「Windows Vista」の製品候補版1(RC1:Release Candidate 1)が公開されたことに伴い,多くのユーザーがこの重要で,しかも最後の評価版のインストールを始めていることだろう。ところが,Windows Vistaの周辺には,まだ多くの疑問が残っている。

 例えば,アップグレード作業はどのように行うのだろうか。つまりWindows Vistaのアップグレード版は,これまでのWindowsと同じくクリーン・インストールが可能なのだろうか。可能だとしたら,アップグレード対象メディアの確認はどうなるのか。

 x64対応はどうだろう。米Microsoftはどのような体系でWindows Vistaのx64版を出荷するのだろうか。32ビット版からx64版への移行を望むWindows Vistaユーザーは,簡単に移れるのだろうか。移行は無料なのか。うわさになっているx64版への移行クーポンはどうなのだろう。

 2006年のホリデー・シーズンにWindows XP搭載パソコンを購入した人は,何らかのサービスが受けられるのだろうか。無料または割引価格でWindows Vistaを入手できるのか。その場合の送料はどうなるのか。Microsoftはこれらの問題について,そろそろ答えを明らかにすべきだろう。

「製品候補版か否か」はそんなに重要か?

 なお巷では,Windows Vista RC1のことを,「本物のRC1ではなく,Beta 3を単に別の名前で出しただけである」と主張する馬鹿げた話を聞くことがある。その一方でアナリストらは,製品ビルドに与えられるRCという用語の使われ方を長期間にわたって調べ,実際に最終的な製品のリリースとして使われる習慣であることを示している。結局Windows Vista RC1は,本当に製品候補版なのだろうか?

 確かに「Microsoftは圧倒的な大手OSベンダーという立場を利用して,ソフトウエアがどのような状態であっても,開発レベルのコードを『製品候補』と定義できるし,Microsoftを除く業界全体が大勢の聞き分けのない子供のようにその定義にただ追従できる」といった主張は可能だ。

 これには前例がある。技術的な権威者であるAndrew Schulman氏は1995年,「Windows 95」が別のOSであるMS-DOSを起動に利用していたことから「Windows 95は“真”のOSでない」という不名誉を指摘したうえで,「市場で力があるため,MicrosoftがOSの真の姿を決める」と述べた。

 筆者の考えを述べよう。結局のところ,「OSとはどのようなものであるのか」という概念は,Windows 95で変わってしまったとも言える。だからわれわれは,Microsoftが製品の評価版にどういう名前を付けたか議論する必要はない。気にするべき問題は,ただ製品の品質だけである。

「Windows Vista」の欧州リリース延期をちらつかせる米Microsoft

 Microsoftは,EU(欧州連合)の独占禁止法(独禁法)担当委員であるNeelie Kroes氏から「『Windows XP』と異なり『Windows Vista』は,独禁法違反の捜査対象にならないことを確実に回避する必要がある」という警告を受け取った後,簡単かつ効果的な計画を提案した。EUの要求に対応するため,欧州でのWindows Vista発売を遅らせると発表したのだ。

 この衝撃的な宣言は欧州全体を警戒させ,とうとう欧州議会の英国議員4人がKroes氏に対し,Microsoftへの対応をもう少し慎重にするよう求めるまでになった。議員がKroes氏にあてた書簡には,「欧州委員会(EC)の対応は欧州企業の国際競争力を危険にさらしている」とあった。「(欧州向けWindows Vistaの発売延期により)欧州企業は,(Windows Vistaの)新技術を利用できる世界中のあらゆる企業との競争で不利になる」(Kroes氏あての書簡)

 実は,このKroes氏に送られた書簡を9月7日(米国時間)に公開したのは,Microsoft当人だった。果たしてWindows Vistaの欧州での販売は延期されるのだろうか。それともECが軟化するのだろうか?