大多数の消費者は,米司法省(DOJ)や欧州連合(EU)の欧州委員会(EC)などの組織による消費者の利益を最大化する活動に理解を示すだろう。しかし今回ECが新たにMicrosoftに出した要求は,Microsoftを侮辱するようなものであり,消費者利益の最大化になるかどうか疑問である。ECは,Windows向けセキュリティ・ソフトウエア市場を守る目的で,次期OS「Windows Vista」から複数のセキュリティ機能を削除するようMicrosoftに求めたのだ。

 ECの広報担当者は9月第3週,「ECは,Windows Vistaの安全性をこれまでのWindowsより高めたいというMicrosoftの願いを理解している」と述べた。しかしその一方で「セキュリティ・ソフトウエア市場で既存ライバル企業の締め出しをMicrosoftに許してしまうと,(様々なセキュリティ企業の提供する革新的な製品が)危険にさらされる。多様性と革新性が低下する結果,消費者の選択肢が減り,セキュリティ・リスクが高まる」(EC広報担当者)と述べている。

 果たしてECの主張は妥当だろうか。

 Windows向けセキュリティ・ソフトウエアの市場は,「サード・パーティ製セキュリティ・ソフトウエアが,Windowsのセキュリティ・ホールをふさぐ」という単純な基本思想で成立していた。その一方で,Windowsの多機能化と,インターネットの普及や電子的な攻撃の増加に伴う消費者の要求の変化によって,Windowsを含めたソフトウエア製品全般が進化を迫られてきた。つまりWindows自身のセキュリティ機能強化は自然なことである。これに応じて,サード・パーティ製セキュリティ・ソフトはさらに高機能化している。筆者はこの流れに問題はないと感じている。

 著者は同じ週,Microsoft Security Response Center(MSRC)セキュリティ・プログラム・マネージャのStephen Toulouse氏と話をした。Toulouse氏の主張はEUと正反対である。「Microsoftはほかのセキュリティ・ソフトウエア企業に協力し,各社の製品がWindows Vistaで使えなくなるのを避けることに取り組んできた」と語っている。Windows VistaのSecurity Centerという機能は,サード・パーティ製セキュリティ製品を紹介するとともに,セキュリティ製品を統合管理できるものだ。Microsoftは,ユーザーに統一感を与えるため,Windows Vistaのロゴなどとサード・パーティのロゴやアイコンとを組み合わせることを許可している。ユーザーがサード・パーティ製セキュリティ製品を使用したりインストールしたりすると,Windows Vistaのセキュリティ・コンポーネントは機能を停止し,そのままサード・パーティ製品が有効になる。「パソコン・メーカーはセキュリティ・ソフトウエア・メーカーと独自に契約することが多いため,この機能はパソコン・メーカーにとっても重要だ」(Toulouse氏)

 セキュリティ・ソフトウエアのパートナ企業と協力を図るMicrosoftの考えは,ECのとらえ方より現実的だと感じている。極論すれば,ECの苦情が消費者のためになるとは思えない。企業利益の保護策のようにみえる。Windowsはもっと安全になる必要がある。最終的には,これが誰にとっても利益となる。