今、ライブドア堀江貴文社長逮捕に関するテレビの特別番組をザッピングしながら、この記事を書いています。傍らのブラウザには、1月22日の「身に覚えがない」という告白を最後に更新が止まった「livedoor社長日記」が立ち上がっています。

 皮肉にも、メニューの目立つところに置かれた「livedoorパブリシティ情報」には「弊社堀江が出演予定です」と誇らしげに書かれています。そのリンク先は「1月6日(金)フジテレビ「幸せって何だっけ緊急特番!」に弊社社長の堀江が出演予定です。」という記事でした。おそらく今日ほど、マスメディアにライブドアと堀江社長の名前が踊ったことはなかったでしょう。なにしろ、新聞の号外までが配られたのですから.....。

 一連の報道を見ておりますと、これまで社長ブログを使ってマスメディアを上手に動かしてきた堀江社長に対して、ここぞとばかりにマスメディアがリベンジをしているようにも見えます。ライブドア社長ブログvs.マスメディアの戦いを見ながら、まだ六本木の雑居ビルで起業したての堀江社長とお会いしたことを、ふと思い出しました。そして、企業経営者のブログ活用について、あらためて考えさせられたのです。

社長ブログが繰り返し報道されて人々は気づくはず

 逮捕を伝えるニュースの中でも、堀江社長のブログが何度も紹介されています。きっと、今までライブドア社長日記を読む機会のなかった人も、今回は興味深くアクセスしていることでしょう。そして、社長ブログの影響力の大きさに驚いているはずです。なにしろ、この1月22日のブログ訪問者は40万7327人にもなります。また、最後の記事には23日の23時20分現在、4486人もの人がコメントを寄せています。中でも、ホリエモンがんばれ!とエールを送っている人が「想定外に多い」のも注目に値します。

 さらに過去ログを遡れば、「社長ブログ道」とでもいうべき「社長とブログのあるべき姿」について考えざるを得ません。さすがに、この数日間は、強制捜査に関連した記事でした。しかし、その前に書かれた、1億稼ぐFX投資セミナー、日本限定4セットのGUCCI製麻雀牌を自家用飛行機に装備...といった記事は、残念ながら、この時期は心証がよろしくないかもしれません。

 また、真面目な記事は真面目な記事で、そのメッセージを裏読みされてしまいそうです。例えば、2005年12月26日の記事「IR(投資家向け情報提供) 」の内容は、皮肉の極みです。

「ネットを通じたIRも大事だと感じている。積極的に考えていること、実施していることを語らねばならない。社長が株主のことを考えずに、会社の利益を独占しようと思えば、今の市場のルール、社会通念からすれば簡単なことである。だからこそ、株主は経営陣を厳しく監視しなければならないし、経営陣にも意識の向上が大事なのである。(中略)私自身が一番儲かろうとおもうなら、今すぐに会社を全部売却して、小さな投資会社を作るだろう。そうしないのは、今まで支えてくれた株主、従業員、役員とともに、世界一の会社という大きな目標に到達したいという強い意志があるからである。関係者全員の利益を最大化すべくがんばっていきます。(livedoor社長日記より)」

 今後、捜査が進むにつれ、事実が明らかにされるでしょうが、まさに、社長がブログに放った言葉は、そのまま自分に、そして会社に返ってくるのです。

問題のお手盛り主義も、逮捕報道では自主独立

 今回の疑惑は、ベンチャー企業、投資ファンド、証券会社、メディアまで自前で持つ、お手盛り体質によるものだとされています。しかし、今、livedoorニュースのヘッドラインを見て驚いています。「【速報】ライブドア社長ら4人を逮捕」といったニュースが並んでいるのですが、これらの堀江社長逮捕関連のニュースの多くが「ライブドア・ニュース」自身による取材と発表なのです。以下に挙げます通り、ライブドアが任意の事情聴取以後、深夜にかけて報道したニュースは、すべて「自社に不利とも思える報道」なのでした。

・ 逮捕に野党談話 (livedoor 23日23時51分)
・ 堀江氏逮捕受け、社内の反応 (livedoor 23日22時58分)
・ ライブドア、「お知らせ」を発表 (livedoor 23日22時42分)
・ 市場機能のあり方 再検討を (livedoor 23日22時31分)
・ 号外!堀江社長逮捕される (livedoor 23日21時33分)
・ 「逮捕はやむを得ない」 (livedoor 23日21時30分)
・ 【速報】ライブドア社長ら4人を逮捕 (livedoor 23日20時53分)
・ ライブドア株、売り止まらず (livedoor 23日18時33分)
・ 堀江氏支援と捜査は「別問題」 (livedoor 23日18時32分)
・ 堀江社長を任意で事情聴取 (livedoor 23日16時18分)

 かつて「メディアは金で買える」と堀江社長は豪語したそうです。しかし、ことニュースについては、社長ブログに書かれていた「ニュースサイトのほうは完全に独立して報道をいたします」という姿勢が、しっかり貫かれています。これは偉いとも、皮肉とも思える「ねじれ現象」です。「私は身に覚えがないです」とする社長ブログと、「逮捕はやむを得ない~IRと会計専門の早稲田大学の花堂靖仁教授に聞く」というライブドアニュースのどちらが説得力を持つかは、捜査の行方次第、そして読者の判断次第でしょう。

上場企業の社長ブログが抱えるリスク

 今後、経営者のブログが、企業のコミュニケーション戦略で大変重要になると、私は確信しています。しかし、今回の騒動で、そのリスクの大きさに震え上がった経営者も多いことでしょう。特に、株式を公開している企業の経営者にとって、安易なブログでのおしゃべりは危険です。一歩間違えれば、風説の流布やインサイダー取引などと見なされかねません。その上、マスメディアに言質を与えてしまったり、裁判の証拠になってしまうことも十分に考えられましょう。

 それでは「ブログなどしない」と決断すれば良いかというと、そういう訳にもいかないところが、厳しいところです。これからは、社長が積極的にブログでコミュニケーションを取ろうとしていない企業は、顧客はもちろんのこと、取引先、株主、社員、地域社会、マスメディアなどステークホルダーからの評価が低くなることが予想されるからです。

 そこで、折衷案として、広報部門や秘書室・社長室などが、社長ブログを代筆するか、社内検閲してから発行するケースが増えるかもしれません。その結果、社長ブログはより安全?なものになりますが、同時にプレスリリースのような当たり障りのないもの、人間味と面白味に欠けるものになりそうです。

 ですから、こと社長ブログに関しては、上場企業のサラリーマン社長よりも、もともと個人で連帯保証して自宅まで担保に差し入れた中堅中小企業のオーナー社長の方が、「表現の自由」に富んでいるかもしれません。もちろん、英国バージングループ創業者のリチャード・ブランソン会長や、ワールドやポッカコーポレーションの経営者のように、市場に公開した株を買い戻して上場を廃止してまで、己が経営理念と方針を貫こうという社長なら「別格」でしょう。きっと、そのブログは迫力満点で、最強の発信力を持つはずです。

嫉妬社会「日本」における名実のバランス

 おそらく堀江社長の記憶にはもうないことと思いますが、私が一度だけお会いしたのは、まだ上場前のことです。リビング・オン・ザ・エッジ(今となっては意味深長です)というCoolな黒い名刺をお持ちの頃でした。当時、堀江社長のメルマガを愛読していた私は、弊社のWebシステム構築のお願いにあがったのです。残念ながらシステムの話はまとまりませんでしたが、何かのはずみで株式公開の話になりました。私がバブル前後に日興證券の営業開発部で働き、貴重な社会勉強をさせていただいたことをお話ししたのかもしれません。当然ながら、堀江社長は当時から積極的に株式公開を目指していました。そこで、いろいろな質問をいただいたと記憶しています。

 株式公開の話題になった時、私が、堀江社長に限らず起業家の方々に申し上げるのは、いつも「株式公開のデメリット」です。(先週も2人の起業家の方に同じ話をいたしました。)なぜなら、前途有望な起業家に証券会社が近づく時には「株式公開のメリット」しか話さないことが多いからです。

 かつて、証券業界で株の世界の表裏の一端を垣間見た私は、あえて堀江社長に「店頭公開企業など、一歩間違えばプロの投資家のおもちゃにされてしまう」とアドバイスしたと思います。これは、元日興證券の上司で私の仲人でもある現トーマツ顧問の笠榮一先生の受け売りです。しかし、堀江社長は、自ら「店頭公開企業など、アマの投資家を巻き込んだおもちゃにしてしまった」のかもしれません。

 それから、「嫉妬社会の日本では、名実共に手に入れることは難しい」というお話もしたと記憶しています。これは、わが相場道の師のひとり、斉藤正俊先生のお言葉で「名誉と巨万の富の双方を得ようとすると、広く嫉妬心を集めて、必ず足を引っ張られる」という教えです。もちろん、今の堀江社長があるのは、わが2人の師の教えが、私の力不足で心に響かなかったからでしょう。

 もし「日本では、名実共に手に入れる」と危うくなるとすれば、ベンチャー経営者はともかくとして、功なり名を遂げた社長のブログも危うくなるはずです。それでは、いかなる経営者ブログならば、名実共に社会に受け入れられるのでしょうか?

 いろいろ考えては見たのですが、最後には「無欲の大欲」の生き方に行き着くような気がします。例えば、目刺しを食べながら行財政改革に取り組んだ東芝元社長の故土光敏夫翁、日本の将来を憂いてPHPで言葉を遺した松下電器創業者の故松下幸之助翁ならば、どんなブログを書いたでしょうか?

結局 お金で買えなかったものは...

 今回の報道の中で、一番心に残って泣いてしまったトピックスがありました。それは、堀江社長=ホリエモンのご父君=チチエモンの一言でした。

「失敗して無一文になったら、ここに帰ってきなさい」

 「サラリーマンの父のようには生きたくない」と公言していたわが子に、私だったら、この一言を言えるでしょうか? そして、おそらく生涯で一番孤独な夜に届けられた父からの一言を、堀江社長はどのような気持ちで聴いたのでしょうか?

 父の懐でさめざめと泣くことができた後、再度奮起してわが道を力強く歩みはじめた後、堀江社長は、またブログを書き始めるかもしれません。いつの日か、そのブログをぜひ拝読したいと思ったのです。