写真1●米IntelのStephen Pawlowski氏(シニアフェロー,デジタル・エンタープライズ・グループCTO,ジェネラル・マネジャ)
 「2025年には,現在のスパコン・クラスの性能を持ったデスクトップ・コンピュータが登場するだろう」。米IntelのCTO(最高技術責任者)であるStephen Pawlowski氏はこう語る(写真1)。同社の技術者向け会議「Intel Developer Forum(IDF)」の最終日である9月29日(米国時間),Pawlowski氏は講演で「ペタ・スケール」へと向かう「ハイ・パフォーマンス・コンピューティング」の像を語った。

2009年には「ペタ」へ

 ペタ(P)は10の15乗(T=テラの1000倍に当たる)を表す。ペタ・スケールとはPFLOPSを超える計算能力を持ったコンピュータのことを示している。スーパーコンピュータの実効性能(sustained performance)は,2009年にPFLOPSに到達する(写真2)。

写真2●スーパーコンピュータの処理性能を経年変化でプロットしグラフ化したもの。パソコンの性能もそれを追うように伸びている(オレンジ色の線)

 ペタ・スケールを実現する要素としてはソフト,ハード,コンピュータ言語,アルゴリズムなど複数の要素がある。ハードに関して言えば,まず挙げられるのはプロセサだ。Pawlowski氏は「プロセサのコア数を増加させ,並列処理の数を増やすことで性能を高めていく」と説明する。Intelは80コア搭載のプロセサを試作しており,その演算性能はプロセサ1個で1TFLOPS。1996年時点でのスーパーコンピュータ並みである(80コア・プロセサの関連記事)。

 コア数を増加させた際に考慮すべき点が,コア同士の接続方法だ。プロセサ同士の接続と同じく,クロスバーやバスといった方法から,リング(環状),メッシュなどの方法が考えられる。80コア・プロセサはコア同士をメッシュ状に接続している。「現在,より最適な接続方法を研究している最中」(Pawlowski氏)という。

 プロセサのほかにもメモリー,I/Oのスループットなど,高速化すべきポイントは多々ある。「かつ,それらは電力効率も考慮する必要がある」とPawlowski氏は強調する。「電力効率が良くなければ,実用的なコンピュータとは言えない。現在のプロセサよりも消費電力が大きくなってはならないと考えている」(Pawlowski氏)。

 処理性能や電力効率と同じく大切なのが,システム全体の信頼性だ。Pawlowski氏が挙げたアイデアは,プロセサの信頼性を高めるために,コアの1つをエラーチェック専用に使うといったものだ。Pawlowski氏は「(ある程度まで高性能になれば)多少は処理性能を犠牲にしても,信頼性を高めつつ,ほかの方法で処理性能をカバーするという考え方が大切だろう」と説明する。

2029年にはいよいよZ(ゼタ)FLOPSへ

 テラの次は,エクサ(E,10の18乗),そしてゼタ(Z,10の21乗)の世界に突入する。「2029年には,処理性能はZFLOPS級になるだろう」とPawlowski氏は予測する(写真3)。

写真3●2029年には,処理性能はZFLOPS級になる

 一方,「2025年にはデスクトップ機でもペタ級の性能が享受できるようになる」(Pawlowski氏)という。デスクトップ機でPFLOPSという高性能を使い切る用途などあるのだろうか。そんな問いに対してPawlowski氏は少し悩みつつ,「ゲームはもちろん,(画像や動画など)リッチな検索や認識といった用途が考えられる」と答える。Pawlowski氏を悪く言うつもりはないが,ややピンと来ない利用例ではある。

 ただPawlowski氏は次のようにもコメントする。「20年前,ラップトップ(ノート型)パソコンがこんなに普及し,普通に使われるとは誰も思わなかった。こんなに高い性能が必要なのか,と疑問に思っても,ユーザーは必ず使いこなしていくだろう」。

写真4●講演中に見せたデモの画面例。汚染物質の広がりを見る環境シミュレーションを,Xeonプロセサ搭載のワークステーション機で実行させた。コアが増加するほど処理時間が短縮しているのを棒グラフで示している

写真5●環境シミュレーションを走らせたワークステーション。デスクトップ・サイズとは言い難いが,将来はこの程度の大きさのきょう体に,スパコン級の性能が詰め込まれるのだろう