写真1 基調講演に立つ最高技術責任者のRay Ozzie氏
 米Microsoftの最高技術責任者(CTO)であるRay Ozzie氏(写真1)は6月11日,米ボストンで開幕したシステム管理者向けのイベントTechEd 2006の基調講演で,「ソフトウエアのサービス化」に関するMicrosoftのビジョンを明らかにした。Ozzie氏は「Microsoftは,インターネット上で提供されている先進的なサービスを既存の企業システムに簡単に取り込める『クライアント/サーバー・サービス・モデル』を提唱する」と語った。

 Ray Ozzie氏はグループウエア「Lotus Notes」やP2P型グループウエア「Groove」の開発者として知られる人物。Ozzie氏が創業したグループウエア・ソフト・ベンダー米Groove NetworksがMicrosoftに買収されたのに伴い,Microsoftの最高技術責任者に就任した。

ソフトウエアのサービス化は「断絶的な進歩」

 Ozzie氏はソフトウエアのサービス化を「Service Disruption」と表現する。Disruptionは断絶といった意味で,ソフトウエアのサービス化が緩やかな進歩ではなく,急激で過去とのつながりがない(=断絶的な)進歩であることを意味している。Ozzie氏は,ITの世界では「Mini Computer Disruption」「PC Disruption」「Client-Server Disruption」「Web Disruption」「Peer to Peer Disruption」など,断絶的な進歩が何度も起こっていると指摘する。

 急激な進歩の原動力となっているのは,プロセッサやメモリー,ストレージ装置の大幅な低価格化,すなわち「Cheap Revolution」だ。Ozzie氏は「携帯電話機に入っているプロセッサの処理性能は,私が学生のころのスーパーコンピュータの処理性能に匹敵する。パソコン用のプロセッサはマルチコア化が進み,5年後までには1チップに32個のコアが入っているだろう。ストレージの低価格化も目覚しい。10年前,ノート・パソコンの『ThinkPad』に800Mバイトのハードディスクが搭載されて大いに喜んだものだが,今ではデジタル・カメラ用の1GバイトのSDカードがわずか25ドルで手に入る」と振り返る。

 チープ・レボリューションの恩恵を利用して,米Microsoft,米Yahoo!,米Googleの3社が,データセンターの拡充を猛烈なピッチで進めている。インターネット上で利用できるソフトウエア・サービスが,今後も確実に増加するのは間違いない。Ozzie氏は「個人,中小企業,大企業にかかわらず,すべての人がサービスとしてのソフトウエアを利用することになる」と主張する。

クライアント/サーバー・サービス・アプローチを推し進める

 これまでソフトウエアをパッケージ販売してきたMicrosoftが,どのようにソフトウエアのサービス化に対応していくのか。Ozzie氏はMicrosoftのアプローチを「クライアント/サーバ−・サービス・アプローチ」と表現する。これは,「既に,クライアント/サーバー・モデルで完成されている企業システムに,インターネット上で提供されている先進的なサービスを容易に取り込めるようにする手法」(Ozzie氏)だという。Ozzie氏は例として,P2P型グループウエアの「Groove」を紹介した。

 Grooveは,インスタント・メッセンジャのように,ユーザー同士がスケジュール情報やファイルなどのデータを直接やりとりする。利用するのに必要となるサーバーは,ユーザー同上のセッションを成立させるSIPサーバーのようなものだけだ。しかもMicrosoftがインターネット上でこのサーバーを公開しているので,ユーザーがわざわざ設置する必要はない。

 企業によっては,サーバーを介さずにクライアント同士でデータをやりとりすることを好まく思わないケースもある。そこで,Microsoftは,Grooveの通信を監視できる「Groove Enterprise Management Server」というサーバー製品も提供する(写真2)。社外のGrooveユーザーとは,このサーバーを経由して通信させる仕組みだ。「Grooveは,中央にサーバーが存在するクライアント/サーバー・ベースでの利用にも対応する」(Ozzie氏)わけだ。

写真2 Groove Enterprise Management Serverを使うシステム構成

Active Directoryと「Windows Live Identity Service」を連携させる

 中小企業向けの業務アプリケーション・サービスである「Office Live」も例として紹介された。Office Liveは,メール・ホスティングやWebホスティングのほか,Microsoftのコラボレーション・サーバー「Office SharePoint Server」などを提供するサービスである。

 今回の基調講演では,Office Liveなどで使われる認証サービス「Windows Live Identity Service」(旧名称は「.NET Passport」並びに「Microsoft Passport」)と,企業用ディレクトリ・サービスであるActive Directory(AD)とを連携させる計画であることが紹介された(写真3)。

写真3 Windows Live Identity ServiceとActive Directoryが連携する

 Windows Server 2003 R2には,「Active Directory Federation Service」という機能が追加されており,これは自社のADと他社のADを連携させるものだった。この機能を使うと,ADを認証に利用する業務向けWebアプリケーションを,他社のADで認証されたユーザーにも利用させられるようになる。社外のユーザーを自社のADに追加する必要がないので,ADをよりセキュアに運用できる。

 今回の発表は,このFederation機能の対象を,Windows Live Identity Serviceにも広げるというものである。ADにログオンしたユーザーが,Microsoftのソフトウエア・サービスをシングル・サインオンで使えるようになるほか,Windows Live Identity Serviceで認証を受けたユーザーに自社アプリケーションを開放できるようになる。

サービスとしての管理『MaaS』を提供

 Ozzie氏はもう1つ「サービスとしての管理(MaaS:Management as a Service)」という概念も紹介した。Microsoftは,パソコンなどの管理機能も,サービスとして提供する考えだという。「現在多くの企業で,私物のノート・パソコンやUSBメモリー・キーの持ち込みが問題になっている。しかし,これらが持ち込まれるのは,それが便利だからだ。企業の情報を守りながら,これらのデバイスを利用可能にする必要がある」とOzzie氏は語る。ところが,クライアント管理ソフトなどの導入は容易ではない。そこで面倒なクライアント管理を,サービスとしてMicrosoftが提供しようというのだ。

 今後登場する製品やサービスの中でMaaSの方向性を示しているのが,企業向けクライアント・セキュリティ・ソフトの「Forfront」と,Exchange Serverのホスティング・サービスである「Exchange Hosting Services」である。Forfrontは従来「Windows Client Protection」と呼ばれていた製品で,今回製品名が「Forfront」に変更された。

 Forfrontに関しては,現時点ではウイルス対策機能しか明らかになっていないが,今後はコンテンツに対するアクセス制限といった,クライアント管理機能も実装されるという。

 Exchange Hosting Servicesは,メールのフィルタリングやアーカイブ,ディザスタ・リカバリなどの機能をホスティング・サービスとして提供する。自社で運用するのが面倒なサーバー機能を,Microsoftがサービスとして提供するものだ。

 Ozzie氏は「エンタープライズ・サービスとインターネット・サービスをまとめあげることが,現在のわれわれのミッションだ」と発言を締めくくった。