中国の検索サイトには、Googleと肩を並べる存在がある。「百度」(中国語での発音はバイドゥ)だ。メディアや報告書によって、どちらが人気があるかの評価はまちまちだが、両者とも中国の検索サイトの中では飛びぬけた存在であるのは確か。Googleにとって無視できないライバルである百度とはどのようなサイトなのか、ビジネスモデルや歴史など、まだ中国国外ではあまり知られていないその姿を紹介する。
トップページのデザインはGoogleに似てシンプルだ。しかし、同じキーワードで検索すると両者の検索結果はかなり違う。Googleの場合はキーワードに関した企業やそれに関する著名サイトが検索結果の上位に出るが、百度は必ずしもそうではない。
検索結果に違いが生じる理由は百度のビジネスモデルに直結する。百度に対して出稿する広告主は、自分のWebページを表示させたい検索キーワードを買う。ここまでは他の検索サイトと変わらない。百度の場合、キーワードに入札した金額が高ければ高いほど実際の検索結果の上位になる。Googleのアドワ−ズ広告が検索結果自身に含まれていると考えればいい。
また百度は広告ビジネスのほか、検索機能を元にした企業・政府向けの情報収集システムも手がけている。
Infoseekエンジニアが創立者
百度の本社は中国国内の主要IT企業が集まっている北京の「中関村」に位置する。中関村は、日本の秋葉原に匹敵する中国最大のパソコンショップエリアでもある。
百度の会社設立は2000年の元旦。米国から中国に帰国したばかりの李彦宏(li-yanhong)と徐勇(xu-yong)が創立し、その年の6月に検索サイト「百度」を公開した。2005年8月に米ナスダックに上場を果たしている。
李は米国滞在時は上級エンジニアとしてInfoseekの開発に携わった。百度の立ち上がり当初は、既にWebサイトとしての地位を確立していた「硅谷動力」「捜狐」「新浪」「TOM」などのポータルサイトに、百度の検索エンジンを提供していた。
これらのサイトでの実績が評価され、中国人の手による中国語検索エンジンとして不動の地位を得ると、それまで百度の検索サービスは提供していなかった大手ポータルサイトである「網易」「Yahoo!中国」などにも導入されることになった。
現在では、地図検索、ニュースサービスやユーザー同士が質問に答え合うQ&Aサービスなど、検索以外のサービス(日本版Googleでいう「もっと Google」にあたるサービス)も充実させ、中国のネットユーザーに広く認知されるに至っている。
中国において、百度とGoogleどちらが優れているのか。この問題は検索サービスについては「Googleは中国でどの程度劣るのか」と言い換えた方がいいかもしれない。
Googleは今年に入るまで、サーバーは中国にはなく、レスポンスは当然国内にある百度のほうが圧倒的に早かった。また速度面のほか、機能も他国のGoogleに比べ制限がある。例えば、検索結果に表示されるキャッシュが使えなかったり(キャッシュのリンクをクリックしてもリンク先のページが表示されない)、イメージ検索ができなかったりなどだ。そのほかにもキーワードによっては、検索結果が表示されないこともある。
百度は中国国内のみに絞ってサービスを展開しているため、提供中のサービスの数でGoogle中国に差をつけている。検索系のサービスでいえば、キーワードによるWebサイトの検索やイメージ検索だけでなく、検索対象を特定の省に絞る「地区捜索」、政府サービスの検索に絞る「政府Webサイト捜索」、mp3ファイルなどの音声ファイルに対象を絞り、かつ百度上でそれが再生できる「mp3捜索」などがある。
ただ、この「mp3捜索」については、昨年海賊版流通の手助けをしたとして、レーベル会社数社から著作権法違反で訴えられ、敗訴している(サービスは2006年5月31日現在も提供中)。
地図やイエローページ、辞典などのサービスも提供
検索以外のサービスでは、中国の地図に特化した電子地図サービス「百度地図」、中国大陸全土の都市をカバーするイエローページ「百度黄頁」、英中辞典「百度辞典」、Wikipediaのような「百度百科」、日本でいえば青空文庫のような、昔の中国の詩や小説を集めたサイト「百度国学」、郵便番号検索サービスの「百度郵編」などがある。これらはいずれも、Google中国にはないサービスだ。
一方で、Googleの提供するサービス「ニュース」「掲示板」「デスクトップサーチ」は百度も同様に持ち合わせている。サービスの多様さという点では、Googleに対する百度のリードは大きい。
ただ、調査によってはGoogleの方が人気であったり、百度の方が人気であったりと、ばらつきがある。それはメインサービスである検索サービス利用時の検索結果に対する評価といえるだろう。検索結果自体に広告を入れる百度のビジネスモデルは、検索サービスのクオリティーに影響を与えざるを得ない。Googleが「谷歌」と自らの中国名をつけて、中国市場開拓に本腰を入れた今、百度は、自らの検索サービスのあり方、ひいてはビジネスモデルを見直さざるをえなくなるかもしれない。