筧捷彦さん(左)と筆者(右)
筧捷彦さん(左)と筆者(右)
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 「パソコン甲子園」をご存知だろうか? 高校生がパソコン活用能力を競う全国大会である。2003年から毎年1回、福島県会津若松市にある会津大学(http://www.u-aizu.ac.jp/)を会場として開催されている。競技はデジタルコンテンツ部門とプログラミング部門の2つに分かれており、私は光栄にも第1回の大会から審査委員の一人として参加させていただいている。

 デジタルコンテンツ部門の審査委員長は、「銀河鉄道999」や「男おいどん」などの作者として有名な漫画家の松本零士先生であり、プログラミング部門の審査委員長は、今回紹介させていただく早稲田大学理工学部コンピュータ・ネットワーク工学科教授、社団法人情報処理学会総務理事の筧 捷彦(かけひ・かつひこ)先生である。漫画の世界で松本先生は「すげ~!」わけだが、プログラミングの世界で筧先生は同じくらい「すげ~!」のだ。筧先生は、教科書となるような名著を数多く執筆されているので、学生時代にお世話になったという方も多いことだろう。

 生で拝見した筧先生は、スマートで、お洒落で、上品で、優しそうで、何と言ったらいいだろう...、そう「紳士」という言葉がピッタリ似合う人だ。お話好きのようで、初対面の私にも気さくに接してくれた。ご出身はどちらかわからないが、ときどき関西弁(かも?)を交えて冗談を言う。その声があまりにも上品なので、聞いているだけで心地よい。筧先生が理事を勤められている情報処理学会では、ときどき合宿してアルゴリズムのことを一晩中語り合ったりするそうだ。それが、何より楽しいとおっしゃっていた。私もプログラミングは好きだが、筧先生にはかないそうもない。筧先生は、プログラミング部門の競技会場で、高校生が熱心に作っているプログラムを1つひとつ楽しそうにみつめていらした。

 プログラミング部門では、様々な難易度のプログラム作成問題が出題される。得点の多い順に3チームが賞をもらえるが、それとは別枠で審査委員特別賞というものが設けられている。この賞は、プログラムのソースコードの内容を見て決められる。第1回の大会では、同じ機能のプログラムを短く記述できたチームを選んだ。短いプログラムは、上手なプログラムだからだ。第2回の大会では、同じ機能のプログラムを誰にでも分かりやすく記述できたチームを選んだ。分かりやすいプログラムは、保守性が高くて良いプログラムだからだ。第3回の大会では....、選出理由のネタに詰まってしまった。

 審査委員の筧先生、伊藤先生(東北大学教授)、脇田先生(東京工業大学)、そして不肖この私の4名は、頭を抱えて悩んだ。「高校生らしい元気なプログラムというのはどうだろう?」「しかし、何をもって元気と判断するのか難しいではないか」などとあれこれ議論した結果、「参考書に掲載されているようなありきたりのアルゴリズムではなく、自ら考えたオリジナルのアルゴリズムを使った個性的なプログラムを選ぼう」ということになった。めでたし、めでたし。

 皆で、提出された20チーム分のソースコードを吟味していると、筧先生が「う~む、これはある意味スゴイですね。とっても個性的ですよ~!」と言い出した。コンテストの限られた時間内で作ったにもかかわらず、丁寧なコメント(プログラムの説明であり動作とは関係しない文書)が書かれているソースコードがあったのだ。審査員一同、大いに感動した。この几帳面さがあれば、将来の日本のIT業界を支えてくれるプログラマに育ってくれるに違いない。しかし、審査委員特別賞の趣旨に合ってないプログラムを作ったチームを選んでよいものだろうか? 審査委員一同、またまた頭を抱えて悩んでしまった。その結果がどうなったかについては、厳正な審査が行われたとだけ報告しておこう。

 さてさて、インタビューの仕事というものは、実にありがたいものだ。普段なら恐れ多くて会えないような偉人に堂々と面会のアポイントを取り、読者のためと言いつつ自分が聞きたいことを好きなだけ聞けるからだ。パソコン甲子園で一緒に審査委員をしただけでは、筧先生とゆっくりお話する機会は得られなかっただろう。インタビューという口実があったからこそ、後日「先生を取材させてください。場所は、ぜひ先生の研究室でお願いします」というメールを出せた。筧先生からの返信は、「ご要望に合ったお話ができるかどうかわかりませんが、来室は歓迎します」だ。よっしゃあ! 早稲田大学へ、レッツ・ゴー(インタビューの内容は、次回お知らせする)。