写真1●会場の一風景。日本のIT系のシンポジウムでは考えられないことだが,参加者の半数は女性
写真1●会場の一風景。日本のIT系のシンポジウムでは考えられないことだが,参加者の半数は女性
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写真2●政府関連機関やOSSセンターのトップも女性だった
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 今年の1月,情報処理推進機構(IPA)に「オープンソースソフトウエアセンター(OSSセンター)」が発足しました。OSSセンターはオープンソース関連施策の実施組織ですが,決して,「ある少数のメンバーが政策を決定する」といったものではありません。様々な方々の知恵や力お借りしながら,オープンソースの発展を傍らでお手伝いしていくところです。

 タイトル写真に写っているのは,ある日のミーティングに集まったメンバーで,OSSセンターにかかわる人はこのほかにももっともっとたくさんいます。なぜかトップバッターを務めることになった私,鈴木友峰も,OSSセンターの非常勤研究員と同時に日立製作所の技術者でもあります。

 この連載では,こういったOSSセンターにかかわる面々が,オープンソースに関する熱い話題やレポートを提供していきたいと思います。よろしくお願いします。

 まず最初は,3月6日から8日にマレーシアのクアラルンプールで開催された「アジアOSSシンポジウム」で見た,アジア各国のOSSとIT事情についてお話しましょう。

PCやインターネットの普及率が数%の国

 アジアOSSシンポジウムは,今回で7回目。私は第4回(2004年9月開催)の台北のときに続いて,2回目の参加です。今回は,アジアの19カ国,地域から約150人(マレーシア以外から70名,うち日本から30名)が参加して,各国のOSS事情の情報交換をするとともに,協力体制のあり方などを議論しました。

 だが正直言って,アジアOSSシンポジウムとして,何かワークをして,アジア全体で何か一つのことをやろうというようにまとめるのは,なかなか困難です。なにしろ各国の状況が違いすぎるのです。

 例えば,ネパールやスリランカなどは,PC普及率,インターネット普及率がどちらも数%程度とのこと。こうした国では,OSSを普及しようというよりも,まずITをどう広めていくかが課題です。

 また,日本では国際化対応が問題になりますが,インドなどでは20以上の言語が使われており,自国の中だけで使うにも国際化対応が必須です。ローカライゼーションが国際化対応に等しくなります。

OSSも商用ソフトも値段は変わらない?

 もっと深刻なのは,日本ではOSSのメリットの1つにフリーでコスト削減につながるというのがよく挙げられますが,そもそもアジアにはソフトウエアの著作権について理解のない国も多いことです。「OSSも商用ソフトも値段は変わらない」と堂々とプレゼンテーションされたりします。

 アジアOSSとして1つのことをやろうというのは,なかなか難しいですが,各国でのOSSに関する取り組みは着実に前進しています。

 日本でも1月に情報処理推進機構(IPA)にOSSセンターが設置されましたが,マレーシア,ベトナム,タイ,スリランカ,台北などに似たような政府関連機関があります。各国のこのような機関は,1年半前の第4回の時には存在しませんでした。

 ただし,OSSセンターの取り組みの内容も各国の事情により様々です。日本としては学ぶことも多くあります。

マレーシアではシステムは政府自身が構築する

 最終日にマレーシアのOSSセンターを訪問してきました。OSSの研究と,教育とサポートを主たる目的としているとのこと。一見,日本と同じように聞こえますが,よく話を聞くと,事情はまったく違うことがわかりました。

 マレーシアでは,基本的に政府のシステムは,ベンダーが構築するのでなく,政府自身で構築します。政府が,政府システムを構築するためのエンジニアを抱えています。

 こうした事情のなかでは,OSSセンターの「教育への取り組み」は,政府のエンジニアに対して,OSSでのシステム構築・管理方法などを教育することです。マシンを使った実習も交え,非常に実践的な教育をしてます。政府のシステムをOSSで構築するための技術教育を実施しているのが「OSSセンター」というとてもわかりやすい構図と言えます。

 「サポートへの取り組み」も,政府システムのサポートをしている技術者のバックエンドサポートを行っています。これも非常に具体的です。日本のOSSセンターのように,ある意味間接的な(?)OSS普及のための取り組みではないことがとても印象的でした。

◆アジアOSSシンポジウムのページhttp://www.cicc.or.jp/japanese/kouryu/osskaisai.html