昨年末から姉歯事件とか称する事件でマスコミは賑やかである。1級建築士が構造計算を偽装した事件だが,「技術屋の倫理観はどこにいったのだ。ふざけている!」とか「下請けだから偽装せざるを得なかったのか?」という声が新聞やテレビなどで報じられている。

 私はそのたびに,「下請け構造だけでなく技術屋のモラルも,建築業界とIT業界は似ているのかも知れない」と思う。そんな思いをしているのは私だけではないだろう。

 IT企業のSEやコンサルタントの中にも倫理観に欠けた人が結構いる。システム提案やシステム開発やトラブルなどの際,自信もないのにお客様に「これで大丈夫です。間違いなくできます」と言って信用させ後で困らせる連中。営業の作った提案内容に対し,技術的に疑問があってもそれを指摘しないSEなどだ。

 そんなSEやコンサルタントは姉歯事件で言うとマンションやホテルの鉄骨を2本3本抜いた建築士と同じだ。鉄骨もシステムも専門家でないと間違いを見抜けない。そのため相手は信用し易い。このことを第一線のSEやコンサルタントは良く考えた方が良いと思う。

 技術に関して「Yes」,「No」をはっきり言う,問題があればそれを指摘する,分からなければ調べる。それがSEやコンサルタントが持つべき倫理観だ。元請も2次請けも技術屋なら同じである。事件のように変な打算が働いて限界点を越えてはならない。それを逸脱するSEは“姉歯SE”と言われても仕方あるまい。そうしなければ,耐震強度偽装事件で売り手を信用して買った人が困るように,SEやコンサルタントを信用したお客様に大きな損害を与える。言うまでもなくそれではお客様に頼りにされるSEにはなれない。

 もちろん,逆に不要な鉄骨を必要と言うSEやコンサルタントも倫理観があるとは言えない。お客様の質問に知ったかぶりをして間違ったことを言うSE,お客様が間違っていても知らんぷりのSEも同じだ。

 姉歯的SEやコンサルタントは問題が起こったら往々に「営業が悪い,お客様が弱かった」などと他人の責任にする。それでその場はごまかせるかもしれないが,倫理にもとるSEが淘汰される時代はすぐ目の前に来ている。SEやコンサルタントは,姉歯事件を他山の石とすべきである。