ハッカー・グループが2006年8月の終わりに,オンライン販売された「Windows Media Player」用音楽ファイルの暗号を解読し,プロテクトのかかっていないWindows Media Audio(WMA)ファイルに変換する「FairUse4WM」というプログラムを公開した。これを受け米Microsoftは,サーバー側のコンポーネントにパッチをあて,コンテンツ・メーカーがユーザーに「使用中のWMPクライアントをFairUse4WM対策版WMPへアップグレードする」よう求められるようにした。しかしFairUse4WMを公開したハッカーたちは,すぐさまMicrosoftの対策を出し抜く新しいFairUse4WMで反撃した。

 オリジナル版FairUse4WMの登場後,著者がMicrosoftの関係者に問い合わせたところ,「このプロテクト破りの手法は実在するし,(デジタルではなく)アナログ信号経由の回避策ではない」とのコメントを得た(この方法で楽曲のプロテクトを外すには,一度に1曲ずつ手作業で処理する必要があり,基本的なプロテクト技術が破られたわけではない)。Microsoftはその後すぐ,Windows Mediaライセンシー(Windows Mediaのプロテクトを使ってコンテンツを配信する事業者)に対して,「FairUse4WM対策のため,個別に提供されたブラックボックス・コンポーネント(IBX:Individualized Blackbox Component)をアップデートしてください」と指示する通知を送った。

 「消費者にはいかなるリスクも生じません。コンテンツ・サービス提供者は,(消費者向け)ライセンスを発行する際にアップデートを要求できます」(Microsoftがライセンシーにあてた通知)。NapsterやMTV URGEなどの会員制サービスでは,ユーザーが1回の月額料金の範囲内(つまり1カ月)で何1000曲もの楽曲ファイルをダウンロードできるため,IBXのアップデートは特に重要だ。サービス提供者は,ユーザーに新たなライセンスへの更新を求めることで,解読されて自由にコピーされる楽曲ファイルの流出を止められる。

 しかしハッカーたちは9月2日(米国時間),Microsoftの変更を回避するFairUse4WMの新版をリリースし,最新版である「WMP 11 Beta 2」を含む様々なバージョンのWMPにも対応した。FairUse4WMには,購入者自身が楽曲ファイルを解読するだけの機能しかなく,この点が興味深い。FairUse4WMをインストールしたパソコンにコンテンツの有効なライセンスがあると,FairUse4WMは動かない。

 もちろん疑問は残る。法的な意味で,FairUse4WMの使用は,購入した(購読=サブスクライブ,ではない)コンテンツの公正な利用に相当するのだろうか。FairUse4WMの使用は合法であるように思えるが,ユーザーはオンライン音楽サービスからコンテンツやメディアを購入する際に,ある条件に同意している。こうした条件には,楽曲のコピーを妨げるデジタル著作権管理(DRM:Digital Rights Management)技術の回避を禁ずる条項が含まれているものだ。

 FairUse4WMのユーザーは,Microsoftが最終的にはFairUse4WMを打ち負かすと思っておいた方がよい。Microsoftは間違いなく,新しいIBX用パッチをリリースするだろう。なぜなら,Microsoftが果たすべき責任は,FairUse4WMを開発しているハッカーがユーザーに対して果たすべき責任よりも,ずっと重いからだ。Microsoftは必死になって,FairUse4WMの活動を瞬時に停止させてしまうだろう。