米Microsoftに対する欧州連合(EU)の独占禁止法(独禁法)違反裁判が進むにつれ,Microsoftと欧州委員会(EC)双方の弁護士は,Windows Media Player(WMP)非搭載版Windows XPである「Windows XP N」と,Microsoftが「ただ乗り」と称するメディア・プレーヤ市場の競合他社について,対立する構えをみせている。ところが,Windows XP Nの悲惨な販売実績については,両者の見解は一致している。対立しているのは,販売不振の原因だ。

 EUはMicrosoftの独禁法違反に対して下した判決のなかで,WMP非搭載版Windows XPの開発を命じた。1年後にWindows XP Nを完成させたMicrosoftは,欧州で店頭販売を開始したほか,パソコンにバンドルしようとした。Microsoftによると,これまでに小売店で売れたWMP非搭載版Windows XPは2000本に達せず,バンドルした大手パソコン・メーカーは1社もなかったという。「これは,EUの判決が無駄だったことの証しだ」(Microsoft)。

 EUの言い分はMicrosoftと異なる。判決でWindows XP Nの割引販売を求めなかったため,Microsoftは通常版Windows XPと同じ価格で売ることにした(しかもMicrosoftは,Windows XP Nの販促活動を全く行わなかった)というのだ。EC弁護士のPer Hellstrom氏は「Microsoftが通常版とWMP非搭載版のWindows XPを同一価格で販売するなら,ECとしては,現在の市場状況を鑑みて新たな方針を検討する必要に迫られる」と述べた。さらにHellstrom氏は「近い将来EUは判決の内容を見直し,Windows XP Nの価格を下げるようMicrosoftに命ずる可能性がある」と付け加えた。

 4月26日の審理では,EUが判決でMicrosoftに命じた別の項目が取り上げられた。この命令は,Microsoftに競合他社への技術文書を提供させ,Windows Server製品と相互接続可能な製品の開発を支援するというものだ。Microsoftはこれまで何度も文書の提供計画を遅らせてきた。そのうえ,提出した文書の内容がお粗末ということで,EUともめている。審理のなかでMicrosoftの弁護団は,「文書の提供命令は競合他社に『ただ乗り』を許すもので,当社に『永久的な』ダメージを与える」との不満を訴えた。

 Microsoft弁護士のIan Forrester氏は「EUの要求は,価値の高い知的財産を無料で提供することになる」と指摘し,「この決定は,ある企業が他社から膨大な機密技術の開示を要求されて『イエス』と答えないことを否定するものである」と述べた。EUと複数の業界団体は,Microsoftの主張を認めなかった。反Microsoftを掲げる業界団体European Committee for Interoperable Systems(ECIS)の弁護士であるThomas Vinje氏は,「Microsoftがこの件を本来と違う知的財産の問題に変えようとしている」とした。「この事件は,支配的地位の乱用を問題としており,メーカーに情報提供を拒んでいることが問題なのだ」(Vinje氏)。もちろんEUがMicrosoftに要求したものは,競合他社の開発者がWindows Serverと互換性のあるソフトウエアを書くのに利用できる,完全で正確なサポート・マニュアルである。