前回からの続きです)

 日本のCRM市場と米国のCRM市場はいくつもの違いがある。マイクロソフトは日米の市場の相違点を認識して展開しなければ、期待する成果は出せないだろう。

日本はCRM分野の人口と知識が乏しい

 市場の違いは大きく二つある。一つは、CRMに関わる人口の大小や、CRMについての知識の相違だ。残念ながら日本はCRMに関わる人口は少ないし、知識も米国に比べると高くない。日本はCRMが広告宣伝や販売促進の域から脱し切れていないのだ。

 一方米国では、CRMはマーケティングの中核的な活動として古くから位置づけられている。マーケティング分野では生産性や定量的な効果の評価が強く求められているため、この分野のシステム化はずいぶん早くから始まっていた。例えば、CRMの中核的な技術である「コンタクト・トラッキング」は、1980年代中盤に利用が始まった。

 もう一つの違いは、“顧客志向”を経営哲学として掲げる経営者や企業がどのくらいいるかである。

 米ABC放送のニュースで、ショッピング・シーズンが始まったニューヨーク・マンハッタンの街角に、カジュアル・ファッション大手「J・Crew」のバンが停まっていて、その中で紳士向け衣料品を販売しているのが映し出されていた。私は顧客の利便性を考えた素晴らしい販売活動だと感じた。J・Crewの顧客のほとんどは、混雑した売り場へ出向くことも、たくさんの買い物袋を抱えて帰ることも、決して好まない人々だからだ。

商習慣の相違から生まれたCRMの差異

 しかも米国の専門店の多くは、売上伝票を書く習慣が強く残っている。売上伝票のトップには、顧客の住所・氏名・電話番号が書かれており、店員の誰もがそうした基本情報を把握できる。そして顧客個人をキーにして売上を管理する習慣が根付いているなかで、POS(販売時点管理)システムが入ってきた。このため、顧客情報の収集や分析に至る一連のCRMへの発展が、非常にスムーズだったのだ。

 一方、会計処理や在庫管理に特化した日本型のPOSシステムは、顧客情報を集めきれない。日本では、「顔見知り」や「常連客」というアナログな形でしか顧客情報を入手してこなかった。そういう違いが色濃く反映されていて、日本の企業はCRMアプリケーションの導入適用を計画する時、まずは顧客情報の収集から始めなければならない。

 「顧客にまつわる様々な情報を入手することで、顧客を知り、顧客を理解する。それにより、顧客にどう働きかけたらよいか見えてくる」。そうしたセオリーを頭では理解しているが、仕組みとして機能させるところまで行き着いていない---。残念ながら、日本のCRMはこんな現状なのである。

 米国でCRMが1990年代の半ばに爆発的に拡がった背景には、それまでの情報化の恩恵がある。例えば、電話会社は電話料金の計算のために、電話の接続情報を大型UNIXサーバーを使ってジャーナリングした。ジャーナリングした情報で解析してみると、顧客の電話の使い方が浮かび上がってきた。使い方がわかれば、その顧客にいろいろなサービスを提案できる。例えば、ダイヤルアップで頻繁にネットに接続している人には、常時接続のADSLを薦めてみる。「アップセリング」という考え方だ。日本の電話会社もアイデア自体は持っていたが、実行には移さなかった。基本的に製品志向だったからだ。

 マイクロソフトは、そのような特性を持った日本のCRM市場に参入しようとしている。日米の市場の相違点を認識して製品を展開しなければ、期待した成果は得られないだろう。

 オンデマンド・サービスで競合しているCRMベンダー、米セールスフォース・ドットコムと米ライトナウ・テクノロジーズの市場での動きを見ていると、日米では明らかに競合条件に違いがある。セールフォース・ドットコムは着々とシェアを伸ばしているようだが、ライトナウ・テクノロジーズは日本のパートナーの意向で、オンデマンド・サービスとしての販売機会を見過ごしている。

次回に続く)