プロリンクのブースでは、DVB-Tチューナーを2個接続したパソコンを展示。2番組を同時に表示してみせた
プロリンクのブースでは、DVB-Tチューナーを2個接続したパソコンを展示。2番組を同時に表示してみせた
[画像のクリックで拡大表示]
ウルティバが開発したUSB接続のDVB-Tチューナー。USBメモリーを一回り大きくした程度の大きさで、ノートパソコンと一緒に持ち運ぶことも容易だ
ウルティバが開発したUSB接続のDVB-Tチューナー。USBメモリーを一回り大きくした程度の大きさで、ノートパソコンと一緒に持ち運ぶことも容易だ
[画像のクリックで拡大表示]
ウルティバのDVB-Tチューナーに付属するテレビ受信ソフト。地域を選択するだけで、チャンネル設定が完了する
ウルティバのDVB-Tチューナーに付属するテレビ受信ソフト。地域を選択するだけで、チャンネル設定が完了する
[画像のクリックで拡大表示]
MSIが開発したDVB-T対応テレビ。解像度は320×234ドットで日本のワンセグとほぼ同等。背面の黒い板状のものがアンテナで、180度回転する仕組みになっている
MSIが開発したDVB-T対応テレビ。解像度は320×234ドットで日本のワンセグとほぼ同等。背面の黒い板状のものがアンテナで、180度回転する仕組みになっている
[画像のクリックで拡大表示]

 2006年6月12日に開催されたサッカー・ワールドカップの日本戦。多くの人が家路に急ぎ自宅で生中継を観戦したようで、深夜にもかかわらず60%を超える瞬間最高視聴率を記録した。一方で、職場で残業に追われていた人や、やむを得ない事情で外出していた人も少なくないだろう。ワンセグ対応の携帯電話機を購入済みの人などを除けば、ほとんどの人は職場のパソコンや携帯電話機でニュースサイトを頻繁にチェックし、“一喜三憂”していたことだろう。

 ワールドカップのような世界的なスポーツイベントに関心があるのは海外も同じだ。欧州では今回のワールドカップに合わせるように、「DVB-T」という方式による地上デジタル放送の本放送が始まっている。開催国であるドイツを始め、英国やフランス、スペインなど約10カ国でDVB-Tの本放送を開始済み。DVB-Tはアジアにも広がっており、「COMPUTEX TAIPEI 2006」の開催地である台湾でもDVB-Tの本放送を始めている。今後はさらに、東欧や東南アジア各国でもDVB-T方式の地上デジタル放送が始まる予定だ。ちなみに、DVB-Tの規格策定組織であるDVBプロジェクトでは、DVB-Tの採用地域をWebサイトで公開している。

 こうした背景を受け、COMPUTEX会場ではDVB-Tに対応した受信機器の展示が盛んであった。ただし日本と異なる点もある。日本で地上デジタル放送の受信機器といえば、薄型テレビやDVDレコーダー、いわゆるテレビパソコンといった大型の機器が主体だ。しかしCOMPUTEXにおける展示のメインは、パソコンに外付けするタイプのチューナーであった。

PCカードやUSB端子で接続、録画も可能

 例えば、「PixelView」ブランドでグラフィックスボードなどを販売している台湾プロリンクマイクロシステムズ(宝連電脳公司)は、USB接続の「PlayTV 505 DVB-T Plus」と「PlayTV 550 Hybrid」、PCカード型の「PlayTV Mobile 4in1」の3製品を実演展示していた。会場ではPlayTV 505 DVB-T PlusとPlayTV Mobile 4in1の両方を挿したノートパソコンで、2番組を同時に視聴するというデモを実施していた。またPlayTV 550 Hybridはきょう体内部にアンテナを組み込んでおり、別途アンテナ線を接続することなく、屋外などでDVB-Tを視聴できる。いずれの製品も、受信したデジタル放送の映像をMPEG-2形式で録画する機能、映像を静止画としてキャプチャーする機能、番組を録画しながら再生や早送り/巻き戻しをするタイムシフト機能などを備えている。

 無線LAN機器などを手掛ける台湾ウルティバ(碩広科技公司)も、USB接続の「TA-100A」を実演展示。ロッドアンテナで放送波を受信できるほか、ロッドアンテナを外してアンテナ線を取り付けることもできる設計としている。さらに同製品は、世界各地で放送されているDVB-Tのチャンネル設定ソフトを添付しているのが特徴だ。「DVB-Tを放送している地域であれば、どこへ行っても設定の手間なくすぐに視聴できる」(ウルティバ説明員)と胸を張る。プロリンクの製品と同様に録画やキャプチャー、タイムシフトなどの機能を持ち、価格は「小売りなら30米ドル。ロットで取引するならさらに安くする」(ウルティバ説明員)という。

 大手メーカーも製品を投入している。台湾アスーステック・コンピューターはUSB端子、PCIバス、ExpressCard型で計5製品のDVB-Tチューナーをラインアップ。ショーケースでの展示だけでデモはなかったものの、既に欧州各国や台湾で一部製品を市販している。

著作権保護の議論はこれから

 日本のISDB-T方式による地上デジタル放送では、パソコン用の外付けチューナーはほとんど存在しない。その一方で、DVB-T方式の地上デジタル放送ではこれほど多数の外付けチューナーが製品化されている。この違いの原点にあるのは、両方式の著作権保護に対する取り組みの違いだ。

 日本では2004年4月5日以降、地上デジタル放送(ISDB-T方式)とBSデジタル放送にスクランブルが掛けられ、これを解除して番組を視聴するにはB-CASカードを受信機器に挿入することが必須となった。さらに「1回だけ複製可能(コピーワンス)」の信号を放送波に付加している。これらの施策により、デジタル放送の複製に歯止めをかけ、仮にコピーワンス信号を無視して映像を複製するような機器が作られても、そうした機器はB-CASカードの発行審査の段階で排除できる仕組みとしている。さらに、著作権保護されたハイビジョン映像を、例えばDVDレコーダーからテレビへと機器をまたいで伝送するには、著作権保護技術のHDCPに対応したHDMIやDVIなどの端子が必要となる。

 デジタル放送の本格的な普及に先立ちこうした措置を講じたことで、テレビ局などが持つ映像の著作権を保護する仕組みは整った。一方で、厳格な仕組みが存在するゆえに、パソコンに外付けするようなデジタル放送用チューナーの製品化が極めて困難なのも事実である。

 これに対しDVB-Tでは、著作権保護に関する規制は議論半ばだ。DVBプロジェクトでも「DVB-CPCM(content protection & copy management)」という著作権保護規定を策定中である。日本と同様に伝送経路での暗号化やコピー回数を制限する信号の付加などを盛りこむ予定だ。規定のドラフトは公開済みだが、現段階では規定の最終決定には至っていない。

 今後、DVBプロジェクトでの議論が深まり、著作権保護を厳格化する流れができれば、機器メーカーも対応を迫られる可能性がある。今回のCOMPUTEXで見られたように、ほぼ無制限に視聴や録画ができるという環境が、今後制約されることも考えられる。ただし、既に豊富な機能の外付けチューナーが広く流通しているところに、後から規制を追加するのは一筋縄ではいかない可能性もある。

MSIの小型テレビが人気

 こうした外付けチューナー以外の製品も、COMPUTEX会場で展示されていた。台湾マイクロスター・インターナショナル(MSI)は、4.2型液晶を搭載した手のひらサイズのDVB-T対応テレビ「D310」を展示していた。同社は携帯型音楽プレーヤーや携帯型映像プレーヤー(PMP)を多数開発しており、そうした製品群の一環としてDVB-T受信機能を備えた製品を投入した。小型ながら電子番組表(EPG)や字幕放送、リモコン、映像の外部出力など、豊富な機能を備える。SDメモリーカードのスロットがあり、MPEG-4形式の動画ファイルを再生可能。連続視聴時間は3時間、重さは180g。会場ではD310を大量に並べ、一斉にDVB-Tのテレビ映像を映し出すデモを実施。来場者の注目を集めていた。