創造的開発における仕事の進め方には3つの鍵がある。1つ目の鍵は,スピード感を持って,人の倍の速度で素早く設計を行うことである。製品は生ものと同じで,時間がたつと,陳腐化したり,生きが悪くなったりして,誰も買わなくなる。米Intelと競い合っていた米Motorolaは常に素晴らしいマイクロプロセッサを開発した。ところが,最初に考えすぎたり,開発が長引いたりで市場への参入が遅れ,結局ビジネスの機会を失ってしまった。
極論を言うと,97%の満足度で開発を進める必要がある。マイクロプロセッサの開発は未完成の連続であったとも言える。人間は常に成長していく。少しでも良いものを作り,人を感動させたいという感情があり,自分が持つ美的感覚を工夫して製品に埋め込むという楽しみもある。開発を進めていくと次から次へと新しいアイデアが湧いてくる。
しかし,これらをすべて取り入れようとすれば,開発はいつまでたっても終わらない。開発の難しさは,自分が使える人やCADや資金などのリソースを考慮して,完成予定日から逆算したスケジュールを立て,発散し続けるアイデアを最適なところで収束させることにある。
2つ目の鍵は,アーキテクチャ,論理,回路,レイアウト,テスト・プログラムなどの開発の各ステージと,開発全体における計画,実行,レビュー,考察のサイクルを最低でも3回行うことである。あるステージの開発をするときには,完璧でなくてもかまわないから,少なくとも次のステージの設計までをやってみる必要がある。1つのステージの設計を完璧に行っても,次のステージに進むと思わぬ落とし穴が待っていることがある。
3つ目の鍵は,設計したデータベースを頭の中に記憶し,いつでも取り出せるようにしておくことである。論理量が多くなれば,上位層を記憶すればよい。コンピュータに記憶させたデータベースを画面に映し出しても,データベースが脳の記憶として有機的に結びついていなければ,設計や討論の際には何の役にも立たない。
人は日々成長する。しかし,ほとんどの人は自分の成長に気づかない。時間がかかるプロジェクトでは発散してしまい最適化ができなくて失敗する。また,開発プロセスが多様化したり,開発規模が大きくなったりすると,人は必ず過去と同じ間違いを起こすものである。開発の前半では性善説をとる一方で,開発の後半や検証の際,ほかの人とのインターフェースなどでは性悪説をとることが好ましい。