコメントを寄せた、ひだまりさんは、石川さんの今後の取材に期待していることがわかります。まさに、愛読者と記者との絆が結ばれた瞬間だと思ったのは私だけでしょうか?

 ところが、残念なことに、こうしたコメントの絆が育まれた例はごくわずか。最近は、執筆記者もお忙しいのか書きっぱなし、コメント読みっぱなしのままに放置されています。しかも、コメントを書くのは常連ばかりとなりつつあります。こうした「コメント放置」の中では、新たなコメンテーターは出現しづらいですし、コメントを書いた人の動機付けも限界的でしょう。

記者と読者との交流を活性化させる5つの私案

 もし私が毎日新聞の社長だったら、石川記者の行動をヒントに、次の新ルールとシステム改革を社内に指示することでしょう。

1)自らの署名記事のコメントに必ずお礼コメントを

 署名記事に対する読者のコメントは、いわば記者にとっては、記事に対する評価であるばかりか、顧客満足度や人気のバロメーターでもあります。そこにコメントを書いてくださった方は、たとえそれが、誤解に基づくものであれ、苦言に満ちたものであれ、将来の愛読者=ファン候補であることに変わりはありません。なにしろ、マザーテレサが看破したように愛の反対は憎しみではなく無関心ですから、批判コメントの主も「関心を寄せてくださっていること」に変わりはないのです。

 私なら、特に反対意見に対しては、むやみに反論せずに、まずは「ご意見ありがとうございました」とお礼を言うでしょう。また、はじめてコメントをしてくださった方には、お礼を忘れないはずです。たとえブログ上ではあっても、こうして愛読している新聞の記者と交流できることは、読者にとって特別な体験なはずです。ましてや、お礼やほめ言葉をいただいたら、私ならその記者さんを大好きになってしまうはずです。

2)今日の「コメント大賞」「コメント新人賞」を設ける

 コメントは真っ先に書かれているものが、読まれる可能性が高いのですが、これを書き込んだ順にすると、どうしても常連化しやすいのです。そこで、1日後に記者か事務局が「コメント大賞」「コメント新人賞」を選んで、それらが真っ先に表示されるようにしてはいかがでしょう?

 そうすれば、今後コメントが増え続ける中、コメントを全部は読まない読めない人にとっても便利です。また、いつもコメントを書く人、はじめてコメントを書く人も気合が入るでしょう。

 その選考基準はもちろん偏ってはなりません。各新聞に「固有の論調」があるのは、ブロガーにとっても周知の通りです。だからこそ、積極的に反対意見を選ぶことで、社会の公器としての新聞社の心意気を示すことができましょう。

3)コメンテーターに実名・プロフィール公開の勧奨

 記者が実名なのですから、心ある読者コメンテーターにも、実名とプロフィールを公開することをお勧めしてほしいのです。もちろん個人情報保護やニュースソース秘匿の問題もあるでしょうから、ご自身の意思におまかせするのが原則です。

 しかし、今後、このブログが活性化して、コメントがたくさん寄せられるようになったら、私なら、実名・プロフィールが明らかな人のコメントから読むようになるでしょう。実名公開の人のコメントだけを読めるか、実名公開の人を上位に表示する機能も追加してほしいものです。

4)優良コメンテーターの会員制

 実名で一定以上の量と質のコメントを書いた方など、事務局が認めた方に、公認コメンテーターの称号とプロフィールページを与えても良いでしょう。前述の「コメント大賞」何回以上という基準も良いかもしれません。こうしたコメンテーターは、毎日新聞にとって宝になりえるのですから、積極的に会員組織にしても良いはずです。

 また、独自の情報網を持っているコメンテーターには、取材協力もお願いできるとしたら、最近話題のセールスレップ(販売代理人)ならぬ、レポートレップ(取材代理人)という制度も新たに構築できるかもしれません。

5)会員限定でリンク・トラックバックを認める

 こうした、心ある会員コメンテーターの多くは、人気ブロガーであることも大いに考えられます。そこで、会員限定で、トラックバックを認めても良いでしょう。おそらく、互いのアクセス数や検索エンジン対策で大きな前進が見られるはずです。

 野放図に、外部へのリンクやトラックバックを認めると、毎日新聞といかがわしいサイトがリンクされてしまうかもしれません。しかし、このコミュニティを愛する会員限定ならば、新聞社と読者双方の立場を理解したエージェントとして、バランスの良い情報提供をしてくれるはずです。

「ニュースに一言」も編集長コメントと紙面連動で

 もうひとつ、あるテーマ「お題」について、読者が意見を述べる「ニュースに一言」も大きな可能性を秘めていると思います。

 そのお題は、いかにも意見が盛り上がりそうなものが多くてさすがです。「記者の目・読者の目」のテーマが堅いものが多いのに比べると好対照です。最近のお題を見ますと、

 2006-3-24 プロ野球人気は復活するでしょうか?
 2006-3-01 イラクの陸自撤退、どう考えますか?
 2006-2-15 トリノ五輪の“メダル不振”どう見ますか
 2006-1-31 京都議定書発効から1年
 2006-1-24 ライブドア報道に何を期待しますか?
 2006-1-18 ライブドアに強制捜査 どう見ますか?
 2006-1-10 「景気回復」 実感は?

 これなら、誰もが、ちょっと意見を言ってみたくなるのではないでしょうか?残念ながら、今のところ、常連コメンテーターが多いのですが、これも先ほどの試案の応用でもっと活性化できるはずです。

1)記者や論説委員も「ニュースに一言」する

 まずは、担当者はもちろん、それ以外の記者や論説委員も、その中に混ざって意見を述べるようになると盛り上がるはずです。もちろん、ライバル記者のコメントも歓迎すると良いでしょう。

2)その道の識者にも参加していただく

 よく新聞紙面にコメントを求められて登場するような学者、評論家、コンサルタントなどにも、テーマ別のメーリングリストを作って、コメントをお願いしたら良いでしょう。自分でブログを持っているような方なら、原稿料なしでも、多くの人の意見が読まれ、自分のブログへのリンクやトラックバックができるという利点だけで書いてくれるはずです。

3)最後にデスク、部長、論説委員が総括コメント

 自分のコメントを最後に新聞社のオピニオンリーダーが総括コメントをしてくれると、「読まれる、評価される」ことを目指して、コメントを書く人の意識が変わるでしょう。コメントを書く人の量も増えるでしょうし、少しずつ質も高まることでしょう。

4)コメント大賞・新人賞を選ぶ

 「記者の目・読者の目」と同様に、総括コメントの中で、毎回のMVC(最優秀コメンター)を表彰しても良いでしょう。もちろん新人賞も作ります。お稽古と同様に、MVC
を受賞するたびに昇級・昇段する仕組みを決めても良いはずです。最後は、準社員や記者としての採用の道を作ったら、さらに盛り上がるでしょう。

5)新聞紙面との連動

 新聞紙面に「ニュースに一言」の優秀コメントを編集して紹介するコーナーを作ったら、さらにコメントは増えるでしょう。それは、社説などと同じページに掲載すれば、さらに社説の中でも時に引用すれば、「聞く耳を持つ新聞社」としてのステイタスを確立できるでしょう。

当事者、中島さんのコメントと裏メール

 このサイトオープンを断行?した中島さんの公式コメントは、3月14日の「記者の目・読者の目」に「双方向サイト立ち上げ4カ月=中島みゆき(まいまいクラブ)」として掲載されています。

 しかし、私は、中島さんから届いた、このゆるりとしたメールの方が心に響きます。新聞社が大上段に構えない参加型メディアを持って、記者や論説委員も肩の力を抜いて読者と車座になって語り合うイメージが浮かぶからです。検索システムを中古システムで作るといった、ベンチャー企業のような、ほほえましいエピソードも素敵です。

 こうした新聞社発のブログメディアが、果たして新聞を駆逐するでしょうか?おそらく、これらは、新聞の代わりになるというより、記者や論説委員のファンクラブの機能を果たすはずです!そして、同時に、個人ブログだけでは満たされない100人に1人の「隠れたコメンテーター」にとっては、大切な自己表現、発言の場として尊重されるはずなのです!

===========まいまいクラブ 中島さんのメール

久米さん

(前略)

「団塊の世代マーケティング」なんて最近よくいわれてますが、
あのサイトはアクティブ・シニア=団塊世代のメッカです(笑)。
昨日は「ボケ防止に活用してます」という書き込みもあって、
なるほど…と、思いました。

「まいまいクラブ」は本来「読者サービスサイト」なんです。
でもプレゼントとかの肉弾戦では他の新聞社に勝てません。
「ウチにはウチのリソースがあるはず」…ってところから
発想して、ああいう内容になったという側面もあります。

たとえば、一番人気のコンテンツ「万能川柳+α」の場合、
ファンの会合に技術者と参加して、「どういう機能があると
いいですか?」と聞いて、「検索機能」という答えだったので
翌日、その技術者がアキバで5000円の中古PCを買ってきて、
プログラム書いて……と。経緯も含めて非常に弊社らしい
コンテンツになったんじゃないかと思っています。

書き込みを見ていると、弊社にとって最大のリソースは
「読者」なんじゃないかと思います。

始まったばかりで荒いところはいっぱいあるんですけど、
団塊世代や子育てに悩む世代の人が気軽に書き込んで
毎日を生き生きと過ごしてくれるなら、そういうところから
「読者サービス」という概念も変わっていくのかなぁと、
思っています。

個人的には、案外こうしたマイルドなところから読者参加型の
メディアっていうのができていくのかも…という淡い期待も
あります。(次のシステムではTB機能もつける予定です)

そんな感じで日々やっています。
どうぞよろしくお願いいたします。

毎日新聞 中島みゆき

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