1月 知財信託導入(信託業法の改正施行)
2月 中村裁判和解
4月 改正特許法35条施行,知財高裁スタート
7月 アルゼ裁判逆転敗訴
9月 一太郎判決
11月 不正競争防止法改正施行(国外犯処罰)

 話題を制度系ニュースに移そう。

 通好みのところから入るとすれば知財高裁の設立であろう。

 知財高裁は知財を専門に扱う控訴裁判所である。従来,東京高裁の3か部で知財事件を担当していたところ,新たに知財高裁という独立性の高い裁判所とし,独自の人事,独自の訴訟運営を図った。

 知財専門裁判所としては,米国には著名なCAFC(巡回控訴裁判所),韓国にも特許裁判所が存在するが,日本でも遅まきながらそのようなものができたことになる。

 ただ,「知財裁判所」という建物が新しくできたわけではなくて,従前から東京高裁知財部が存在した東京地裁・高裁の17Fに看板が掛け替えられ,壁の色が若干塗り替えられた,という程度の外観変更に過ぎない。この裁判所が,当初の思惑どおり,日本の知財司法行政の尊重としてアジアの模倣品防止の象徴になるか,この点についてはまだ未知数であろう。

 我々専門家にとっては,知財高裁は新しい球場が建設されたようなものであるから,その芝生の感触は関心の高い話題である。しかし,一般の方にとっては,事件ネタの次の関心事は法改正ネタであろう。この点については,既に中村裁判の部分で触れた職務発明制度改正の他,知財信託導入と不正競争防止法改正を重大ニュースとして挙げてみた。

 不正競争防止法改正は地味であるが,我が国の技術流出防止に大きな意味を与えるものである。

 従前,不正競争防止法の技術漏えいは,国外犯処罰規定がなかった。つまり,自社技術を他社に漏えいする行為を国内で行うことは罪になっても,国外で行うことは罪にはならなかったのである。

 この法の不備を逆手にとって,技術者をヘッドハンティングし,アジアの自社研究所に配属させてノウハウを披露させるという手口をとったアジア企業もあったという。

 今回の改正によって,このような国外における流出行為も罰則の対象となった。当然のことながら,いわゆる週末海外技術指導などにもブレーキがかかることが期待される。また,技術流出を示唆されながら転職する行為なども違法とされるなど,技術漏えい防止という点で強化された不正競争防止法は11月1日から施行されている。転職もうかうかとできない時代になった,という意味では別の波紋を呼びそうな改正ではある。しかし,それだけ経産省当局は本気なのである。

 余談ながら,アジア企業によるヘッドハンティングは現在も活発に行われているようであるが,ノウハウを吐き出し終わったころにお払い箱になる例もあるらしい。人生は経済合理性のみでは語れないようだ。

次回に続く