写真1●シニア・バイスプレジデントのPat Gelsinger氏
 米Intelは企業コンピューティングをどう変えるつもりなのか。エンタープライズ分野を統括するシニア・バイスプレジデントのPat Gelsinger氏は,米国時間の9月27日に「Intel Developer Forum(IDF)」の基調講演で,様々なコンセプトや取り組みを公開した(写真1)。

 例えば,独SAPとの共同プロジェクトによるアプライアンス製品や,サーバーの内部バスに差し込む特定アプリケーション向けのアクセラレータ・カードなどだ。Intelはプロセサや周辺のチップセットといったハードを,アプリケーションに直接“融合”させることを狙っているのだ。

 Gelsinger氏が「新しいプラットフォーム・モデルを提案する」と述べつつ紹介したのが,独SAPとの共同プロジェクトの成果である「Business Intelligence Accelerator(BIA)」。クアッドコアの「Xeon 5300」などIntel製プロセサを搭載したブレード・サーバーやストレージといったハードウエアに,LinuxとSAP製のデータ分析ソフトウエアをインストールしたアプライアンス製品である(写真2)。「目的に合わせて最適化しているので性能を確保しやすい。メンテナンスも容易だ」(SAP米国法人のRanjan Dasシニア・バイス・プレジデント)。この製品は2007年中にも市場に投入する予定である。

写真2●「Business Intelligence Accelerator」の構成要素

用途に応じてプロセサの能力を拡張できる「Geneseo」

 次に紹介したのが,特定のアプリケーションに特化したカードをサーバーに差し込み,性能向上を狙う取り組み。Intelは米IBMや米NVIDIA,米Sun Microsystemsなど数社と協力して,PCI Expressの仕様を拡張する「Geneseo(コードネーム)」プロジェクトを進めている。Geneseoプロジェクトに参加している米IBMのT.M.S.Bradicich氏(フェロー,CTO=最高技術責任者)は,「金融,バイオ,地球科学,画像処理など,それぞれの用途に応じたアクセラレータ・カードを差し込むことで,ユーザーの目的に応じて最適な性能を確保できる」と語った(写真3)。Geneseoに基づいたカードは2008年にも登場するという。

写真3●Geneseoプロジェクトで想定している特定アプリケーション向けアクセラレータ・カードの例

 米AMDも,既に同様の構想を打ち出している。「Torrenza」がそれだ。AMDの場合は,AMD製プロセサのチップ間インタフェース「HyperTransport」を使う。HyperTransportに,画像処理や科学演算など特定処理用のコプロセサを接続するものだ。AMDはコプロセサ向けソケット「Torrenza Innovation Socket」の仕様をライセンス供与し,多様なハード・ベンダーを巻き込もうとしている(関連記事)。9月21日にAMDが発表したプレスリリースによると,米Sun Microsystemsなど数社が賛同している。

SaaSをサポートするvPro

 企業向けパソコンのプラットフォーム「vPro」については,「“SaaS(Software as a Service) Enabled Client”を目指す」と語った。

 講演で見せた利用シーンは次のようなもの。まずvPro対応クライアントがサーバーにログインし,Webアプリケーションの利用を開始する。利用するアプリケーションの処理はサーバー側に任せるのではなく,クライアント側にも分担させる。

 一方で,アプリケーションで使うデータはサーバー側のコントロール下に置き,許可されていないデータをクライアントがダウンロードした場合はそのデータをクライアント側に残さないなど,セキュリティも確保する(写真4)。

写真4●vPro対応クライアントとSaaSの利用モデル

 Gelsinger氏は「シン・クライアントとシック・クライアントの両方の良い面を兼ね備えた,これら一連の処理を支援するための機能をvProに組み込んでいく」と説明した。

ソフト・ベンダーと連携して新しい命令セットを開発

 Intelは今後2年サイクルで新しいマイクロアーキテクチャを開発していく。現在,45nm(ナノメートル)の製造プロセスに基づくマイクロアーキテクチャ「Nehalem」を開発中だ(関連記事)。

 これに先立ち,Intelは新しい拡張命令セット(SSE)を開発する。追加する50個の命令の内容は,並列処理やメディア関係,大量のテキスト処理,特定のアプリケーションに特化した処理などだ。命令セットは,Adobe Systemsや米Microsoftなどソフト・ベンダーとも協力して開発する。この拡張命令セットを搭載したプロセサは2007年中に登場するという。

 より高性能になるプロセサをいかに活用するべきか。Intelはサーバー市場で迫るライバルのAMDを意識しつつ,ユーザーを引きつける新しい利用シーンを模索している。