最近、ある大手ユーザー企業のシステム企画担当者に「SI料金は下方硬直性が高い。だから、ITサービス会社の値上げ要請をおいそれと受け入れるわけにはいかない」と言われて、とても驚いたことがある。サプライサイド、ITサービス会社から見れば「それを言うなら上方硬直性でしょ。一度料金を下げたら、なかなか上げてもらえないじゃないか」と文句の一つも言いたくなるような話だ。

 しかし、その理由を聞いて少し納得した。要は、原価構造が分かりにくいことを、このユーザーは問題にしていたのだ。SE単価や人月料金にしても根拠薄弱であるのは、ユーザー企業だけなく、ITサービス会社自らが認めるところだ。それに、スクラッチ開発での“コピペ”、つまりコードの再利用も明示的に示されたことはない。ここ数年間、苦労してSI料金を下げさせてきた。ITサービス会社がまだノリシロを隠しているんじゃないかと疑うことこそあれ、料金値上げなどとんでもないというわけだ。

 このユーザー企業から言わせれば、ITサービス会社が「人手不足だ」と騒ぎ、値上げ圧力をかけてくる中でも、SI料金を現行水準に押さえ込むのは簡単だそうだ。「ボリュームを出すから」とITサービス会社にささやけばよい。IT投資を抑制していた以前と異なり、ユーザー企業は最近、大型のIT投資が可能になった。そして、それがITサービス会社との交渉の武器になる。SI料金を現行水準に押さえ込むどころか、「ボリュームを出すから、安くして」と言えば、ITデフレが終わったはずの今でも、本当に安くなったりするのだ。

 実はITサービス会社から見れば、このささやきは辛くもあるが、とても魅力的だ。売上額というよりも、予想利益の絶対額の大きさが見えてしまうからだ。1億円の案件で1000万円の利益よりも、10億円で5000万円の利益である。「利益率の向上」というこれまでのスローガンはどこかに消え、思わず食いついてしまう。

中には、昔なつかしい「戦略価格」を提示する大手ITサービス会社もあるらしいから、問題の根は深い。まあ局所的な話だろうが、技術者不足の中の料金低下という異常事態。こんなことをやっていれば、ユーザー企業も「やはり原価構造が分からない」と不信感を強めるだけだ。

ユーザー企業からは「原価構造を明確にして、原価を引き下げることで料金を下げる提案を何故しないのか」という声をよく聞く。「原価は企業秘密」という考え方もあるだろうが、ほとんどのITサービス会社にとって原価は秘密でもなんでもない。ユーザー企業との商談での駆け引きで料金を下げるのではなく、SIの原価を引き下げる提案を一度やってみてはいかがだろうか。

原価引き下げはユーザー企業の協力なしには実現しない。ユーザー企業と共に原価企画を行い、原価引き下げの果実を両者でシェアする。製造業では当たり前のことが、ITサービス会社でもできるようになれば、SIビジネスの未来もあると思うのだが・・・。