「YouTubeは今,転換期にある」

 このところ報道機関から殺到する取材申込みをかたくなに拒否しているYouTubeだが,同社のチャド・ハーリー最高経営責任者(CEO)はシリコンバレーで8月初旬に開かれたIT関連会議にパネリストとして登場。同CEOはYouTubeへのさまざまな批判に対して「我々は今,転換期にある」と発言した。

 その直前に同社は米3大テレビ・ネットワークの一つ,NBCを運営するNBCユニバーサルとの戦略提携を発表。NBCはYouTubeを通して新テレビ・シリーズの番組プロモーションなどを行う計画を明らかにした。ハーリーCEOは壇上で「他の映画会社や音楽会社とも(同様の提携ができないか)積極的に話し合いを進めている」と語っていた。

 さらにYouTubeは8月22日に新しい広告モデルを開始。従来のバナー広告とは別に,毎日,サイト右上に投稿ビデオの形を装った広告を掲載し,広告収入を得る。初日は何かと話題の多い“セレブ”,パリス・ヒルトン氏の歌手デビューCDのプロモーション・ビデオがお目見えし,その後は日替わりで最新映画の広告などが載っている。

 通常の動画広告と違って,視聴者がクリックしないと動画は始まらず,「特等席」を大きく陣取っている以外はあくまでも他の投稿ビデオと同じ扱いだ。掲載2日目からは広告ビデオも他のビデオと同様に視聴者による格付けによって掲載場所が決まるようになり,優先扱いはしない。「広告もコンテンツ。利用者主体であるYouTubeの“生態系”にうまく組み込めるようにする」(ハーリーCEO)のが狙いだ。

続々登場するYouTubeの類似サービス

 米国ではYouTubeの離陸前,あるいはほぼ同時期に多数の動画投稿・共有サービスが誕生している。その多くがYouTubeの人気にあやかろうと利用者獲得にしのぎを削っている。米グーグルや米マイクロソフトといった大手も動画サービスを強化しており,新旧プレーヤーを織り交ぜ,世はまさに戦国時代だ。

 その中の1社で最近人気を高めているのが米Metacafe社。独自開発の動画フィルタリング技術と,“視聴者ボランティア”による動画批評システムを売り物にしている。


写真2 Metacafeのアリーク・セルニアックCEO。「日本でパートナーを探している」
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 同社のアリーク・セルニアックCEOは取材に対してこう語る(写真2)。「YouTubeは確かに動画投稿本数が多いが,ほとんどが複製で同じもの。その結果,せっかくオリジナルで良いビデオを投稿しても,多数の複製物に埋もれて視聴者に発見されにくい」。Metacafeはこの問題を解決するために,まず既に投稿済みの動画と同じものをフィルタリング技術で自動的に除去する。

 次にMetacafeは各動画を視聴者ボランティアに送付し,レビューしてもらう。一定以上の評価を得られた動画だけが,同社のサイトに掲載されるという仕組みだ。

 ボランティアの数は現時点で10万人を超えており,1本のビデオがそれぞれ「数百人のボランティアによってレビューされる」(セルニアックCEO)。ボランティアはMetacafeが配布するソフトをパソコンにインストールする。するとパソコンが使われていない時間に同社サイトから毎日15本程度のビデオがダウンロードされる。ボランティアはそれらを好みに応じて評価するといった具合だ。自動フィルタリングと視聴者評価の2重ろ過を通過できるのは「毎日投稿される数千単位の動画のうち約1%」(同CEO)に過ぎないという。

報酬型サービスで350万円稼いだ動画投稿者も

 YouTubeは動画投稿者に対して報酬を用意していない。一方,Metacafeは年内にも動画の閲覧回数に応じて投稿者に支払いをするシステムを開始する予定だ。Metacafeはこうして優れた動画を収集し,集まった動画を「パッケージ化して放送局や携帯電話サービス会社などにライセンス販売するのが目的」。広告収入を土台とする他社の事業モデルとは異なるとセルニアックCEOは主張する。同社はイスラエル軍で7年間,戦闘機のパイロットを務めていた同CEOらイスラエルのチームが設立したが,このほど米国の大手ベンチャー・キャピタルから1500万ドルの追加出資を受け,シリコンバレーに本社を移す準備を進めている。

 一足先に動画投稿者への報酬支払いを始めたのが米Revver社だ。同社の事業モデルは,各動画の最後に静止画広告を入れ,視聴者が広告をクリックした場合の広告収入の半分をその動画投稿者と分かち合うもの。


写真3 ダイエット・コークにメントスを入れ,噴水を起こさせるビデオ。動画投稿・共有サービスを介して人気が爆発した
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 Revverを一躍有名にしたのがこのビデオである(写真3)。

 「Eepybird」と呼ばれる男性2人組が作ったビデオで,ダイエット・コークにキャンディーの1種である「メントス」を入れると炭酸が一気に噴出する反応を使い,ノリの良い音楽に合わせて巧みな噴水のパフォーマンスを楽しませてくれる。Eepybirdによると,このビデオは6月初旬の掲載以来,これまでに600万回以上も見られている。

 驚くのは,「このビデオの広告枠すべてをメントスのメーカーが買い上げた」(Revver社のスティーブン・スターCEO)こと。この結果,すでにEepybirdにはRevver経由で3万ドル(約350万円)以上の広告収入が支払われているという。おまけにメントスのメーカーはEepybirdに対して大量のメントスを無料提供し,新作の製作を支援している。さらに同メーカーは一般人からも広く同様のビデオを募る懸賞プロモーションを始めるという積極さだ。ちなみに筆者はこの動画を見たのをきっかけに,生まれて初めてメントスを買った。これもビデオの効果であると言えようか。

 Revverはこれまでにマイクロソフトや米ゼネラル・エレクトリックといった大企業の広告取りにも成功している。ただ,メントスの例は特別として,一般的に広告はRevverの配信動画と関連性がない。

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