写真4  DAVE.TVのレックス・ウォンCEO。AdSenseを開発した米アプライド・セマンティックス社の共同創業者だった
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フィリピンで著作権侵害の有無を監視

 そこで,各動画に最も関連した広告を自動挿入する技術「VideoSense」を開発し,注目を浴びているのが米DAVE.TV社である。

 グーグルの売り上げを大きく増やした技術に「AdSense」というシステムがある。これはWebサイト運営者に対してそのコンテンツに合わせた広告を自動配信する技術。DAVE.TVが開発したVideoSenseは,いわば“動画版のAdSense”だ。実はDAVE.TVのレックス・ウォンCEOは,もともと「AdSense」を開発し,その後グーグルに買収された米アプライド・セマンティックス社の共同創業者だった(写真4)。

 DAVE.TVはもともと通信・放送会社向けのIPTVのシステム販売や,他社のIPTVチャンネルの受注制作を主体としており,インターネットの動画投稿・共有サービスでは出遅れた。だが,持ち前の技術力で他社にはないサービスを提供して追い上げを狙う。また,YouTubeのような著作権侵害の問題を防ぐために「英語が通じて人件費の安いフィリピンに投稿動画を見て著作権侵害の有無をチェックする専門チームを設ける準備を進めている」(ウォンCEO)という。

 動画投稿・共有サービスに対する広告市場は開拓が始まったばかりであり,多数のベンチャー企業の誕生は「バブル」と見る声もある。ただ,すべてのベンチャー企業が生き残るとは考えにくいものの,「消費者が新しい娯楽を求めているのは間違いなく,一時的な流行ではない」(米ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメントのマイケル・アリエタ上級副社長)のは確かだ。ソニー・ピクチャーズは8月23日に動画投稿・共有サービスの米Grouper社を6500万ドルで買収すると発表。大手メディア会社による動画サービス企業の買収,系列化も進んでいる。

「米国よりも日本のほうが魅力的な市場」

 米国で利用者と広告主の取り合いが激化する一方,既に次の「陣地争い」も水面下で始まっている。そのターゲットは日本だ。

 「我々は実は米国よりも日本のほうが魅力的な市場ではないかと考えている」と話すのはDAVE.TVのウォンCEO。同社は半年前から日本の広告代理店やソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS),ブログなどを運営する会社と話し合いを進めており,こうした会社と共同で「10月初旬に日本向けの独自サービスを立ち上げる計画」と明かす。特にDAVE.TV が持つ,複数の動画をまとめてSNSやブログに配信する技術を生かしたいという。

 今や全世界のブログのうち30%以上が日本語で英語と拮抗するほどだ。日本におけるブログ人気は傑出している。こうした背景と「日本のブロードバンド利用の普及と,日本人が携帯電話のような小さな画面でも動画を見ることに抵抗がないこと」(ウォンCEO)が日本市場の魅力だ。DAVE.TVは日本市場に参入する際には,携帯電話からの動画アップロードにも重点を置く。

 MetacafeのセルニアックCEOもまた「日本でパートナーを探している」と明かす。同社はサイトの一部を既に日本語化。日本市場に対して本気の意気込みを見せ,「できれば日本で合弁会社を作り,年内にもサービスを開始したい」方針だ。RevverのスターCEOは日本市場に対して直接的な言及は避けたが「海外市場には関心がある。また視聴者のいる地域別に広告をターゲット化する技術開発にも取り組んでいる」と言う。

 一番人気のYouTubeが日本市場をどのように捉えているかは不明である。ただ,このまま日本からの動画投稿と閲覧が増えるだけでは,特に日本市場に関心のない米国の広告主にとってはありがたくなく,YouTubeにとっては回線コストなど負担が増えるばかりだ。

 YouTubeのハーリーCEOが言うように,動画投稿・共有サービス業界における動きは「まだ氷山の一角を見ているに過ぎない」。氷山が全貌を現し始めたときにどの会社,サービスが勝ち残っているのか。勝負はこれからだ。

(影木准子=フリージャーナリスト,シリコンバレー在住)

【筆者プロフィール】かげきのりこ。
1989年北海道大学工学部応用物理学科卒業後,日本経済新聞社入社。科学技術部などを経て,97年から2001年まで同社シリコンバレー支局記者。2002年に同社を退社し,現在はシリコンバレー在住のフリージャーナリスト。米国のハイテク業界への取材を得意としている。