写真1 サーバー・ツール担当上級副社長のBob Muglia氏
 米Microsoftのサーバー・ツール担当上級副社長であるBob Muglia氏(写真1)は6月11日(米国時間),米ボストンで開幕したシステム管理者向けのイベント「TechEd 2006」の基調講演でサーバー製品などのロードマップなどを説明した。Muglia氏は「Microsoftはシステム管理者に4つのことを約束する」と述べた。それは,サーバー製品を通じて,(1)システムの複雑の解消,(2)企業情報を保護,(3)ITソリューションでのビジネス拡大,(4)人々の力の増幅---を実現することだという。

 Muglia氏は冒頭「われわれは,企業の成長にとって最も重要な要素が『人』であることを理解している。そして,企業内の人を助け,人の生産性を向上させるシステム管理者(IT Professionals)や開発者こそが,現実世界のヒーローなのだ」と力説した。今回の基調講演は,そんなヒーロー達に「約束する」という形式で進行した。

約束1:Longhornでシステムの複雑さを解消する

 約束の1つめである「システムの複雑さの解消」については,次期サーバーOS「Windows Server Longhorn」(開発コード名,以下Longhorn Server)に搭載される仮想化技術を紹介した。Microsoftは今後,仮想化に関して3つのアプローチをとる。1つは従来からある「ハードウエア仮想化」であり,先日無償化した「Virtual Server 2005 R2」などがこれに相当する。2つめのアプローチは,Longhorn Serverへの仮想化技術の搭載であり,これは「OSサービスの仮想化(OS Services Virtualization)」(写真2)と呼んでいる。3つめのアプローチは「アプリケーション仮想化」(写真3)というもので,5月に買収した米SOFTRICITYの技術が相当する。


写真2 OSサービスの仮想化(OS Services Virtualization)
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写真3 バージョンの異なる業務アプリケーションを同時に複数実行させられる「アプリケーション仮想化」 [画像クリックで拡大表示]

 このうちアプリケーション仮想化は,「同一システム上で,バージョンの異なる業務アプリケーションを同時に複数実行させられること」(Microsoft)が利点だという。ハードウエア仮想化やOSサービス仮想化は,別のマシン(OS)上で個別のアプリケーションが動作する。アプリケーション仮想化の場合,稼働しているマシンやOSは1台分だけで済む。

 またLonghorn Serverでは,既存のサーバーを仮想環境に移行するツールを充実させる。既存のサーバー設定やアプリケーションなどを簡単に仮想環境に移行できるようになれば,サーバーの集約も容易になる。

約束2:サーバー用のウイルス対策ソフトで企業情報を保護

 2つめの約束である「企業情報の保護」については,サーバー用ウイルス対策ソフトである「Antigen」と,統合型セキュリティ・サーバーの新バージョン「ISA Server 2006」を紹介した。

 AntigenはExchange Server用のウイルス対策ソフトである。先週,新バージョンが完成したばかり。この新バージョンの特徴は,複数のベンダーのウイルス検出エンジンを利用できる点にある。「ウイルス検出エンジンにはそれぞれ,『マクロウイルスに強いエンジン』『ワームに強いエンジン』といった特徴がある。複数のエンジンを組み合わせることで,より強固なセキュリティを実現する」(Microsoft)と説明している。

 またAntigenについては,コラボレーション・サーバーのSharePoint Server対応品もリリースする。実はSharePoint Serverは,共有ファイルをデータベースに格納している。このため,通常のファイル・スキャンではウイルスを検出できない。SharePoint用のAntigenは,SharePointの共有フォルダにファイルがアップロードされる際に,ファイルをスキャンする。ウイルスかどうかの検査だけでなく,クォータ・サーバー製品が備えるような「特定の拡張子のファイルのアップロードをブロックする」といった機能も持つ。なお,ウイルス検出処理はファイル内部もスキャンするので,音楽ファイルの拡張子を「txt」などに偽装しても,それが音楽ファイルだと見抜けるという。

 一方,ISA Server 2006には「ISA Server Web Access 2006」という機能が搭載される。これは,リモートから社内のExchange ServerやSharePoint ServerにWebブラウザを使ってアクセスしようとするユーザーに対して,単一の玄関ページを提供する機能だ。しかも,単純にアプリケーションの画面を見せるのではなく,ユーザーやグループによってアクセスできる情報を制御して,それに合わせたページを返信することができる。

約束3:UI開発ツールExpressionでITソリューションによるビジネスを拡大

 3つめの約束である「ITソリューションでのビジネス拡大」については,アプリケーションのユーザー・インタフェース開発ツールである「Expression」(写真4)を紹介した。

写真4 UI開発ツール「Expression」の画面

 Expressionは,Windows Vistaに搭載されるグラフィックス・サブシステム「Windows Presentation Foundation」上で動作するアプリケーションや,アプリケーションのユーザー・インタフェースの開発ツールである。特徴は,ドロー・ソフトのようなユーザー・インタフェースを持っていることで,デザイナー向けのツールである。3次元CGなどを使ったアプリケーションを簡単に開発できる。Microsoftの主張は「業務アプリケーションの見た目や使い勝手(ユーザー・エクスペリエンス)も,生産性向上のための重要な要素である」ということだ。

約束4:次期Officeなどで人々の力を増幅させる

 4つめの約束である「人々の力の増幅」に関しては,2006年10月に出荷開始される「2007 Microsoft Office system」や,それからやや遅れて出荷される「Exchange Server 2007」,2007年中の出荷が予定される企業向けメッセンジャ・ソフトの次期版「Office Live Communications Server 12」が紹介された。

 基調講演で特に強調されたのは,Exchange Server 2007が電子メールだけでなく,音声メッセージやインスタント・メッセージなどもコントロールする「ユニファイド・メッセージング・サーバー」になることである。例えば,Exchange Server 2007では,SIPサーバーなどと連携して,ボイス・メッセージが受信できる。ボイス・メッセージの受信機能自体は従来版にもあるが,Exchange Server 2007のクライアント・ソフトである「Outlook 2007」の場合,Outlookの画面でボイス・メールを再生できる(従来版ではボイス・メールは音声添付ファイルだった)ほか,ボイス・メールを聞いたユーザーがそのボイス・メールにテキストのメモを追加できるようになる。「聞いた内容をメモしておけば,ボイス・メールの検索がそのメモから可能になる」(Microsoft)という。

 またExchange Server 2007には,ユーザーが電話を使って音声だけで受信トレイの情報を利用する機能も搭載される。これは,電話を使って合成音声による電子メールの読み上げを聞いたり,ボイス・メールを聞いたりする機能である。

 このほか,Exchange Server 2007とLive Communications Server 12を組み合わせると,インスタント・メッセージの履歴をOutlook 2007で管理できるようになる。「これまでは,インスタント・メッセージを使う場合にメッセンジャー・ソフトを立ち上げる必要があったが,Exchange Server 2007からは,Outlookの操作だけで済むようになる」(Microsoft)という。