Second Life中毒者の会に参加


写真2 Second Lifeの中毒者が集まるBenecia Hillコミュニティー・センター
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 次にSL内で開かれているイベントをチェックすることにした。SLでは家や洋服,物を自分でクリエイトして売買することが可能なため,お店のバーゲンやガレージセール情報が多い。

 一覧表を見ておもしろそうなイベントを見つけた。「SL中毒者たちよ集まれ。Benecia Hillコミュニティー・センターで語ろう」。早速,ミーティングの場所にテレポートする。「シュワッ!」音が爽快である。

 到着したのは中心に畳のある和風の大部屋(写真2)。思いおもいの格好の13人が畳を囲んで話し合っている。中には空中を浮遊している人もいた。司会者が「なぜSLは中毒になりやすいのか?」と聞くと,次のような答えが相次いだ。

「現実世界からの逃避,終わりのない点が病み付きになる」(FRさん)
「私は実世界では年寄りで病気だ。SL内なら山を登ったり庭いじりができる。障害を持つすべての人に薦めたい」(JLさん)
「年齢や外見,人種など固定観念にとらわれず,新しい人と出会い,新しい『自分』になれる」(MNさん)

年内にも住人数は200万人突破?

 SLの利用者は「住人」(resident)と呼ばれる。SLのサービス開始は2003年6月にさかのぼるが,住人数が急増したのはこの3カ月ほどの間だ。背景には高性能パソコンと高速ネットワークの普及,ブログなどによる口コミ効果,米大手メディアによる報道効果があるだろう。

 住人数は本当にうなぎ上りで,11月中旬には130万人を超えた。年内には200万人の大台を突破すると予測されている。サービス開始からSLについてネット上でリポートを続けている記者のワグナー・ジェームズ・アウ氏によると,利用者の年齢中央値は32歳で,約4割が女性だ。SL内では土地を購入することが可能で,現在の仮想世界の大きさはニューヨーク・マンハッタン島の3倍に相当する250平方キロメートル以上。トラフィックによる人気スポットの約半数はカジノで,約20%はアダルト関連だという。

 しかし,SLを「ギャンブルやアダルト系ばかり」とみなすと,その可能性を見誤るだろう。使い方は実に千差万別なのだ。

トヨタやカリフォルニア大学が進出


写真3 トヨタ自動車が開設した仮想ショップ「トヨタ・サイオン・シティー」
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写真4 ミリオンズ・オブ・アスのルーベン・スタイガー最高経営責任者
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 例えばカリフォルニア州立大学デービス校・精神・行動科学部で統合失調症を専門とするピーター・イエローリース教授らは,SL内に「バーチャル・ハルシネーション(仮想幻覚)ラボ」を設置した。統合失調症の患者たちがどのような幻覚を経験しているかを,生徒や外部の一般人に仮想空間内で体験してもらおうというのが狙いだ。実際に同ラボの中に入ってみると,床が突然抜けたり,「幻聴」が聞こえたり,テレビが話しかけてくる。

 リンデンラボによると,このようにSL内にスペースを持つ大学は60以上に上る。このほか,政治家がSL内でキャンペーンをしたり,ガン患者の支援グループが生まれるなど,実世界と直結する活動が増えている。そして最近,SL内で存在感を高めているのが大企業だ。

 自動車メーカーで真っ先にSL内に店を構えたのがトヨタ自動車。「トヨタ・サイオン・シティー」(写真3)では米国の若者向けブランド「サイオン」車に試乗でき,バーチャルな車を購入できる。「実世界のサイオン所有者たちが集まって語り合える場所を作ること,買った車を自由に改造・売買できるようにし,新たな市場が自然に生まれるように促すことがゴールだった」と,トヨタからこのプロジェクトを委託された米ミリオンズ・オブ・アス社のルーベン・スタイガー最高経営責任者(CEO,写真4)は語る。

Second Life専用のマーケティング企画会社が出現

 スタイガーCEOはリンデンラボで事業開発の仕事に携わった後に独立し,実世界の会社が仮想空間内で活動するための企画やデザインを受託するミリオンズ・オブ・アスを2006年5月に創業した。正社員9人のほか,開発を担う29人の契約社員が世界中に散らばっている。同社の顧客はトヨタのほか,米インテルや音楽会社のワーナー・ブラザーズなど約20社。ハイテク企業はSL内で記者会見を開き,音楽会社は著名アーティストによるコンサートを開催するといった使い方をしている。

 「もはやみんな30秒のテレビ広告には飽きている。SLは21世紀のマーケティング手法だ」とスタイガーCEOは主張する。

 トヨタ・サイオン・シティーを訪れたアバターの数は3カ月で約7万人。「これはマスコミュニケーションという観点から捉えると誤差に過ぎないような数だが,各人がここで過ごした時間が1~5時間であることを考えると,個々人にメッセージを届ける力は偉大だ」(スタイガーCEO)。企業がSL内に存在を持つために必要な予算については,「何をやりたいかに100%依存するが,だいたい2万~20万ドル(232万~2320万円)の範囲」という。来年にはアジア地域に進出する予定で,拠点は日本かシンガポールのどちらかにする考えだ。

Second Life内だけで生計を立てる