図1 Web 2.0時代の企業情報システムにおけるクライアントのイメージ<br>社内外のマッシュアップ向けAPIなどを駆使して,様々なサービスをユーザーごとに専用の組み合せで提供する。専門性の高い情報は,他社がマッシュアップできるよう社外にも公開する。
図1 Web 2.0時代の企業情報システムにおけるクライアントのイメージ<br>社内外のマッシュアップ向けAPIなどを駆使して,様々なサービスをユーザーごとに専用の組み合せで提供する。専門性の高い情報は,他社がマッシュアップできるよう社外にも公開する。
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 (前回から続く)ここ数カ月間にわたり,Web 2.0という言葉は実に目覚しいスピードで日本に広まりました。2005年末の時点で何人かの企業情報システム管理者に「Web 2.0をどう思う? 自分の仕事に関係あると思う?」と尋ねたときの反応は,以下のような調子でした。いわく,「Web 2.0? 全く関係ない!」,「個人情報保護,ISMS(Information Security Management System),日本版SOX法など,セキュリティやコンプライアンスに必死に対応しているのに,怪しい/危ない技術で余計な手間をかけさせるつもりか?」,あるいは少し勉強した方なら「存在自体がセキュリティ・ホールであり,排除すべき存在だ!」---。しかし,もはや事情は大きく変わってきています。

 Web 1.0を振り返ってみると,商用Webがブレークしたのが1995年,その翌年には既にイントラネット文書管理システムが出現していました。今回も同様に,“Web2.0 for Enterprise”が今年勃興し,5年,10年かけて当たり前のものになっていくという感触を持っています。GoogleMapsに象徴される「Web 2.0の顔」とも言うべきAjaxなどのリッチ・クライアント技術は,デスクトップ・アプリケーション並みの高機能とレスポンスの良さ,安心して使えるユーザー・インタフェースを実現しました。自宅でこのような創造的な環境を知ってしまったユーザーは,いずれ「会社は別」とは思えなくなるでしょう。

 優れた創造性を喚起するGUIのように,一目見て分かりやすい技術,触って楽しい技術は,幅広く受け入れられていきます。企業情報システムでは,これまで舞台裏,つまり目に見えないバックエンドのデータ処理が大事と言われ続けてきましたが,実は情報の創生からそのキャプチャ(入力)にいたる入り口の部分も非常に大切なのです。それに気づかせてくれただけでも,Web 2.0は既に企業情報システムの設計思想に影響を与えていると言えそうです。

マッシュアップ*1でサービスを組み合わせて新たな情報を生成

 BtoC,ギーク志向と思われていたWeb 2.0ですが,既に エンタープライズ・マッシュアップ向けの素材(APIなど)を提供するサービスが現れています。これについては次回以降,詳しく取り上げていきたいと思います。かつて期待したほど成功を収めることのできなかったASP(Application Service Provider)も,マッシュアップという分かりやすいビジョンにより,今度こそ成功するのでは,という予感がしています。

 そこで,もう少し先を見据えて,マッシュアップとリミキシングの到達点としての企業情報システムにおけるクライアントのイメージを筆者なりに描いてみたのが図1です。これは,社内外のマッシュアップ向けAPIなどを駆使して,個々のユーザーに対して様々なサービスを一人ひとり専用の組み合せで提供する個人専用クライアントのイメージです。
 社内,あるいは世界で唯一つ,オンリー・ワンのパーソナライズド・クライアント・アプリケーション。この端末の前でナレッジ・ワークに従事する社員は,自分の専門知識を駆使して新しい情報を生産し,同僚や社内の別の部門に提供することで生計を立てていると言えます。その専門性が高ければ,ひいてはその会社のオンリー・ワンの専門知識・情報を他社がマッシュアップできるよう,社外に提供していくことも考えられるでしょう。さらに,その最新コンテンツの「生産」だけでなく,「評価」「社外提供承認」なども同じワン・ストップの個人専用クライアントで行えるようにしたときに,究極のビジネスの創造性とスピードが発揮できるように思うのです。

 最後に,今後の予定について少し触れておきましょう。3月3日にXMLコンソーシアムで開催したWeb 2.0セミナー,勉強会では,Web 2.0が持つ,ネットワーク・アプリケーション・プラットフォームのメジャー・バージョンアップとしての側面を取り上げました。まずは,「Web 2.0には実体がない」「Web 2.0は技術じゃない」といった主張に対する真正面からの反論として,このあたりをご紹介したいと思います。

 次に,Web 2.0のコアにあるREST(Representational State Transfer Architectural Style)準拠の軽量Webサービスと,従来のSOAP(Simple Object Access Protocol)/WSDL(Web Services Description Language)準拠のWebサービスの使い分けを,重要な課題として取り上げます。この指針がなければ,“Web2.0 for Enterprise”の現場は混乱するばかりでしょう。XMLコンソーシアムのドキュメント・メタデータ活用部会では,既に一定の回答を生み出すことができました。ご期待ください。

 さらに,O’Reilly氏などが掲げている「Web 2.0の原理原則」や「フォークソノミー」などの具体的なキーワードを検証していきます。これらを一つひとつ取り上げて,それぞれに“for Enterprise” を付けたらどうなるかを考えていく予定です。