今回から、具体的にヒューマンマネジメントについて考えていきましょう。まず、基礎理論の方から簡単に説明していきます。まず、以下の問題を考えてみてください。
【状況】 ・あなたは、あるソフトウェア開発企業A社のアプリケーション設計チーフです。 あなたは、顧客企業でシステム開発を受注したB社の要件を確認し、システム設計をしなくてはなりません。 しかし、B社の担当者は非常に口やかましく気難しいと(悪)評判のC部長です。C部長と上手くやっていかなければ、システム開発は成功しない可能性が高い状況と仮定します。 C部長からあなたは「どのような進め方をするのか、顧客企業である我々はどのようにかかわればよいのかを聞きたいので、説明にきてほしい」と言われました。 【問題】あなたは、C部長が好む資料をどのように作るでしょうか? |
システム構築を職業にしている人間なら、こういう状況は非常に日常的だと思います。私はこんな質問を若い人にしますが、一度も、自分が答えとしている回答をしてもらったことがありません。まあ、質問が抽象的で、なんとでも答えられるので、かえって正しく回答するのは難しいのかもしれませんが。質問の回答としてよくあるのは以下のようなものです。
・全体スケジュール、顧客側の役割分担、作業を分かりやすくまとめた資料を作成する。 ・論理的で納得感のある資料を作成する。 ・短めの資料とする。 |
気難しいというC部長の印象からこんな資料を作った方がよいと考えるのでしょう。これはこれとして、正しいのかも知れません。でも、正しくないかも知れない。あくまでも仮説、仮定としての内容を回答としているにすぎないので、論理性が低い回答になってしまっているのです。要は答えとしての要件を満たしていないのです。
C部長との話を上手く進めるための、C部長が気に入る資料というのがどういうものかが分からない限り、出された回答が正しいものかを証明することはできません。つまり、この問題の正解を考える上では、資料自体の体裁を考えるのではなく、もっと本質的な話である「C部長が何を好むかを知る(情報収集する)という前提行動がポイントとなっているのです。これが分からない人には、絶対よい仕事はできません。
行動のゴール(目標)を設定し、それを実現する行動を考える。
仕事には目標(ゴール)があります。そして、それを実現するためには、それを達成するための多くの行動を正しく行っていく必要があります。これらの行動はできるだけ具体的に設定していかなくてはならないのです。これは非常に初歩的な話なのですが、これができていない人が多いのです。
冒頭の問題では、私は次のように指導しています。
目標:C部長と上手くやっていくこと。 →そのために・・・・C部長に正しく役割、作業を説明し、理解してもらう。 →そのために・・・・C部長が好きな資料構成、説明の方法を使う。 →そのために・・・・C部長が好きな資料構成、説明の方法を知る。 |
ここまでブレイクダウンすることはそんなに難しいことではないでしょう?でも、どうすればC部長が好きな資料構成、説明の方法を知ることができるのでしょうか?
本人に聞くのは唐突すぎるでしょう。だからここで、多くの人は「予想、仮定、仮説」を立てるのです。「おそらくこうだろう」、「たぶんこうに違いない」のように考えるのです。でも、あくまでも仮説なのです。これでは「ひとつ上の」という仕事術とはいえません。
では、私はどのようにするのか。これは、次回に説明しましょう。