先日、データセクション代表取締役の橋本大也さんと対談する好機があり、最近始めたというプロジェクト「テレビブログ」について教えていただきました。

 橋本さんは、かつては「アクセス向上委員会」メーリングリストで、現在は名ブログ「情報考学 Passion For The Future」ブログでも知られているインターネットサービスのご意見番です。その橋本さんが、自ら力を入れている新サービスということですから、自ずと期待は高まります。

「テレビブログ」はテレビ番組をネタにしたブログ

 なぜ、今テレビブログなのか? テレビブログのWEBサイトを見ると、表向きはこんな勧誘メッセージが並んでいます。

 「2005年の上半期の話題商品第1位(電通調べ)と、すっかり市民権を得たブログ。しかし、「ブログを見てもらえない」「ネタがなく続かない」という悩みもよく聞きます。「テレビブログ」はテレビ番組をネタにしたブログです。テーマが「テレビ番組」なので書くネタに困らず、読者増も期待できます。ブログも複数所有が当たり前の時代。サブブログとしてもおすすめです。息抜きで書け、番組予約やみんなの感想入手としても重宝。テレビが好きな人なら、登録しない理由がないテレビブログ。いますぐ登録(無料)を!(Webサイトより)」

 たしかに、テレビ番組を見て思い浮かんだ感想を、家族や友人に話す代わりにブログに書けば良いのですから、「ブログ挫折の素=題材探し」に困ることもなさそうです。また、テレビ番組名や出演タレント名といった重要キーワードが並んでいれば、検索エンジンで目立つこと間違いなし。大量の読者が獲得できそうです。

テレビブログは単なるテレビ番組と商品の広告に役立つ

 この無料ブログに大量の感想記事や読者が集まれば、まずはテレビ番組の広告宣伝の依頼が殺到しそうです。もちろんブログですから、番組の批判が書かれてしまうこともありましょう。しかし、その批判記事に誘われて、番組を見る人が増えることもあるはずです。極論すれば、評価はともあれ、テレビ局としては視聴率が高まれば良いのですから、ありがたいことです。

 また、デジタル放送化時代には、テレビ番組と連動したショッピングサービスが当り前になるでしょう。そんな時も、テレビブログで「あの番組でヒロインがしていた時計が....」といった書き込みで盛り上がれば、売れ行きに加速がつくに違いありません。

 もちろん、直接はテレビショッピングの対象になっていないものも、テレビブログ経由で販売が増える可能性が高いでしょう。「あの番組のロケで使われたカフェは...」「主人公が乗っていたクルマは...」といった具合です。

 しかしテレビブログは、そんな単純なビジネスモデルではなさそうです。

ハードディスクレコーダーがテレビを変えてしまった

 ここ数年で、テレビを取り巻く環境は、幸か不幸か激変するでしょう。その時、テレビブログが本当に果たすべき役割が、少しずつ明らかになると予測しています。

 昨年、東京財団で聴いた時事通信編集委員、湯川鶴章さんの講演は衝撃的でした。湯川さんの知見に触れていない方は、ぜひ3冊のご著書と、2つのブログ「ITブログツナガリ湯川鶴章のIT潮流」や「ネットは新聞を殺すのかBlog」をご覧ください。

 特に「EPIC 2014」と「グーグルゾン」という言葉をご存じない方は、このブログ記事をご一読いただくと、これから起こる変化を読みやすくなるはずです。

 湯川さんの講演で印象的だった論点の一つは「ハードディスクレコーダーを使うと、テレビの視聴スタイルが変わる」というお話です。

 今やハードディスク/DVDレコーダーを愛用している方々は多いと思います。そんな同志なら....「好きな番組だけ録る」「録るだけ録って見ない」「主題歌やCMはスキップする」「自動車の中や携帯端末で見る」という、新たなTVライフスタイルを確立しつつあるでしょう。

 実は先日、衝撃的な出来事がありました。わが家の幼稚園児と珍しく「リアルタイム」でTVのお笑い番組「エンタの神様」を見ていたのですが、ちょうどCMになった時「飛ばして!」と叫んだのです。いつも録画して見ていて、リモコンのボタンひとつで「CM」や「面白くない芸人」やスキップしているので、おそらく今日もできるはずだと思ったのでしょう。否、スキップして好きなものだけ見られるのが「テレビ」だと思っているのかもしれません。

 かつてのテレビ黎明期、プロレス中継の時間になると街頭テレビに人が集まった....という時間共有メディアの面目今いずこ....という感じです。もちろん、あの頃の視聴率も今いずこ....ですが....。

好きな時間に好きな場所で好きなスタイルで見たい

 さらに、わが家では、例えば「おじゃる丸」や「ケロロ軍曹」といった親子で楽しむ番組はハードディスクレコーダーに録り貯めておいてDVDに焼き直します。そしてミニバンの中で、移動中やドライブ中に見るのです。時には、映画などはプロジェクターで大きく投影して楽しみますが、今となっては、わが家において「テレビの首座」はお茶の間よりもクルマの中かもしれません。

 そういえば最近は、出張中・通勤中にノートパソコンやiPodPSPといった携帯端末でテレビを見るという縁者も増えました。今後は、携帯電話やカーナビで見る人も増えることでしょう。

 やはり、日々忙しいタイムスケジュールの中で、テレビの都合に自分の都合を合わせることは難しくなっているのでしょう。たとえ見たい番組があったとしても、見る時間と場所こそが問題なのです。ハイビジョン、高画質....とテレビ局が設備投資を増強している一方で、小さな画面で圧縮画像を見ている人が増えるのは、なんとも皮肉なことです。

 

テレビ番組を全て録る時代。人はテレビはどう変るか?

 そう言えば、湯川さんの講演でも「もうすぐ、誰もが1週間分全てのテレビ番組を残らずハードディスクレコーダーに記録するようになる」という話題になりました。そうなれば、ますますTVライフスタイルが変わるはずです。

 まずは「昨日、おととい見逃したあの番組」について悩む必要はなくなります。私事ですが、先日、自分のブログでまで紹介した、書道家・武田双雲先生出演の「課外授業ようこそ先輩」が、ディスク容量不足で録画できていないという憂き目に遭いました。大きなショックを受けましたが「全部録る」時代には、こんな失敗もなくなるでしょう。

 また、昔、学生の頃によく体験したような「昨日、あの番組見た?」という会話に入れない自分を哀しく思う必要もありません。なにしろ、翌日のテレビブログで盛り上がった番組は、わがハードディスクレコーダーには1週間は記録されたままでいてくれるのですから。

テレビブログのテレビマスターが自動消去・ダビング

 そうなりますと「全部録る」時代において、問題は「何を録るか」ではなく「何を残して後は全部消すか」になるのです。

 その時、テレビブログが....というより、テレビブログで活躍する私だけのテレビマスターが、「何を残すか」の指針を示してくれるでしょう。「ニュースならこの人」「お笑いならこの人」という、ジャンル別のテレビマスターがいれば、問題は解決できます。私の趣味嗜好とよく似ていながら、さらに鋭い鑑識眼を持つジャンル別テレビマスターのお薦めにしたがい、推奨番組以外は、消してしまえば良いのです。

 できれば、テレビブログとハードディスクレコーダーと連動して「自動的に消して欲しい」と思うのは私だけではないでしょう。さらには、自動的に見たい番組だけDVDやiPodなどにダビングして欲しいのです。

 既にテレビブログのダウンロードページを見ると、「TVBlogPlayer」なるソフトウエアのベータ版ば無料公開されています。その説明を読めば、既に、こうした未来を予測しているとも思えてきます。

 「バージョン1.1の新機能として、録画したテレビ番組をiPodやPSPなどの携帯端末に移し、シーン単位で視聴することが可能になります。(WEBサイトより)」

 つまり、テレビブログで評判の番組の評判のシーンだけを、iPodやPSPでちょっと覗き見するような見方ができるわけです。

地上波デジタルもいいけどブログテレビもいい

 そして、いつかはテレビブログのタブメニュー....地上波トラックバック、BSトラックバックに並んで、ブログTVトラックバックという新メニューが付け加わるかもしれません。ブログテレビという言葉が適当かどうかはわかりませんが、ブログに動画を貼り付けられる、ブログが動画化することが一般化するのは、時間の問題です。

 私は、常日頃、企業経営者に「社長ブログ」を今すぐ始めた方が良いと勧めていますが、、近い将来、今すぐ「社長ブログテレビ」を....と熱く語っているかもしれません。「社長ブログテレビ」とは、文字通り、社長ブログの動画版です。大企業であれば、これまで社内向けだった「テレビ朝礼」や株主むけだった「株主総会ビデオ」を、ネットで公開して、いつでも誰でもプレイバックできるようにすることもできます。またジャパネットたかたの高田社長よろしく「主力商品の魅力を自ら熱く語る」こともできるでしょう。

 こうしたミニFM局ならぬ「ミニテレビ局=ブログテレビ」を日本中の企業や団体が始めたら、かなり面白いことになりそうです。画質も完成度も低く玉石混交なれど、逆にプロ制作の番組にはない佳作も生まれることでしょう。星の数ほどあるブログテレビから面白い番組を探すには、検索エンジンよりもネットコミ、ブログコミが役立つはずです。

 これからは、かつて湯川鶴章さんが「ネットは新聞を殺すのか」と提起したように「ネットはテレビを殺すのか」という命題が、ますます問われることでしょう。今のところ、テレビブログは、ちっぽけなサービスに見えるかもしれません。しかし、テレビとブログという「互いに敵にも味方にもなる複雑な関係」に、一つの方向性を与えるサービスとして、テレビブログに期待いたしましょう。