かねてから噂されていた米Googleのインスタント・メッセージング(IM)が発表された。その名は「Google Talk」(関連記事)。音声チャットによる無料IP電話をも統合したサービスだ。

 Google社は今週,デスクトップ検索アプリの新版「Google Desktop 2」も発表している(関連記事)。先週末には,約1416万株を新たに公開し,総額41億ドル強を調達するといったニュースが報じられるなど,ここのところ連日メディアを賑わしている。今回は米メディアやGoogle社の資料などを見ながら同社についてレポートしてみる。

簡素なGoogle Talkに賛否両論

 IMサービスのGoogle Talkは,米国時間8月23日の遅い時間に利用可能になった。同社の多くのサービス同様,無料で利用できる。まだベータ版であり,いつ正式版になるかは不明ということもほかのサービスと同じだ。Google Talkは作りが至極シンプルというのが特徴で,これを巡ってさっそく賛否が分かれている。小さいアプリのため軽快で,インタフェースは単純明快。余計なウインドウやパネルも出てこないため画面が散らからないといったメリットがある(Google TalkのWebサイト)。

 その反面,グループ・チャット機能,ファイル転送機能,エモーティコン,相手を探す機能はない。同社の真骨頂であるWeb検索やニュース表示といった機能もない。これでは同社の技術を生かせていないのではという声が多い。

 Google Talkは「Jabber」ベースであるため「Trillian」「Adium」「Psi」や米Apple Computerの「iChat」などと互換性があるのが特徴だが,3大IMサービスの「AOL Instant Messenger」 「Yahoo Messenger」 「MSN Messenger」には接続できない。ComScore Media Metrix調査によると,IM市場の現在のユーザー数は,AOLが4160万人,これにYahoo!の1900万人,MSNの1400万人と続いている。Google Talkの成功はこれらIMと相互接続することにかかっているという(掲載記事

なぜGmailと一緒なのか

 Google Talkは,同社のメール・サービス「Gmail」のアカウントがなければ利用できず,このことが「奇妙だ」と言われている。Gmailは既存アカウント保有者からの紹介がなければ新たなユーザーがアカウントを取得できない。約2.5Gバイトものメール保存容量を提供するのだから,ユーザーの数を制限するのは分かる。しかしなぜGoogle TalkをこのGmailのアカウントと結びつけたのかが摩訶不思議,というわけだ(米CNET News.Comの記事)。

 ただしGoogle社は,Google Talkの開始と同時にGmailアカウントの取得条件を緩和した。これまでGmail既存アカウント保有者からの紹介がなければ新たなユーザーがアカウントを取得できなかったが,同日より同社Webサイトで米国の携帯電話番号を入力することで簡単に取得できるようにした。1つの電話番号に付き10アカウントまで提供するという。

 同社の発表資料によれば,Google社は効率的な即時コミュニケーションと情報共有の重要性を認識しており,こうした,同社が技術革新できる分野への投資を今後も続けていくと説明している(発表資料)。メールもIMも,またWeb検索であろうと,それらは情報共有という点で一致しているというわけなのだろうか。

名称から「Search」が消えた「Google Desktop 2」,ユーザーの情報を一手に

 Google社はいったい何を狙っているのだろうか。

 英Ruetersが伝えるところによると,Google TalkについてGoogle社から説明を受けたKelsey GroupのアナリストGreg Sterling氏は,「(IMは)これまで以上に大きなインターネット・メディアに変貌するというGoogle社の大規模戦略で欠けていた部分」(同氏)と述べたという(掲載記事)。

 これを聞いて少し謎が解けるような気がする。Google Talkの前日に発表したGoogle Desktop 2もこの大規模戦略の一環と考えられるからだ。同アプリは今年3月にリリースした「Google Desktop Search 1.0」の後継版だ。この新版では名称から「Search」の語がなくなった。パソコンのハード・ディスク内を検索するだけでなく,GmailのメッセージやRSS/Atomフィード,ニュース,株価情報,気象情報,写真といったWeb上のさまざまな情報にアクセスできるからだ。そしてそれら情報を小型の縦長ウインドウ「Sidebar」を介して表示する(発表資料)。

 前回の本コラムで,Yahoo!社が買収したWidgetsアプリ「Konfabulator」に触れた(関連記事)。Google Desktop 2もこのKonfabulatorと同様に,各種機能をプラグインとして追加でき,そのプラグインを作るためのSDKも用意されている。KonfabulatorのWidgetのようにJavaScriptで誰でも簡単に開発できるわけではないが,その可能性が広く一般に開放されていることは同じだ。今後さまざまなプラグインが開発/提供されることだろう。そしてGoogle Desktop 2の場合,その"居場所"はWidgetのようにデスクトップの背景ではない。Sidebarがしっかりとデスクトップの表舞台に登場するのだ。

 前回のコラムでは,Yahoo!社によるKonfabulatorの提供でパソコン画面の争奪戦が始まる予感がする,とレポートした。しかしもはやそんなのんきな状態でなくなった気がする。Google社はこのGoogle Desktop 2でデスクトップの陣取り合戦に本格的に乗り出した。さらにGoogle TalkやGmailの融合でユーザーの情報共有を一手に握ろうとしている。そして,ニュース,地図,ショッピング,ブログ,写真共有といった,これまのサービスも組み合わせ,プラットフォーム全体を制覇する。そんな方向性が一気に強まった感じだ。

無線LANやクライアント機にも進出?

 Google社が米国時間18日に新たな株式公開を発表したとき,さまざまな憶測が飛び交った。調達する40億ドルの資金で何をするのかという噂だ。突拍子もないものにはルクセンブルクSkypeや米TiVoを買収するのではないかという話もあった(掲載記事)。

 しかしGoogle社は,Yahoo!社やMicrosoft社とは異なる。同社は既存の技術や会社を買うのではなく,むしろ市場を一から作り出すことを好む。既存の技術を使うにしても,それを再定義し市場に投入する——New York Timesの記事はこう分析している。

 同紙によれば,Google社はかねてから公共WiFiネットワーク(関連記事)やスマートフォンなどに興味を持っている。また同社はマサチューセッツ工科大学の100ドル・ノート・パソコン開発プロジェクトに200万ドルを投資している。こうしたプロジェクトによって開発される多機能の小型モバイル機器で,同社サービスの顧客リーチが一気に広がる可能性があるという(New York Timesの記事)。

 Google社がこの記事のようなことを狙っているのかは実のところ分からないが,今後も同社のスローガン「世界中の情報を整理して,あまねく人が便利に使えるようにする」を基盤に事業展開していくことは確かなようだ。そしてこのことがYahoo!社やMicrosoft社の脅威になることも確かなようである。Google Talkは今,その作りが簡素なため「石器時代の代物」などと揶揄されている。しかし決して侮れない存在である。

◎関連記事
米Google,音声チャット可能なIMサービス「Google Talk」のベータ提供を開始
米Google,米政府機関の機械翻訳テストで首位を獲得
米Google,パーソナライズ機能を強化したデスクトップ検索アプリの新版
Google,Wordからブログへ直接投稿するためのツールを公開
「2005年7月の米国検索エンジン・ランキング,『Google』が引き続き首位」,米調査
米Googleが対応言語を拡大,合計116カ国語をサポート
米AOL,IMのホーム・ページ「AIM.com」と情報ウインドウ「AIM Today」を刷新
IPOから1年の米Google,約1416万株を新たに公開へ
米Yahoo!,ユーザーによる格付け機能などで地域検索サービス「Yahoo! Local」を強化
米A9.com,通りの風景写真を表示する地図検索サービス「A9.com Maps」
米Yahoo!のKonfabulator買収で始まる「デスクトップの場所取り合戦」の予感
米Yahoo!,より正確に広告のインプレッションを測定する新システム導入を発表
「米Googleと米Microsoftの衛星画像による地図検索サービスは後者に軍配」,米調査
中国のオンライン検索ベンダー百度がNASDAQでIPO実施
米Yahoo!,オーディオ検索サービス「Yahoo! Audio Search」のベータ版を公開
検索サイトは“地球規模”の競争へ
米Google,RSSフィードに文脈型広告を挿入する技術で米国特許を申請
元米Microsoft幹部の米Google移籍に米上位裁判所が仮差し止め命令