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 Web 2.0という言葉が企業でささやかれるようになりました。社内でGoogleMapsを使ったり,さらに進んで「 マッシュアップ」されたWeb 2.0的アプリケーション(例えばこれ)を使ったりする人が増えてきたようです。システム・インテグレータや,目利きの鋭い情報システム部門の人も,Ajaxに代表されるリッチ・クライアントや,Blog/Wikiを活用したCMS (Contents Management System),Wikipediaのようなユーザー参加型サービスを気にし始めています。

 「Ajaxという手法で構築されたWebアプリが軽快で便利らしい」「スタンドアロン・アプリケーション並みに高度なUIが簡単に実装できるらしい」「全社ナレッジ・マネジメントのためにブログを全面導入しよう!(これは経営者の科白ですね)」---こうした声が聞こえてきそうですね。いよいよ企業情報システムもWeb 2.0の時代か,と考える人が,今年の2月ころから急増しているように思われます。

 筆者はこれより少しだけ早く,昨年11月に“Web 2.0 for Enterprise” のコンセプトを発案しました。当時このキーワードがGoogleのワールドワイド検索でまったくヒットしないことを確認したうえで,12月に設立したメタデータ株式会社のヴィジョン の欄に,さっそく比較的短期のビジョン(ある時点での実現目標のイメージ)として「2008年 Web2.0 for Enterprise」を掲げています。1月には,Web2.0 for Enterpriseのブログも開設しました。

なぜ今“Web2.0 for Enterprise”なのか

 ここで改めて,なぜ今“Web2.0 for Enterprise”なのかを整理しておきたいと思います。写真1は,筆者が企画を担当し,XMLコンソーシアムで先日開催した“Web2.0セミナー,勉強会” の最初に提示した,「なぜ今Web2.0を企業で?」への回答です。スライドにありますように,企業情報システムを改善し,徹底的に有効利用するには,Web 2.0の設計哲学の中心にある次の2点が必要であり,極めて有用ではないか,と考えたのが最大の理由です。

・徹底してデータ中心主義 ~データを制する者が勝利
・参加のアーキテクチャ (開発スタイル)

 セミナー当日はAjaxを中心としたデモや,ロングテール談義が目立ったかもしれません。ロングテールを支える技術論もありました。しかし,上記2点は,それ以上に重要です。「参加のアーキテクチャ」について言えば,ともすると硬直した開発体制,運用体制になりがちな企業情報システムに,社内ユーザーにもっと口を出してもらい,毎週のように改良していくことが本質的に重要ではないでしょうか。

  ITIL が,情報システム部門からのサービスの配達,そしてサービスの改善(早い,安い,旨いの観点で)のメカニズムや視点を提供してくれました。KPI (Key Performance Indicator)という評価指標や,SLA(Service Level Agreement)の概念の導入により,社内ユーザーとの交渉,合意が意識されるようになりました。

 交渉,合意の前提には,コミュニケーションがあります。コミュニケーションが上手く機能するには,ユーザーが,社内システムの開発や運用に,もっと主体的に参加しなければなりません。この意味で,情報システムの運用管理体制を見事にモデル化してくれたITILやSLAの概念は,”Web2.0 for Enterprise” の下地を作ってくれた,ということができるでしょう。

 徹底したデータ中心主義も重要です。社員から貴重な情報を引き出し(blog/SNS),ユーザー中心に多種多様のデータと融合・連携させ(remixing),ビジネスを活性化する。これら本格的な次世代のナレッジ・マネジメントのための機能に,Web 2.0の技術要素やシンプルなアプリケーションが大きな恩恵を与えてくれそうな予感があります。

 データ,情報,知識を生かし切ることは,企業情報システムの究極のゴールです。社内ブログの成功事例も失敗事例も大いに情報共有し,より優れたノウハウを皆で蓄積したい。この考え方は集合知の結集を図ろうということであり,フォークソノミーの親戚ということができます。言葉は違っても,「多くの人が使うほど,サービス品質は向上する」 という思想は同じです。不特定多数の衆知への信頼,すなわち,情報システムの専門家から見たらアマチュアに分類されるユーザーへの信頼が,質的にも量的にも優れた情報の蓄積を生む,という信念は共通しているように思います(次回に続く)。